大盛りメニューにする勢いで、買うイヤホン
ワイヤレス・ヘッドホンとして最高音質のレビューを獲得したSennheiser(ゼンハイザー)のMOMENTUM Wirelessヘッドホンでしたが、同じくMOMENTUM(モーメンタム)ブランドを冠して、耳に差し込む完全ワイヤレスイヤホンタイプが新発売となり音質通たちの注目を集めています。米GizmodoのAdam Clark Estes記者は複雑な心境でレビューに臨んだようですが...はたしてその評価はいかに。
正直言って、今回のレビューは「ガッカリしたい」という気持ちが少しありました。というのも四年前に耳に被せるタイプのオーバーイヤー・ワイヤレスヘッドホンとしてSennheiser MOMENTUM Wirelessが出されて以来MOMENTUMはBluetoothヘッドホンでは最高峰のクオリティとして基準にされてきたわけです。そして今回、イヤホンタイプの新プロダクトもMOMENTUMの名を冠すると知り、「イヤホンタイプまでSennheiserがトップに君臨するのはフェアじゃない!」と不条理な不満を抱いたわけです。しかし、私の期待を裏切り、最高でした、MOMEMTUM True Wireless。
MOMENTUM True Wireless
これはなに?: ドイツの有名なメーカーが作った完全ワイヤレスイヤホン
価格: 300ドル(日本では3万円台後半で発売予定)
好きなところ: 天下一品の音質
好きじゃないところ: 少し大きいのと、誤タッチしやすい操作感
耳にはめ込むタイプの完全ワイヤレスイヤホンは新しい時代に突入しています。数年前であれば、完全ワイヤレスのイヤホンは大きく、耳から外れてしまいがちでした。バッテリー寿命も酷いものでした。また音質も悪く、マーケットに出された完全ワイヤレスの第1世代の多くはレビューする価値すらないと、記事すら書かれませんでした。とにかくプロダクトとして出来が悪かったんですね。
しかし近年、徐々にワイヤレス・イヤホンはめざましい改善を見せてきました。改善されたサイズとフィット感という点ではBose SoundSport Freeがまず頭に浮かびます。毎日使っても耳が疲れないモデルとして好評です。バッテリー寿命という点では、Jabra Elite 65tが1度の充電で5時間の継続使用という感心する性能を見せました。そして数ヶ月前にはMaster & Dynamicによって高級感溢れるMW07 earbudsが登場し、その音質に多くの人たちが感動したわけです。小さいイヤホンで、かつ良い音質を出すというのは非常に難しいことがマーケットで証明されていたため、これは私にとっては驚きでした。
今回$300(日本では3万円台後半)という価格で出されたMOMENTUM True Wireless 。驚きなのは上に挙げた項目すべてを攻略しているからです。特に最も難しい項目である音質というカテゴリーをクリアしている点が重要です。Sennheiserが誇る音質を、これほどまでの小ささで見事に実現しています。前述の$400のSennheiser Momentum Wirelessオーバーイヤータイプとかなり近いクオリティを聴かせてくれているんです。
音質のカギはそのデザインにあるようです。というのもイヤホン形式でありながらも、ボディ部分は小さいドングリほどの大きさです。外側は再生、一時停止、トラック飛ばし、Siriといったコントロールのためのタッチ操作できる部分があります。そして内側には音を奏でる7ミリのドライバーを内臓。通話用のマイクももちろん内蔵されていて、これはノイズキャンセルにも使われます。
とはいえ、Sony 1000X シリーズのようなノイズキャンセル性能を持っているわけではありません。外部の音を完全に防ぐというよりは、ベーシックなノイズキャンセル技術を使ってよりいい音質の体験を届けよう、という姿勢のようです。自分の環境でなっている音は少しだけこもった音となって聴こえます。またアプリを使って「トランスペアレントモード」にすることで、外の音を聞き取りやすくすることもできます。イヤフォンを取り外さずにとっさに周りの音を聞けるのは助かりますね。アプリには非常にシンプルではありますがイコライザー機能もついています。そしてアプリのトップ画面でそれぞれのイヤフォンのバッテリー残量を表示してくれるのですが、これはかなり便利です。
また便利さという話では、デバイスとの接続もすばらしい出来上がりとなっています。ケースから取り出すと同時にイギリス訛りの女性が「Connected!(接続しました)」と知らせてくれます。「どうやってデバイスと接続するの...?」と悩む必要はありません。快適さという点ではApple AirPodsと比較できるのですが、音質という点ではSennheiserのほうが圧倒的に いいです。
