報道発表資料

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2024年11月29日
  • 保健対策

令和4年度大気汚染に係る環境保健サーベイランス調査及び令和2年度大気汚染に係る環境保健サーベイランス調査局地的大気汚染濃度を考慮した調査結果等について

1. 環境省では、公害健康被害補償法に基づく第一種地域指定の解除(昭和62年改正)に伴い、地域人口集団の健康状態と大気汚染との関係を定期的・継続的に観察し、必要に応じて所要の措置を講ずるために、大気汚染に係る環境保健サーベイランス調査を平成8年度から毎年度実施しています。令和4年度の調査結果をとりまとめましたので、公表します。

2. また、主要幹線道路沿道等の局地的大気汚染による健康影響に関する調査方法について、環境保健サーベイランス・局地的大気汚染健康影響検討会の下にワーキンググループを設置し、検討が進められました。ワーキンググループによる局地的大気汚染を考慮するための今後の調査方法(最終報告)及び当該調査方法に基づく令和2年度の調査結果の追加解析をとりまとめましたので、公表します。  

【添付資料】
 ○別添1  令和4年度 大気汚染に係る環境保健サーベイランス調査結果について(概要)
 ○別添2  令和2年度 大気汚染に係る環境保健サーベイランス調査 局地的大気汚染濃度を考慮した解析結果について(概要)

■  調査結果等の概要

(1)令和4年度の調査結果
 昭和62年の公害健康被害補償法改正の際の附帯決議において、「環境保健サーベイランス・システムの早期構築」が求められたことに伴い、調査手法や方法に関する検討を経て、長期的かつ予見的観点をもって、地域人口集団の健康状態と大気汚染との関係を定期的・継続的に観察し、必要に応じて所要の措置を講じることを目的として、平成8年度から「環境保健サーベイランス調査」を実施してきている。
 例年どおり、3歳児を対象とした調査(以下「3歳児調査」という。)及び小学1年生を対象とした調査(以下「6歳児調査」という。)を実施して、それらの調査結果についての単年度解析、並びに、平成9~令和4年度の3歳児調査及び平成16~令和4年度の6歳児調査のそれぞれを統合したデータ(以下「統合データ」という。)を用いた経年・統合解析等を行った。また、令和4年度の6歳児調査回答者のうち平成30~令和元年度に実施した3歳児調査時に回答のあった者について追跡解析を行った。
 3歳児調査の対象者は全国34地域の約7万4千人(回答者は約5万9千人)であり、6歳児調査の対象者は全国35地域の約7万7千人(回答者は約6万3千人)であった。

 これらの解析の結果、呼吸器症状のうちぜん息については以下のとおりであった。
  • 単年度解析では、対象者別背景濃度区分ごとの呼吸器症状有症率及び調査対象地域ごとの対象者別背景濃度の平均値と呼吸器症状有症率の検討について、3歳児調査では、SOにおいて濃度区分が高くなるほど有症率が高くなる傾向がみられたが、SOの背景濃度は、全国的に極めて低くなっており、その背景濃度範囲も狭くなってきていることから、傾向をみるには不十分と考えられる。6歳児調査では大気汚染物質濃度が高くなるほど有症率が高くなる傾向はみられなかった。オッズ比による検討では、3歳児調査については、SOとぜん息で1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果(オッズ比:1.18、95%信頼区間[1.09-1.28])が、6歳児調査については、OY(光化学オキシダントの年平均値)とぜん息で1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果(オッズ比:1.25、95%信頼区間[1.00-1.56])がみられた。
  • 大気汚染物質濃度と呼吸器症状有症率の経年解析においては、大気汚染によると思われるぜん息有症率の増加を示す地域はみられなかった。
  • 統合解析では、対象者別背景濃度区分ごとの呼吸器症状有症率及び調査対象地域ごとの対象者別背景濃度の平均値と呼吸器症状有症率の検討において、大気汚染物質濃度が高くなるほどぜん息有症率が高くなる傾向はみられなかった。オッズ比による検討においては、3歳児調査及び6歳児調査ともに、1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果は得られなかった。
  • 大気汚染物質以外とぜん息有症率との関連性では、3歳児調査及び6歳児調査で、「本人のアレルギー疾患の既往あり」、「親のアレルギー疾患の既往あり」において、オッズ比が2~3程度の統計学的に有意(p<0.05)な結果が得られた。統合データにおけるオッズ比の検討でも、同様の結果が得られた。  
 また、ぜん息以外の呼吸器症状有症率については、以下のとおりであった。
  • オッズ比の検討において、3歳児調査では、かぜひき回数(5回以上)の場合はNO、NO、PM2.5との関連性について、ぜん鳴の場合はSPMとの関連性について、OY、ぜん鳴(かぜなし)+ぜん息の場合はSOとの関連性について1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果が得られた。6歳児調査では、ぜん鳴(かぜなし)+ぜん息の場合及びぜん息(2年以内)の場合はOYとの関連性について1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果が得られた。
 
