ガイナックスで「天元突破グレンラガン」「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」を制作したメンバーが独立し、2011年8月に設立。
今回はトリガー設立の経緯から「キルラキル」までを代表取締役の大塚雅彦にインタビュー。ボリュームたっぷりの内容を2回にわたってお届けします。
ガイナックスを飛び出し、身軽さを手に入れたかった
───ガイナックスを辞めて新しいスタジオを立ち上げようと思った経緯を教えてください。
大塚 ガイナックスではわりと好き勝手に作らせてもらって縛りもなかったんですが、逆にかせがなくて、言ってしまえば「パンティ&ストッキングwithガーターベルト」(以下、パンスト)のような普通は通らないはずの企画が通っちゃうんです。そうなると贅沢な話ですけど「こんな好きにやってて大丈夫なのか?」と逆に不安になってきたんです。
あと、業界的にお客さんとの交流の仕方とか、ソフトの売り方とか、いろんなことが変わっていく気がしていて。それに対応するには新しいことを始めたい。そんなとき、ガイナックスみたいな名前の知れているスタジオだとブランドイメージもあるし、やや慎重になる部分はあって。だったら新しい会社を作って、何かで失敗しても「新しい会社なんで色々試行錯誤やってます」って言える身軽さを身につけたいなと思ったんです。
ーーそれはいつ頃から考えはじめたんですか?
大塚 「パンスト」をやっているときですかね。「パンスト」はもう少し軽い企画にしようと言っていたんですけど、やっぱり本気になっちゃって。
───今石監督の次回作は独立してやろうという流れになったわけですね。
大塚 最初は他のスタジオで作るっていう選択肢も考えたんですが、それならガイナックスにいても一緒だろうという話になりました。結局、一番やりたいことをやるにはスタジオを作るしかないと決めたんです。そこから他のスタジオのトップの方に相談したり、もちろん庵野さんにも話をお伺いしましたし、そういう先輩方の話をもらって、我々が作りたいスタジオはどういうものか考え、現実と理想の折り合いをつけて、運営できる範囲でやりたいことをやろうと思っていました。
───トリガーはウルトラスーパーピクチャーズのグループ会社ですよね。
大塚 我々はアニメを作ることはできるけど、会社の経営については未知数で、単独でやるよりは横に同じような会社がいてお互いに助けあえる関係の中でやった方が安全かなって思いました。グループと言っても、各社のスタジオの独自性を保ったままでやれるということで参加しました。
グループ会社になったことでかかわった「ブラック★ロックシューター」
───設立した頃、最初は何をしようってことになりました?今石さんの作品もすぐに始められないですよね。
大塚 いきなりテレビシリーズとかは当然無理なんですが、準備はできますから、中島さんら文芸チームはシナリオの打ち合わせを始めたんです。ちょうどその頃、ウルトラスーパーピクチャーズのサンジゲンとオースで「ブラック★ロックシューター」を作るという話があって、サンジゲンから「異次元パートを全部CGでやろうと思っているから、今石さんに演出してもらえないか」って依頼がきたんです。
他の作品を作りながら、いよいよ「キルラキル」へ全力投球
───その後しばらくは他の作品を作っていくわけですね。それは後で詳しく伺うとして、まずは放送目前の本題「キルラキル」の話ですね。「グレン」「パンスト」と同じチームでやっていますが、一貫して目指しているものやテーマは何かありますか?
大塚 今後の方針としてもそうですが作品の内容に関しては何でもアリで、トリガーのカラーはいらないと思っています。作品のカラーはそれぞれ監督がきめていけばいいので。ただ、監督が本気でやっていない作品はイヤだなって思っています。スタッフや監督が作りたいものを作るっていうのが、トリガーらしさになればいいなって。「キルラキル」も企画初期の頃は、今石監督と中島さんの中に「グレン」を越えなきゃというのがあったみたいです。それを考えると結構煮詰まっちゃったらしくて、僕が入った頃には気楽にやれるものを考えようってリセットして始めようってことになっていたんです。
───それ、大塚さんはダメって言わないですよね。
大塚 ダメって言えないですよ(笑)。我慢させて作ってもダメだなって思ったんで、じゃあやりましょうと。それで絶対おもしろくなるとは思ったし。現場が思うようにやってできたものをちゃんと世に送り出して、対価に変えていくっていうのはこっちで頑張ろうと思ったんです。現場は好きにやっていい、でもスケジュールは守ってくれと。でも守ってくれないんですけどね(笑)。
───中島さんと今石さんコンビの相性はどうですか?
大塚 最高ですね。
「キルラキル」はテレビの枠を越えた濃厚なエンターテイメント
───キルラキルで目指しているものってあります?
大塚 中島さんが本気でやっているので、めちゃくちゃおもしろいんですよ。ただ、これが最後までつくれるかどうかだけが心配で(笑)。中島さんも途中何度か「本当にやっちゃって、トリガーは大丈夫?」って確認していました(笑)。展開が早くて、普通はこれがテレビシリーズの最終回だよねっていうのがわりと早めにきて、その後もこれを越える展開があって、さらに激しくなっていくという。最後の最後は全部クライマックスなんですが、脚本読んで「わあー、おもしれえ!」って思いながら、僕の顔は青ざめています(笑)。今石監督も「大変だよね」って言いながら、何も変える気はないですし。
───いまどのくらい進んでいるんですか?
大塚 絵コンテは半分以上進んでいます。中盤などはそうそうたる方々が描いているんですけど遠慮も何もないので、それを見たときには「会社を潰す気ですか!」って思いました(笑)。でもこれがまた、おもしろいんです。あとは現場の頑張りに期待するしかない。
───大塚さんは何をやられているんですか?
大塚 僕は会社の経営のことをやらなきゃいけないので、現場のことは何にもやっていないんです。ちょっと現場を覗くとやりたくなるので、なるべく見ないようにして我慢しています(笑)。こういう作品を作るためにスタジオを作ったのに、自分が参加していない、なぜだ!?っていう(笑)。なので、現場は大変そうだし、大変なのは分かるけど「お前らやりたいことやってんだからいいじゃん!」っていう気持ちも半分はあります(笑)。
───10月3日、ついに「キルラキル」放送開始です!
大塚 何も考えずに作っている勢いだけのアニメだと思うかもしれないけど、いろいろな仕掛けがあります。エンターテイメントとしてこの密度で作品がつくられることもそうないんじゃないかなと。1話を見たときに、最後はこんな話になるなんて想像もつかないと思います。1話だけで判断せずにできれば最後まで観てほしいですね。
───スタッフに何かあったら大塚さんが参加するということですね。
大塚 僕が何かをやっていたら、トリガーはやばいなって思ってください。でも実はオープニングとエンディングだけちょっとやっているんですけど、つまりいきなりやばいっていう(笑)。
───トリガー設立の頃から始めていてもうやばいって……!
大塚 その理由は1話を見てもらえれば分かります。「こんなことをやっていたらやばくなるよ!」って。
(小林美姫)
後編に続く