現在世に出ているタブレットPCの作り方は大きくわけると2つ。ひとつはスマートフォンをでっかくしちゃった、iPadのようなもの。もうひとつはラップトップからキーボードを取り去って小さくしたもの。確かにそうやればタブレットらしきものができるんですけど、本当にそんな作り方でいいんでしょうか。
ここ10年ノートPCで液晶が回転するものを除いて、純粋に1枚板のスレートとして出たタブレットは本当に様々。iPad、JooJoo、アンドロイドタブレット、HP Slate、未発表ですがChrome OSタブレット、さらに謎が多いCourier、そしてWindows7が完全動作すると噂されるマイクロソフト・パートナーのタブレットなどなど。これらを基本デザインで大別すると2つに振り分けられます。iPadやアンドロイドタブレットはスマートフォン向けに作られたものの発展形。一方 Windows 7タブレットは古典的なデスクトップをメタファーにしたOSを使い、Chrome OSやJooJooはそこからブラウザだけを残してデスクトップ機能を省いたものと言えるでしょう。
ところでCourierはどうでしょう。実はマイクロソフトは3つめの手法にトライしているようです。すでに取り掛かっていてまだ見ぬ新しいユーザー体験を、Redmondでコツコツと開発していますよ。ただどんなものか、現時点ではまったく想像もつきませんけどね。
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大きくなった携帯電話最初に指摘しましたけど、iPadやアンドロイドタブレットは携帯用に開発されたインターフェースを使い、スクリーンを大きくしたもの。Lenovoの Ideapad U1もこの類ですね。アンドロイドタブレットはアンドロイドのインターフェースをまんまアップスケールしたものですし、iPadはもう少し拡張していて自社アプリは広くなった画面を有効に活用できるように調整しています。いずれも下位互換性は確保していて、携帯電話用アプリが動作します。Lenovoも同じようなアプローチでスマートフォン用ウィジェットベースOSをカスタマイズして作ってます。
ということで、携帯電話用OSから拡張するのはデスクトップOSから機能を省いていくよりもリーズナブルな選択肢といっていいでしょう。ただ問題はそもそも携帯電話の使い勝手が本当にいいのかということ。
なにせ狭い画面で小さい字を、太い指でタッチしなきゃいけないんですから、面倒でしたよね。その点画面が広くなったタブレットであれば、片方の手で本体をもち、もう片方の手でタッチするからより自然。スタイラスを使う場合は筆圧に耐えるよう、本体を抱えるようにしっかりと保持しますけどね。
それと携帯電話のテクノロジーを使っているので、安いのはいいのですが性能がネットブックよりも低いのも気になる点。多くのタブレットはハイエンド携帯と同じCPUを使っていて、例えばアンドロイドタブレットは携帯電話と同じARMプロセッサとNVidia Tegraグラフィックスを使ってますし、iPhoneのApple A4プロセッサもARMベースです。
ですから多くのマニファクチャラーはマルチタスクを最低限にまで抑えてて、Appleにいたってはマルチタスクできません。ただそのおかげでバッテリーライフは結構長めになってますね。
このやり方はある意味妥当で、多くの賛同を得ているのはご存知のとおりです。ただ欠点はないのでしょうか?
