「メディア芸術」というカテゴリーでビデオゲーム等を括るのは正しいのか?
さて文化庁の事業として、ポピュラーカルチャーを研究することがどういうことかもまとめておいたほうがいいでしょう。ここまでお読みいただき「そもそも『メディア芸術』というカテゴリーとはなんだろうか? どんな定義で成り立ち、どんな条件で、あるジャンルがカテゴライズされるのだろうか?」と思われた方もいると思います。
その疑問は、当の研究者側こそが強く抱いていました。第2部のディスカッションでは各分野間の交流ですが、研究者間で目的が一致したのは研究方法や今後の展望のほかに「メディア芸術」というカテゴライズそのものでした。
各分野の研究者側はまず、手引書を作る大変さを語り、事業に予算や人員は裂けない問題を提起。手引書を作るだけではない展開が必要だと提言します。たとえばマンガ分野では研究のその先として、自治体とのコラボレーションといった具体的な展開が見えている点が他分野よりも進んでいるといいます。
また手引書の読者層を、どう設定するかも語られます。松永氏は「需要がみえないままやってきた」と振り返り、読者が本当に手引書を参考にしているかがわからなかったそうです。2017年にゲーム分野の手引書を作った時、文献のリストだけではゲームの何を研究しているかわからないため、状況をまとめるテキストも書くようになったそうです。
そしてアニメとマンガ、そしてビデオゲーム、メディアアートの4分野がメディア芸術と括られることに関して「単なる偶然」、「必然性がなく4分野が並んでいる」、「方便のカテゴリーではないか」と厳しい意見も見られました。研究者側はそれをどう生かすかを考えていくと同時に、メディア芸術というカテゴライズの脆弱さを指摘する展開が続きました。
カテゴライズがはっきりとしない問題で、研究者側が危惧しているのは「行政の都合で作られたカテゴリーである以上は文化的な実体がはっきりあるわけではなく、それゆえそれを対象にした研究をお題として振られても困る」ということでした。
各分野の研究者側の疑問に対し、吉村氏は、たとえば大学でマンガ研究や学部を設立するように、ポピュラーカルチャーをアカデミズムの場で扱うために制度を作っていく力学があると主張します。「なぜ大学にマンガ研究やアニメ研究があるのか?」という疑問に答えられるよう、理論武装しなければならないと返答しました。
今後、たとえば義務教育にマンガやアニメ、ゲームをどう組み込むかを考えた時に、理論づけた枠組みとしてメディア芸術というカテゴリーが有効だと吉村氏は説明。義務教育でメディア芸術と言うものをいかに提示できるか、そして民間がそれを学ぶことでどうな利点があるかを考えなければならないと語っています。
「メディア芸術」というカテゴライズを巡るディスカッションは、政策をうまく利用してポピュラーカルチャー研究の状況を改善していこうとする側と、実質のないカテゴリーを研究の題目にすることには無理があるという側ですれ違う展開が続きました。今回のシンポジウムでは、ゲームが研究される状況が確認できたことはもちろん、文化庁と関わり、ポピュラーカルチャーをひとつの文化とする活動の現実的なやりとりもうかがえたと言えるでしょう。