(2)ワーキンググループによる局地的大気汚染を考慮するための今後の調査方法(最終報告)及び令和2年度の調査追加解析結果
 同附帯決議において、「主要幹線道路沿道等の局地的大気汚染による健康影響に関する調査研究」が求められたことに伴い、環境保健サーベイランス・局地的大気汚染健康影響検討会の下にワーキンググループを設置し、令和3年10月までに中間報告その6を公表しており、その最終報告書が令和6年10月にとりまとめられた。
 また、本調査方法に基づき、令和2年度の調査について、新たにモデルによってNOの屋外濃度を推計し、幹線道路沿道等の局地的大気汚染濃度を考慮した解析を行った。対象者別背景濃度区分ごとの呼吸器症状有症率の検討では、3歳児調査、6歳児調査ともにNO濃度が高くなるほど有症率が高くなる傾向はみられなかった。また、オッズ比の検討において、NOのオッズ比は3歳児調査、6歳児調査ともに1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果を得られなかった。

■  今後の課題

 これまでの調査報告では、3歳児調査(平成8~令和3年度の計26回)及び6歳児調査(平成16~令和3年度の計18回)の単年度解析で大気汚染物質(SPM又はSO)とぜん息又はぜん息(2年以内)の有症率との関連性において1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果が得られたことが過去に何度か[1]あったが、常に1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果を示すような一定の傾向として捉えられる状況にはなかった。令和4年度は、3歳児調査では、ぜん息とSOの関連性において、6歳児調査では、ぜん息とOYの関連性において1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果が得られた。SOは近年極めて濃度が低くなっており、健康影響との関連性の評価が困難になっているが、今後も調査対象として注意深く観察を継続する。統合データを用いた検討では、対象者別背景濃度区分ごとの呼吸器症状有症率、調査対象地域ごとの対象者別背景濃度の平均値と呼吸器症状有症率において、大気汚染物質濃度が高くなるほどぜん息有症率が高くなることを示す結果は得られなかった。オッズ比による検討において3歳児調査及び6歳児調査のいずれにおいても1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果は得られなかった。追跡解析(平成16~令和4年度の計19回)においても、大気汚染物質(NO、NO)とぜん息の発症に1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果が得られたことが過去に一度[2]あったが、常に1を超えて統計学的に有意(p<0.05)な結果が得られるような一定の傾向として捉えられる状況にはなかった。
 環境調査における大気汚染物質濃度[3]について、NO、NO、SPMは全般的に低下傾向にあり、SOは低濃度で推移している。平成29年度より対象となったOY、O8は概ね横ばいで推移している。平成30年度より対象となったPM2.5の背景濃度は低下傾向にある。今後大気汚染とぜん息等の呼吸器症状との関連性について地域特性も踏まえて注意深く観察するとともに、環境保健サーベイランス・局地的大気汚染健康影響検討会のワーキンググループにおいて検討を進めていく。
 経年・統合解析においては、長期的な大気汚染の傾向を考慮して、例えば5年程度の統合データを用いて経年的に比較するなど、解析方法の検討を行っているが、今後も引き続き検討を進める。
 また、追跡解析は、10年度分以上のデータが蓄積したことから、平成28年度からぜん息の発症・持続についての経年解析を追加した。追跡統合解析に係る評価方法及びデータの取扱いの検討を更に進める。
 そのほか、幹線道路沿道等の局地的大気汚染濃度を考慮した解析については、令和8年度から追跡解析、令和10年度から経年・統合解析を行う予定である。今後はこれらの解析の方法を検討しつつ、引き続き局地的な大気汚染の影響を注意深く観察していく。
 なお、環境保健サーベイランス・局地的大気汚染健康影響検討会ワーキンググループにおいて構築した屋外濃度推計モデルについて、一般局大気測定局(以下「一般局」という。)、自動車排出ガス測定局(以下「自排局」という。)での推計値と実測値の差を検証したところ、一部の自排局では推計値が過小となるケースがみられた。これらの自排局では、自動車の非定常走行によりNO排出量が定常走行時よりも多いこと、道路構造や沿道状況が複雑であることなどにより高濃度となっている可能性が高く、モデルがこれらの特性を考慮していないと考えられた。このようにモデルの再現性が十分でない場合もあることに留意する必要がある。
 また、一般局での推計値と実測値の差を検証したところ、モデルの推計値には地域ごとにバイアスがみられたため、一般局のNO濃度の実測値と推計値の差を用いてこれを補正している。将来にわたって一定の推計精度を確保する観点から、今後も地域ごとの補正量やその経年的な変化に留意し、必要に応じてモデルに使用する基礎データの見直しや排出量の推計方法の改良などを検討していくことが必要である。
 
[1] ぜん息とSPM:(3歳児調査)平成20、25年度、(6歳児調査)平成19、21年度
ぜん息(2年以内)とSPM:(6歳児調査)平成19、21、25年度
ぜん息とSO:(3歳児調査)令和3年度
[2] 平成25年度
[3] NO、NO、SPM、SOは平成8~令和4年度の調査対象期間における背景濃度

連絡先

環境省 大臣官房 環境保健部 企画課 保健業務室
代表
03-3581-3351
直通
03-5521-8256
室長
堀内
室長補佐
松田
担当
山田