携帯電話OSからタブレットを作る場合、どうしてもスタンドアロンのデバイスにできません。画像やビデオ、音楽といったメディアファイルへの直接アクセスできないので、必ず外部のPCとシンクする必要があります。
アプリケーションもかなり制約があります。お互いのアプリが独立して動作しているため、例えばコピー&ペーストといった基本的な連携はできても、アプリ間でのドラッグ&ドロップできません。アンドロイドでは最小限の連携動作はできますが、iPhoneはそもそもマルチタスクできません。これはOSの基本設計の問題で、当然アプリ開発者が対応できる問題ではありませんね。
iPhoneのApp Storeは非常に簡単にアプリを検索、インストールできる仕組みで便利です。アプリは独立して動作するので安定的ですが、それぞれ孤立しているも同然。さらに高性能のデバイスになったときは同時に動かしたくなるケースが増えますけど、携帯用OSをベースにしているとその発展性もありません。
例えばMac上でMailアプリを立ち上げ、友人がiChat上でオンラインだった場合は相手の名前が光り、メールの代わりにIMを使うことが簡単にできます。こういったインタラクティビティが今後必要になってきます。Courierではそれが出来てますね。現在の携帯電話では、1つのアプリから他のアプリに瞬時に切り替えて渡り歩くような芸当ができないし、出来る余地も残されてないんです。
拡張性も同じく貧弱です。互換性は保証されていますけど、限られた周辺機器しか接続することができません。iPadはiPhoneと比べるとキーボードをサポートするなど多少拡張性が上がりましたけど、デスクトップPCと比べるとまだまだ貧弱。キーボードをつないだり、ビデオカメラをFirewireで接続してストレージデバイスにしたり、タブレットを2つつないでスクリーンを2倍にしたり、プリントしたり。
確かにこれらは全部携帯電話デバイスでも可能です。ただし開発者がかなり頑張れば、の話。携帯電話ベースのOSが周辺機器やマルチタスクをサポートしない理由なんて、そもそもはないはず。そう考えるとやはりOSのデザインフィロソフィーの問題なのでしょう。
ただすべてがOSの問題ではありません。現在携帯電話が採用しているハードウェアの性能が、私たちの期待にこたえられているかというとそうでもありません。画面が大きくなったからといってそれに比例してパフォーマンスが上がっているわけではない、ということですね。画面が大きくなれば普通に考えればバッテリーの持ちは悪くなりますし。それでも私たちはタブレットデバイスが携帯電話よりも大幅にパフォーマンスがよくなるのを期待してしまいます。とはいえ、同じアプリをハイレゾで高速で動作させろといっているわけではないですよ。プロセッシングパワーを上げた分、新しい体験がしたいのです。例えばマルチタスクや携帯電話よりも素敵なゲーム、メディア編集機能(もちろんラップトップ並みを求めてません)、全コーデックをサポートしたメディア再生などなど。
つまり人々は大きな画面上で機能アップと性能アップの両方を求めているのです。アンドロイドタブレットはアンドロイド用アプリが多少高速に動作しますけど、劇的というレベルではありません。ウィジェットを使うコンピューティングは実践的で便利ですが、結局サブマシンの領域から出てこられません。もちろんPhotoshopやFinal Cut Proのようなヘビーなアプリを使おうというのではないですし、タブレットがそれに適しているとも思いませんが。
小さくなったPC次にWindowsスタイルのデスクトップメタファーインターフェースを使って、タブレット向けに機能を省略したタイプはどうでしょう。まずHP slateはは基本的にWindows 7が動作しますが、よりタッチインターフェースに特化した TouchSmartスキンをつかってウィンドウズっぽさを失くしてます。他にもたくさんWindows 7ベースのタブレットが出てますが、例えばArchos 9は単純にキーボードを省いただけと考えていいでしょうね。
Windowsベースのタブレットがなぜイケてないかというと、そのアプローチはすでに無理があることが証明されているから。マイクロソフトがWindows XPベースで出したタブレットPCエディションのことを思い出すと、確かによく出来ていましたけど別にそれでなきゃ出来ないことは何もなく、キラーアプリも出てきませんでした。単なるキーボードレスのラップトップでしかなく、あれから何も変わっていません。まあスタイラスの代わりに指が使えるようになりましたけど。
もちろん利点はあります。周辺機器のサポートは万全、アプリのインストールはできるし、もちろんマルチタスクもサポート、他のアプリとの協調動作もできてどんなメディアでも再生できます。つまり廉価版のWindowsラップトップでできることは大抵できると考えていいでしょう。ただ色々なことをやりすぎるともっとパワーが欲しくなります。バッテリーライフは短いしWindowsの欠点、例えばブート、スリープに時間がかかる、ウィルス感染リスクが高いなどの問題も同様です。
