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老後ひとり難民

2024.12.27 公開 ポスト

介護保険は「家族がいること」を前提に作られている 増加する「老後ひとり難民」問題沢村香苗

おひとりさまブームで増え続ける独身人口。しかし“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多いそう。さらに認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも……。「おひとりさま高齢者」問題研究の第一人者、沢村香苗さんが上梓した幻冬舎新書『老後ひとり難民』より、一部を抜粋してお届けします。

介護保険は「面倒を見られる家族がいること」を前提に作られている

ここまでは、前提知識として「介護保険とは」「介護サービスとは」「地域包括支援センターとは」「ケアマネジャーとは」といったポイントをざっとご説明してきました。

押さえておきたいのは、介護保険制度スタートの際、理想の老後が「家族に看取られながら自宅で最期を迎える」ことだったという点です。

もちろん自宅で最期を迎えられないケースはあるものの、「地域包括ケアシステム」の理想のもとでは、少しでも長く自宅で生活を送り、息を引き取るまで地域のなかで支えることが前提とされていたといえます。

在宅介護が望ましいとされてきたのも、あくまでも家族が介護をある程度担うことが前提となっていたからです。介護保険制度は、家族がいることを前提に、その負担を軽減するための外部サービスの利用を想定して作られたものだったといえます。

つまり、介護を担える家族がいないケースにおいて、要介護者の方にどのように対応するのか、十分に想定していなかったとも言い換えられます。

現実には、家族がいない要介護者の方は少なからず、存在しています。さらに今後「老後ひとり難民」が増えていくとすれば、現在のような介護保険サービスでは対応できない場面が増加していくおそれがあります。

「介護保険があるから老後は安心」といえないワケ

高齢になり介護が必要になった際、真っ先に介護保険サービスの利用を検討すべきであることは間違いありません。介護保険は、社会を支える重要な役割を担っています。

しかし「介護保険があるから大丈夫」といえるのかといえば、残念ながらそうではありません。

まず、介護保険サービスを使うには、申請や契約が必要となります。

そのためには、まず本人や家族などが「介護保険サービスが必要だ」と判断しなければなりません。当たり前のことだと思われるかもしれませんが、自分や身内の心身の衰えが少しずつ進んでいくなか、「今こそ介護保険サービスを利用すべきだ」という判断を的確なタイミングで下せるとは限りません。

先に触れたように「介護? 人の世話になるなんてとんでもない」といった考えを持っている方もいます。

また、介護サービスを利用するということは、家のなかにヘルパーさんなど他人が入ってくるということでもあります。「家に他人が入ってくるのはイヤだ」という高齢者は少なくないのです。

ましてや高齢期になると足腰が痛むなどで、部屋の片づけが以前のようにできなくなることも多々あり、赤の他人に散らかった部屋を見られたくないという気持ちにもなるのでしょう。

 

「介護保険サービスが必要だ」と判断できた場合、介護保険の利用を申請する必要があります。

具体的には、市町村の介護保険担当課や地域包括支援センターに連絡し、要介護認定の申請書を入手して必要事項を記入し、主治医の意見書を添えて市町村に提出します。

その後、認定調査員が訪問し、要介護認定を受けるという流れは本書42ページに書いたとおりです。

これらのステップを本人や家族などが進めることで、介護保険サービスの利用が可能になるわけです。

ひとり暮らしで頼れる身寄りがいない「老後ひとり難民」が、これらの申請や契約をひとりでこなすというのは、相当にハードルが高いといえます。

もちろん、地域包括支援センターなど適切な窓口にたどり着くことさえできればなんとかなると思いますが、身体からだの自由がきかなかったり、認知症を発症したりしていれば、「窓口に相談しよう」という意思決定や実行が容易にできない可能性もあるはずです。

また、介護保険サービスが利用できるようになれば安心というわけでもありません。

先にご説明したように、介護保険制度は、かつて家族が担っていた要介護者の「心身のケア」を、社会で共有するために作られたものです。その「心身のケア」には、要介護者の生活全般のマネジメントは含まれていないのです。

 

たとえば、お金の管理や公共料金などの支払い、ペットの世話、庭木の手入れなどは、介護保険の対象外です。また、通院の際のつき添いなど、日常生活に必要なさまざまなサポートも介護保険だけではまかないきれません。

介護保険サービスが提供しているのは、あくまでも「食事」「入浴」「排せつ」などの身体的ケアと、その周辺のサービスです。しかし、食事と入浴と排せつができれば生活が成り立つわけではありません。

結局のところ、生活全般のさまざまなマネジメントについては、誰かが別途、担う必要があるのです。

 

繰り返し述べているように、介護保険はそもそも「面倒を見られる家族がいること」を前提に設計されています。

しかし、核家族化や少子高齢化が進むなかで、家族の支援を受けられない単身高齢者は増加しています。こうした高齢者にとって、介護保険制度の対象外となる部分のサポートが受けられないことは、大きな課題になっているのです。

*   *   *

この続きは「老後ひとり難民」に起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて解説する幻冬舎新書『老後ひとり難民』をお求めください。

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沢村香苗『老後ひとり難民』

世はおひとりさまブームで、独身人口は増え続けるばかり。だが、そのまま老後を迎えて本当に大丈夫だろうか? 配偶者や子どもなどの“身元保証人”がいない高齢者は、入院だけでなく、施設への入居を断られることも多い。高齢で体が不自由になるなか、認知機能の低下で金銭管理が怪しくなり、果ては無縁仏になるケースも。本書ではこのような現実に直面し、かつ急増している高齢者を「老後ひとり難民」と呼び、起こりがちなトラブルを回避する方法と、どうすれば安心して老後を送れるのかについて解説。読むだけで老後の生き方・考え方が劇的に変わる一冊。

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老後ひとり難民

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沢村香苗

日本総合研究所 創発戦略センター シニアスペシャリスト。精神保健福祉士、博士(保健学)。東京大学文学部行動文化学科心理学専攻卒業。東京大学大学院医学系研究科健康科学・看護学専攻博士課程単位取得済み退学。国立精神・神経センター武蔵病院リサーチレジデントや医療経済研究機構研究部研究員を経て、2014年に株式会社日本総合研究所に入社。2017年よりおひとりさまの高齢者や身元保証サービスについて調査を行っている。

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