え、写真のほうがいい? そうですね、色彩を味わうにはやはり写真いいですよ。
でもね、マンガで味わう料理は格別なんだな!
なぜか!?
それは食べている人間が描かれているからと人間のあるべき姿が見えるからです。やっぱり料理は「人が食べてなんぼ」じゃないですか。食べる人と食べられる料理があって、はじめて「ああ、美味しい、うれしい、幸せ!」という構図が完成するのです。
料理マンガというと「美味しんぼ」や「クッキングパパ」が有名ですが、今回はちょっと角度を変えて、グルメそのものではなく料理から「30代の人間像」が描かれている話題作を二作品紹介します。
一つ目は柳原望作『高杉さん家のおべんとう』。
高杉くんは気づいたら三十路過ぎ、大学で博士号を取ったものの教授試験に落ち続けて崖っぷち。真面目なんだけど学者脳すぎて堅苦しく、とにかく不器用きわまりなし。見ていて痛々しくてしかたないダメっぷりなんですよ。
ところがそこに久留里という12歳の少女が預けられます。
一人暮らしの男性の部屋に12歳少女だって!?……とぼくなら大歓喜しそうなんですが、冷静に考えたらちょいやべえ怖いですから。
どんな距離感とって、嫌われないように、喜んでもらえるようにすればいいか見当もつかない。つか家族になれる自信ないよ!
久留里ちゃんもまた不器用で、一つの事に没頭すると会話がなくなるタイプのあまりしゃべらない子。
高杉くんが悩みに悩んだ末出した結論が「せめてお弁当はがんばろう」というものでした。
家族の絆は食から、なんて言いますが、あれって本当ですよね。作ったものを一緒のものを食べるという行為のなんと貴重なことか。だって何も考えずに、「おいしい」と感想を言い合えるだけでつながりが出来るんですよ。
何がいいって、テーマが家庭食だけではなく「お弁当」だということ。つまり明日があるんだよ!今日だけじゃなくて、明日も明後日も一緒に過ごすんですよ。これはなかなか胸にクるものがあります。
現在3巻まででていますが、まー相変わらず高杉くんのダメなこと。パワーポイントで少女に「家族とはなにか」を説明する頭の硬さには苦笑せざるを得ません。
でもね、一生懸命なダメな大人と、そこに幸せを感じて笑顔を見せる素朴な少女の組み合わせはいいものですよ。お手軽で安い料理レシピマンガとしても読める上に、二人の人間関係にときめくことの出来るよい「お弁当マンガ」です。
未来があるっていいね。久留里ちゃんにぼくもお弁当作りたいよ。
二つ目はうさく……じゃなかった。原作久住昌之、漫画水沢悦子の『花のズボラ飯』。名前を見てピンと来た人もいるかもしれません、そう『孤独のグルメ』の原作者です。
こちらは「高杉さん家のおべんとう」の正反対で、丁寧に料理を作るということをほとんどしません。しかも旦那は単身赴任なので女性の一人暮らし。30歳女性悠々一人暮らしです。
嘘です。全然悠々じゃないです。ゴミはたまったまま。雑誌はタワー状態。
そんな彼女がおいしい手料理を自分だけのために作るなんてワケがなく。題名の通りに「ズボラ飯」になります。
ところがどっこい、ズボラで適当極まりない食事ばかり描かれているのに、めちゃくちゃ楽しそうなんですよ彼女。たった一つのお茶漬けでも、ただの卵かけごはんでも、とにかく美味しそうに食べます。
そう、彼女は食べることに対する楽しみ方を知っているんです。
基本的にメインキャラはこの花さん(30)しかいませんので、ずーっと独り言をしゃべっています。『孤独のグルメ』の正反対でテンション激高ですが、食に対する楽しみ方の姿勢は同じなのが面白いので、読み比べてみるのも一興です。
ちょっと花さんの名言を幾つかピックアップしてみましょう。
「今ならアタシ、ブタと呼ばれてもいいっ。
ひどい表現だ! でもそのくらいご飯がおいしく感じる時ってあるある。
「うっまーーーっ、このうまさには大森貝塚やむを得ず!」
は? と一瞬思いましたが、「大盛り」のダジャレでした。一人でダジャレする花さんかわいい。
「うっま…!! 感動的にウマイ、全米が泣くわコレ」
といって泣く花さん。泣きながらウマそうに食う花さんがすごいよ。
最初から最後までハイテンションで駆け抜ける、グルメとは言いがたいおうち一人ご飯マンガ。ネット上で一気に話題になり、書店では品切れ続出。見つけ次第ゲットですよ!
片や「誰かとつながりを求めて作る30代ごはん」、片や「一人で楽しむ適当30代ごはん」。ベクトルは逆ですが、どちらも「ああ、自宅の食事っていいな」と思わせてくれるんです。
人間に「食べる」という機能がついていて、本当によかったなあー。
そんなぼくは「美味しそうに何かを食べる女の子」が大好きです。
幸せってそんなところに眠ってるよ。