川崎市多摩区「かわさき宙と緑の科学館」では、月に一度、ここでしか体験できない催しが行われている。
「星空ゆうゆう散歩」と題されたその催し、プラネタリウムのプログラムの一つなのだが、他のプラネタリウムと違うのは「河原郁夫先生が解説を務める」という点である。
「星空ゆうゆう散歩」は、8月を除いた毎月第3木曜日の13時半から行われている。入場券は当日の朝9時半から販売されているのだが早い時間に売り切れてしまうこともあるという。私がチケット売場に着いたのは開場の1時間ほど前だったが、この日はなんとか無事チケットを買うことができた。開場10分前ともなると、プラネタリウム前には長蛇の列。年齢層は様々だが、ご年配の方が河原先生の解説を目当てにやってきたらしいことが、聞こえてくる会話からわかる。
およそ200席が用意された会場内が満席となり、河原先生が自己紹介をして星空の投影が始まる。「今でもコンソール(操作卓)に立つとドキドキワクワクします」という言葉が印象的だった。頭上には川崎市の日没後~夜にかけての空の模様が映し出され、徐々に星の姿が現れ始める。
するとまさに満天の星空が映し出され、暗い会場内から歓声が上がる。河原先生がこの季節に観測できる星と星座を解説していく。そのゆっくりとした優しい声が星の名前を読み上げるのを聞くだけで、心が温まり、日ごろの疲れが癒されていくように感じる。暗い場内での操作について「これがなかなかに難しいもので、たまに間違えるんですねー」とお茶目に話す先生の言葉に笑いが起きたりしつつ、プログラムは穏やかに続く。
日本国内では沖縄など限られた場所でしか見ることのできない「南十字星」をみるために、上空の星空が南極の昭和基地からの眺めへと変化し、翌朝の日の出までの星空の変化を追いながら河原先生との星空散歩の時間が過ぎていく。45分間というあっという間のひと時だったが、鮮やかな星空と先生の耳に心地よい声が強く心に残った。
終演後、河原先生にお話を伺うことができた。
───河原先生とプラネタリウムとの最初の出会いはどのようなものでしたか?
「昭和15年、だいぶ大昔ですね。小学校4年の時で、その当時、有楽町に東日天文館というプラネタリウムがありましてね。そこに行ったのがやみつきの始めなんです。
───プラネタリウムとはどんな場所だと思いますか?
「本当に不思議な空間だと思います。ドームに人工の星が映るというだけじゃなくて、何か人間にとって得るものがある、プラスになる場なんじゃないかと思っています。私にとっては生きがいなんです。とにかく楽しいんですね。私が長生きして解説を続けられているのは、プラネタリウムのおかげじゃないかと思います。家内はあきれて私のことを”宇宙人”と言うんです」
───ご自分の解説を毎回録音しているとうかがったのですが
「今も毎回録音しています。いつも失敗だらけですからね。目も耳も悪くなってきましたからね、間違えることが多いんですね。だからチェックの意味で録音しています。
───「かわさき宙と緑の科学館」には「MEGASTAR-3 FUSION」という最新の投影機が使用されているそうですね
「普通のプラネタリウムだと肉眼で見える星はだいたい数千個ぐらいなんですね。それがこのプラネタリウムでは数千万になります。見え過ぎてしまうので加減していますけどね。この55年間に7回ほどプラネタリウムの機種が変わりましたが、操作が機械によって違うので老人には酷なんですよ(笑)ピアノみたいに鍵盤が一緒だったらまだいいんですけど、それが毎回バラバラなようなものですから大変です。暗い中で探さないとならないですから」
───河原先生の今後の目標はなんですか?
「とにかくやはり続けることですね。ここでは、独壇場で好きなことを喋れますしね(笑)BGMから何から自分で考えられますし。星と音楽を一緒に楽しんでもらえるようなものを目指してやっています」
───「星空ゆうゆう散歩」に興味を持った方にメッセージをお願いいたします。
「花が年年歳歳、四季によって変わるように、見える星も季節によって変わっていくんです。花を愛でるように、できたら星も愛でていただきたいと思います。おかげさまで来年度ももう一年解説をさせていただけることになりました。”星空ゆうゆう散歩”と題していますので、音楽を聴きながらゆっくりと星を見ていただきたいと思っています」
一番好きな星座は初めてプラネタリウムに行った時に覚えたオリオン座、と話す河原先生のキラキラした目が印象的だった。
「星空ゆうゆう散歩」の開催日時については下記の公式サイトをチェックしてください!
