※本文にネタバレを含みます
平と桑原はそれぞれ仙ノ浦と長野に『監察医 朝顔』8話
『監察医 朝顔』第8話は新章「孤独編」。家族と職場のほっこり感が『朝顔』の魅力のひとつであったにもかかわらず、いきなり“孤独”を突き付けてきた。平(時任三郎)は仙ノ浦、桑原(風間俊介)は長野。【前話レビュー】混み入った事件も巧い俳優により理解しやすく 次回からは新章「孤独編」に
2クールの長丁場だし緩急つけようという作戦か。はたまた、コロナ禍で、撮影スケジュールが変更になったために急遽立てた策であろうか。とにもかくにも状況は大きく変わった。
前回の予告で桑原は異動することはわかっていたが、冒頭、いきなり、朝顔が妊娠中という、話が過去に巻き戻ったからたまげた。
7話では朝顔と平がそうめんを食べていて、8話では、桑原と3人でそば。……それは桑原の回想で、つぐみが生まれる前のひとときを思い出しながら桑原は、引っ越し先で姉の忍(ともさかりえ)ともそばをすする。桑原は単身赴任で引っ越ししている。異動先は長野県警。交番勤務になった。
異動の辞令を受け、朝顔に報告して、荷物をまとめて、お見送り……の流れはショートカット。荷物をまとめて、お見送りは7話の朝顔と平でやってしまっているからか、まるっと省略され、離れ離れのふたりの電話のやりとりから描かれる。
朝顔は仕事があって夫の単身赴任地へ引っ越しの手伝いに行けない。代わりに忍が引っ越しを手伝っている。桑原は姉とそばを食べながら、朝顔の母の話だけはデリケート過ぎて、踏み込めないものを感じていることを明かす。桑原と忍が醸す空気は、真也が万木家で出す空気とはまた違う。一緒に生活した時間の違いがありあり。
忍はその話を真面目に聞きつつ、不倫したら許さないと釘を刺す。忍の心配もなんとなくわかる。なぜなら、なにごともなかったとはいえ、6話と7話での桑原の若い女性との接し方はちょっと親し過ぎる印象も拭えなかったから。
30年前の悲しい事件
朝顔の法医学教室には、新しいバイトの牛島(望月歩)がやって来た。その日、朝顔が解剖したご遺体は、30年前に殺された少女・栞里(志水心音)の父親・浅野忠(森下能幸)だとわかる。当時は茶子(山口智子)がご遺体を解剖していた。仲井戸修(野中隆光)事件――少女・栞里を誘拐し惨殺、遺体はバラバラに破棄され、全部がそろわなかったという酷いものだった。
「警察のみなさん、どうして栞里の右手を探すのをやめてしまったんですか」
浅野の残した警察やマスコミへの浅野の問いは、朝顔の胸に重くのしかかる。
苦悩や悲しみで真っ白になっていた浅野の髪を黒く染める朝顔と茶子。朝野の息子は結婚を前にしていたが、父の起こした殺人事件によって破談になるだろうと、父のしたことを受け入れがたい思いにかられていた。
浅野忠の気持ちも、残された息子の気持ちもわかる。はっきり解決できないことに無力さを覚えながら、朝顔は、自分たちのできることは過去の記録を残すことだと思う。
30年もの時が経ってもなお消えることのなかった父の娘への執念や憎悪というような強烈な想いと比べたら、朝顔の母・里子(石田ひかり)が行方不明になった年月はまだ短いほうで、やはり容易に忘れることなどできはしない。
30年前の事件を担当していた平はいま、妻の手がかりを求めて仙ノ浦に転居している。折につけ捜索していた沼は冬になると埋め立てられてしまう。平も朝顔も焦りをにじませる。
その一方で、平は、仙ノ浦の小料理の常連になり、女将・奥寺美雪(大竹しのぶ)と徐々に親しくなっていく。美雪は里子と知り合いであった。
こういうシチュエーションは場合によっては、複雑な関係になりかねない。事前に単身赴任の桑原の浮気を忍が心配することで、平と美雪の関係に不安を感じさせる巧い構成である。
家を離れた男ふたりの危うさを重ねて描く。桑原はともかくとして、平は心配。平が、里子を忘れるときがあるとしたら、別の女性と新しい道を歩むときかもしれない。いや、でも、それは……。そんな心配も描きつつ、予告によると、9話は法医学教室解散の危機。
朝顔に負荷かかり過ぎ!
第2シリーズになって、テーマ性が薄れ、朝顔の抱える喪失感が単なる一話完結事件ものにしないための道具のようになってしまっているのがすこし残念であるが、大竹しのぶの参加で、今後、濃いものになる可能性も秘めている。
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番組情報
フジテレビ『監察医 朝顔』毎週月曜よる9:00〜
公式サイト:https://www.fujitv.co.jp/asagao2/
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木俣冬
取材、インタビュー、評論を中心に活動。ノベライズも手がける。主な著書『みんなの朝ドラ』『ケイゾク、SPEC、カイドク』『挑戦者たち トップアクターズルポルタージュ』、構成した本『蜷川幸雄 身体的物語論』『庵野秀明のフタリシバイ』、インタビュー担当した『斎藤工 写真集JORNEY』など。ヤフーニュース個人オーサー。
@kamitonami