HPはタッチPCコンセプトを実現すべく TouchSmart プラットフォームを使って売り込んでます。Windows 7上でマルチタッチをサポートするTouchSmartは実際によく動いてますけど、対応アプリがほとんどないのが現状。HPはslateに望みをかけていますけど、タブレットインターフェースから通常のデスクトップインターフェースに行き来するのはあまりスマートじゃありせんね。
そもそもデスクトップOSはタブレット向けにデザインされたインターフェースではありません。例えばバックグラウンドで動作してたアプリが落ちたり、Nortonユーティリティでバイオレーションの警告画面がポップアップされたらどうでしょう。タブレットっぽい環境にするにはスキン以上のことをしなければいけないのに、携帯電話もWindows Mobileっぽさを隠そうと必死。Courierは開発が遅れたので Windows 7のタッチタブレットをマイクロソフトはプロモーションしてますけど、Windows CE(Windows Mobile)デバイスが遅くてイケてなかったのと同じ間違いをおかしそうな気配。結局標準的なOSの上にタブレットっぽいスキンをかぶせてるだけで、これでは革命は起こせません。
デスクトップライト:ブラウザのみのアプローチ正直にいうとJooJooやChrome OSの全貌はよくわかりませんが、新OSをよく使われるブラウザだけに機能を限定してしまうのもどうでしょう。このアプローチが携帯電話やデスクトップOSの制限を越えられるものとは思えませんし、どちらのメリットも享受できません。
Chrome OSの今までの情報を見る限り、黒に白のつまらないグーグルデスクトップスタイルをとってます。実際にリリースするときにはもっと素晴らしいものになっていると思いますけど、Chrome ブラウザだけ入っているかと思うと心配。
JooJooについてはChromeと同じ感じですが、ブラウザはPC版WebKitを使ってます。つまりFlashやSilverlightをサポート、Hulu、HD版Youtube などビデオ再生が可能。しかも1メガピクセルのウェブカムもあり、ブラウザ版Skypeが対応すればビデオ会議も可能でしょう。
本当に必要なのは3番目のアプローチタブレットのOS問題は、タブレットへの期待が高まっているのに誰も新しいパーソナルコンピューティングの世界を切り拓いてないこと。
アップル、グーグル、マイクロソフトなど有名な会社はデスクトップとモバイルの両方に投資していますが、タブレットOSにトライしているのはアンドロイドとChrome OSだけみたいです。他は従来のOSの焼き直しに過ぎず、どれも最適とはいえません。
意外ですが、モバイルとデスクトップを支配してきたマイクロソフトだけがタブレットに対して正しいアプローチをしてます。
上のCourierのビデオを見てもらうと分かりますが、まったく新しいインターフェースを使ってます。携帯電話のインターフェースと違って過去の使い勝手とはまったく違い、デスクトップも窓もありません。基本の操作だけでごくごく自然に扱えるようにできていて、納得の出来栄え。
今度は上のビデオを見てください。こちらも携帯電話ともデスクトップとも違う、新しいデザイン。指で使うことを前提とし、スクリーンサイズに最適化されてます。こちらはまだコンセプトの段階ですけど、いくつかの未来を示唆してます。つまり私たちが欲しいのはただ単に「動く」ものではありません。ジェスチャーやタッチインターフェース、マルチタスク、PC不要でスタンドアロンで動作、軽量でスマートフォンよりもずっと使えるものが欲しいのです。
もしかしたら実現しないかもしれません。新しいOSを作るのは長い年月と多くの開発者の努力が必要です。マイクロソフトはWindows Phoneを21世紀に送り出しました。それにマイクロソフトはとにかくWindowsをバージョン7まで進化させ、携帯にも対応しました。そのため今後数年のうちに新しいOSがでてくる見込みはないでしょう。とにかくそれよりも問題なのはCESでスティーブ・バルマーが明らかにそうでないのに「Windows 7タブレットがソリューションだ!」と力説していたことですね。
マイクロソフトがダメなら一体誰が? アップルとグーグルはすでにタブレットの計画をたてていますし、その片鱗が見えてます。ガラスの天井をぶちやぶれば、iPhoneプラットフォームも悪くないでしょう。我々はあまり楽観していませんけど、グーグル Chrome OSも期待以上のできばえになればアリです。それまでは、またはそれ以上の革命的なOSが出てきて、それを支える強力なハードウェアプラットフォームが出るまでは、でっかい携帯電話とキーボードレスラップトップでなんとか過ごしましょうかね。
Jason Chen(原文/野間恒毅)