(スズキナオ)
かわさき宙(そら)と緑の科学館
神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-2
044-922-473
http://www.nature-kawasaki.jp/planetarium/
「星空ゆうゆう散歩」と題されたその催し、プラネタリウムのプログラムの一つなのだが、他のプラネタリウムと違うのは「河原郁夫先生が解説を務める」という点である。
河原先生は1930年12月生まれ、現在82歳の現役プラネタリウム解説員だ。プラネタリウムの解説を始めたのは1957年4月だというから、半世紀を上回るキャリアになる。「かわさき宙と緑の科学館」の前身となる「川崎市青少年科学館」では1997年以来毎週解説員を務めてきたが、現在は月に1回「星空ゆうゆう散歩」でのみ解説を行っている。これはぜひ一度体験したいと思い、行ってみることにした。
「星空ゆうゆう散歩」は、8月を除いた毎月第3木曜日の13時半から行われている。入場券は当日の朝9時半から販売されているのだが早い時間に売り切れてしまうこともあるという。私がチケット売場に着いたのは開場の1時間ほど前だったが、この日はなんとか無事チケットを買うことができた。開場10分前ともなると、プラネタリウム前には長蛇の列。年齢層は様々だが、ご年配の方が河原先生の解説を目当てにやってきたらしいことが、聞こえてくる会話からわかる。
およそ200席が用意された会場内が満席となり、河原先生が自己紹介をして星空の投影が始まる。「今でもコンソール(操作卓)に立つとドキドキワクワクします」という言葉が印象的だった。頭上には川崎市の日没後~夜にかけての空の模様が映し出され、徐々に星の姿が現れ始める。
しかし、都会の明るい夜空では見える星が限られている。そこで「それでは出発しまーす!」という河原先生の掛け声とともに、舞台は富士山頂へと移動。
するとまさに満天の星空が映し出され、暗い会場内から歓声が上がる。河原先生がこの季節に観測できる星と星座を解説していく。そのゆっくりとした優しい声が星の名前を読み上げるのを聞くだけで、心が温まり、日ごろの疲れが癒されていくように感じる。暗い場内での操作について「これがなかなかに難しいもので、たまに間違えるんですねー」とお茶目に話す先生の言葉に笑いが起きたりしつつ、プログラムは穏やかに続く。
日本国内では沖縄など限られた場所でしか見ることのできない「南十字星」をみるために、上空の星空が南極の昭和基地からの眺めへと変化し、翌朝の日の出までの星空の変化を追いながら河原先生との星空散歩の時間が過ぎていく。45分間というあっという間のひと時だったが、鮮やかな星空と先生の耳に心地よい声が強く心に残った。
終演後、河原先生にお話を伺うことができた。
───河原先生とプラネタリウムとの最初の出会いはどのようなものでしたか?
「昭和15年、だいぶ大昔ですね。小学校4年の時で、その当時、有楽町に東日天文館というプラネタリウムがありましてね。そこに行ったのがやみつきの始めなんです。
その時分、蒲田に住んでいたものですから、日曜日になるたびに国電に乗って通っていましたね。戦争もたけなわですから、夜になると本当にプラネタリウムの通りに星座が見えたんです。灯火管制で暗くしていますから。覚えた星座が夜になるとそのまま見える、それが面白かったんです」
───プラネタリウムとはどんな場所だと思いますか?
「本当に不思議な空間だと思います。ドームに人工の星が映るというだけじゃなくて、何か人間にとって得るものがある、プラスになる場なんじゃないかと思っています。私にとっては生きがいなんです。とにかく楽しいんですね。私が長生きして解説を続けられているのは、プラネタリウムのおかげじゃないかと思います。家内はあきれて私のことを”宇宙人”と言うんです」
───ご自分の解説を毎回録音しているとうかがったのですが
「今も毎回録音しています。いつも失敗だらけですからね。目も耳も悪くなってきましたからね、間違えることが多いんですね。だからチェックの意味で録音しています。
毎日反省してますよ。半世紀ずっと反省だらけですよ(笑)」
───「かわさき宙と緑の科学館」には「MEGASTAR-3 FUSION」という最新の投影機が使用されているそうですね
「普通のプラネタリウムだと肉眼で見える星はだいたい数千個ぐらいなんですね。それがこのプラネタリウムでは数千万になります。見え過ぎてしまうので加減していますけどね。この55年間に7回ほどプラネタリウムの機種が変わりましたが、操作が機械によって違うので老人には酷なんですよ(笑)ピアノみたいに鍵盤が一緒だったらまだいいんですけど、それが毎回バラバラなようなものですから大変です。暗い中で探さないとならないですから」
───河原先生の今後の目標はなんですか?
「とにかくやはり続けることですね。ここでは、独壇場で好きなことを喋れますしね(笑)BGMから何から自分で考えられますし。星と音楽を一緒に楽しんでもらえるようなものを目指してやっています」
───「星空ゆうゆう散歩」に興味を持った方にメッセージをお願いいたします。
「花が年年歳歳、四季によって変わるように、見える星も季節によって変わっていくんです。花を愛でるように、できたら星も愛でていただきたいと思います。おかげさまで来年度ももう一年解説をさせていただけることになりました。”星空ゆうゆう散歩”と題していますので、音楽を聴きながらゆっくりと星を見ていただきたいと思っています」
一番好きな星座は初めてプラネタリウムに行った時に覚えたオリオン座、と話す河原先生のキラキラした目が印象的だった。
「例えばしし座のレグルスという星の光は地球に届くまでに79年かかるんです。私がまだ子どもの時に出た光が今晩見えている、そう思うとロマンを感じますよね」 ― 忙しく過ぎていく日々をひと時忘れ、星のロマンに思いを馳せてみてはいかがだろうか。
「星空ゆうゆう散歩」の開催日時については下記の公式サイトをチェックしてください!
(スズキナオ)
かわさき宙(そら)と緑の科学館
神奈川県川崎市多摩区枡形7-1-2
044-922-473
http://www.nature-kawasaki.jp/planetarium/
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