これらの要素がすべて組み合わさって、接続も良く、音質もよく、周囲の騒音からも邪魔されない頼れるワイヤレス・イヤホンが誕生しているわけです。Sennheiserによる他のラインナップ同様、ベース音を大きく鳴らすことで大音量を演出したり、トレブルを強調して人工的に鮮やかな演出にする、ということはしません。彼らが追求しているのは音の正確性です。チェロ楽曲がこの性質を測るのに適しています。バッハの「チェロ組曲第一番Gメジャー」を再生すると、良いチューニングのされたヘッドフォンならば低いベースの温かい震えも、高音の鋭い響きも聴き取ることができます。もちろん、MOMENTUM True Wirelessはこれを見事に聴かせてくれます。
このイヤホンがカバーする楽曲の幅にも感心してしまいます。Ottmar Leibertによる『Barcelona Nights』で奏でられる鋭いギターの音色はパーカッションによる木の音色と心地よく混ざり合います。Rae Sremmurdによる『Guatemala』におけるビートや、Sufjan Stevensによる『Should Have Known Better』における弦の音色でも同様の空気感を鮮明に聞くことができます。そして域の広さを真に示してくれるのがマライヤ・キャリーによる『Caution』です。マライヤの最新アルバムに含まれるこのタイトル・トラックで彼女が放つ笛のような高音域の歌声は、図太いベースのトラックの上でありながら完璧なバランスで再生されます。これはベース部分が悪く強調されていないため、他の音域を引き立たせている結果でもあります。
MOMENTUM True Wirelessイヤフォンと同レベルの音質を提供する他社イヤフォンは、Master & Dynamic MW07くらいです。300ドルという値段ではもう少しファッション的にも攻めた形の、10ミリドライバーを持ったイヤフォンも出されています。それらのベース音はより強調されているため、歌によってはディテールが若干損なわれることになるでしょう。
MW07の場合、耳にぴったりフィットします。個人的にはSennheiserのイヤホンが耳の中に空洞を作って蓋をしてくれるデザインが気に入っています。しかし耳が小さいユーザーにとっては若干大きめのボディがうまくおさまらない可能性もあります。米Gizmodoが誇る小さい耳の持ち主であるシニア・レビュー・エディターのAlex Cranzがこのプロダクトを試したところ、イヤホンは耳から落ちてしまいました。そのため耳が小さい自覚があるユーザーは購入前に装着を試してみるほうがいいでしょう。
他社プロダクトとの比較で記しておくべきなのは、MOMENTUMにはボタンが一切ない点です。タッチ式のシルバーの面を使ってコントロールします。これは若干の慣れを必要とします。私も最初は、耳から取り外すたびに間違えてSiriを呼び出してしまうということがありましたが、側面を指で掴むようにするとそれも無くなりました。これは170ドルのJabra Elite 65tでは起きない問題です。Jabra Elite 65tにはボタンが3つついていて、マイクのアーム部分もイヤフォンのズレを直すのにも使えます。Sennheiserの場合はまん丸なデザインなので位置の調節も繊細なタッチが必要になります。
以上のことから、MOMENTUM True Wirelessは万人向けとは言い難くなっています。ジムで装着するのであれば今プロダクトは跳ねた水がかかる程度のIPX4レベルの耐水性能なので向いていません。(ちなみにApple AirPodは防水でも耐水でもありません、参考まで)。長いバッテリー寿命が必要なのであれば一度の充電で4時間というMOMENTUMのバッテリーは悪くはないものの(Sonyの最新の完全ワイヤレスイヤフォンは3時間になっています)、Jabraの5時間ほどではありません。
音質がいい完全ワイヤレスのイヤフォンを探しているのであれば、Sennheiserは恐ろしいほど魅力的なプロダクトです。もちろん、耳にちゃんとハマること、そして水の近くには行かない、という条件つきです。その音質の高いクオリティに見合う値段もついてきています。300ドル(日本では3万円台後半)ですからね。ワイヤレス・イヤフォン市場では高価格帯です。良い音質にはお金がかかるということです。
Momentum True Wirelessを購入する意義はレストランで大盛りを頼むのとそれほど変わりません。プラスαの料金を支払うことで、ベストな音質を体験できるわけです。安売りのカゴで見つけるようなイヤフォンではないし、ランニングでつけるようなものでもありません。もっと安いもの、もっと頑丈なものがほしければ他にいくらでも見つけられるでしょう。しかしSennheiserの音は楽しめませんよ、ということです。しかし同時に、つけ心地、そして操作感は慣れが必要なことは確かです。
要約すると、一番のトレードオフはその値段となります。トップクオリティの音質を楽しむために作られた技術の結晶である高価なワイヤレスイヤフォン。大きくて快適なイスに座って聴く、というスタイルすらふさわしいと思わせてくれます。ちょっとキザっぽいですが、聴いていると目をつむりたくなるんです。私は、つむりましたよ。