下北沢の本屋で、闘いがあった。
闘いの名は「ブックレビューLIVE:杉江VS米光のどっちが売れるか!?」。

対決したのは、杉江松恋米光一成
「この人が薦めるものは信用できる」と、ファンを強く惹きつけるブックレビュワーが、書評をライブでやっている!
今回の対決には、「伝説の第0回」があった。8月に同じ本屋B&Bで杉江がトークをした
「この夏読むべきミステリーBEST20」である。米光は聞き手に投入され、無邪気な発言で笑いを呼んでいた。
最後に米光は「ぼくもおすすめの本持ってきたー」と、五十嵐大介『海獣の子供』『英語で読む銀河鉄道の夜』写真集『funktion』を出し、「今度は対決にしましょうよ」と言った。
雨の日に軒先を借りた猫がそのまま家にあがりこむようにするりと、米光は杉江イベントの場に入り込んだのだった。
それでは、第1回対決、テーマ徹夜本で、二人が選んだものを発表! ばーん!
米光一成のセレクト。
ジョージ・R・R・マーティン『七王国の王座〔改訂新版〕』(炎と氷の歌シリーズ)
マルク=アントワーヌ・マチュー『3秒』
佐藤幹夫『自閉症裁判』

杉江松恋のセレクト。
ニック・ダイベック『フリント船長がまだいい人だったころ』
増田俊也『木村政彦はなぜ力動山を殺さなかったのか』
ウラジーミル・ソローキン『青い脂』

二人のトークは、徹夜本の紹介だけでなく、「こんな形の徹夜体験もあるんだよ」と提示する体験カタログとしても聞けた。
例えば、
米光「シリーズだから一晩では読めないので途中で寝てたけど、もう夢中。妻から働きもせず、ずーっと寝転がって本読んでていいのか、おまえは!
とお叱りを受けた。これを読んでみろ! 読んでまだ叱るなら叱れ! と渡すと妻もドハマり」
『七王国の王座〔改訂新版〕』

杉江「朝6時まで読んで、それから熱に浮かされたようにツイッターに感想を書き続けて、止まらなくなった。
それを作者の増田さんがキャバクラかなんかで読んで、涙がぽろぽろ流れてきて、お店のおねえさんに、男の人は泣かないものよと言われたって」
『木村政彦はなぜ力動山を殺さなかったのか』

米光「ドミノ倒しみたいに、ニューロンがばちばちばちーって繋がって興奮して眠れなくなった読書体験が、人生で3回ある。そのうちのひとつがこれ」
『自閉症裁判』

杉江「ソローキンという人の文章が、体のなかを嵐のように通り過ぎていった。しばらくぼーっとした」
『青い脂』

読めば同じ体験ができるかもしれない。期待がふくらむ。
本、売れる売れる。
真っ先に売り切れたのは『3秒』

米光が引用した豊崎由美のレビュー「立ち読みではこの体験はできない(中略)眩暈を起こして書店で倒れることにでもなったら大変でしょ」も効いたのか。
続いて、杉江が「今年読んだミステリーのベスト」と言っていた『フリント船長がまだいい人だったころ』が売り切れ。
米光が「アメリカでドラマ化して大ヒット! 日本でも10月からスターチャンネルでやるから、今が読み時!」と熱弁していた『七王国の王座〔改訂新版〕』も売り切れた。
売れた冊数が多かったのは米光一成。
負けた杉江は、残った『木村政彦はなぜ力動山を殺さなかったのか』『青い脂』を一冊づつお買取り。とはいえ、自分の語りの成果を目の当たりにして嬉しそうな笑顔を浮かべていた。
米光はピースしてた。

ほんとうは2時間のうち「本を買ってもらう時間」は、前半と後半の間になるはずだった。押し売りにならぬよう、二人は散歩に出る予定だった。
でも、二人とも熱かった。
話が止まらない。
マイクを置いて両手を振り回して語る米光に、「マイク持ったほうがいいですよ」と杉江が声をかける場面もあった。
冷静にコントロールされ推敲して書かれた書評と、ライブ書評は違う。
脱線したり、相手にツッコまれたりして生まれる、先の読めないわくわく感。
すきな本について語るときに見せる、ナマの表情の説得力。
熱のこもった言葉と空気を浴びたあと、イベントスペースから出ると、白を基調としたシンプルなカウンターに、売り物として本が並べられていた。本と出会った。実感があった。

「時間制限をもうけて、その後、お互いがツッコミを入れるってどうですか?」
終演後、米光は杉江に提案していた。
「もっと面白くなるはずなんだよー」と米光は楽しそう。
二人が話し合って、このイベントはまた進化していくことだろう。
次回の対決は11月14日に決定
テーマはなぜか「ダメ人間」。どんなダメ人間の出てくる本が紹介されるのか。
ダメ人間に惹かれちゃう人、自分がダメ人間だという人、本がすきな人、書評を読んだり書いたりするのが好きな人におすすめ。ぜひ!(与儀明子)

杉江松恋主宰のBook Japan、米光一成のブログこどものもうそうにもレポートあり。
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