「未婚男性は極端に短命」というのは誤り~未婚男性にとっても「年金の繰り下げ」は有用
2024年10月11日
「67.2歳で未婚男性の半分は亡くなっている」「有配偶男性より14年以上も早い」
2022年に公開された記事(※1)にこのような文章があり、インターネット上で継続的に話題になっている。もし、本当にそうであれば、原則65歳から支給開始となる公的年金を、未婚男性は平均して2年程度しか受け取らずに亡くなっている計算になる。この記事をもとに、未婚男性にとって公的年金制度は払い損であるとか、60歳からの繰り上げ受給をした方がよいなどとする言説もインターネット上によく見られる。
公的年金制度は長生きすることで所得が不足するリスクを社会で支えるものであり、結果的に短命に終わった者(老後の所得不足が生じなかった者)が受け取る年金が、その者が支払った保険料を下回るのは制度の必然だ。しかし、もし本当に未婚男性が極端に短命なのだとしたら、公的年金制度に不満を持つのも当然だろうし、年金の受給開始時期の選択の際にも考慮した方がよいこととなる。
では、本当に未婚男性は極端に短命なのだろうか。
当該記事では、2020年の厚生労働省「人口動態統計」に基づき、15歳以上における配偶関係別の死亡年齢の中央値を算出し、未婚男性は67.2歳、有配偶男性は81.6歳としており、筆者が計算してもこの値に間違いはなかった。しかし、それは、いま生きている未婚男性が亡くなる年齢の期待値が67.2歳であることなどを意味するものではない。なぜならば、「未婚男性」と「有配偶男性」で母集団の年齢分布が大きく異なるからだ。
日本では、1950年前後生まれの世代までは、50歳時点での男性の未婚割合が1割程度に留まる「皆婚社会」であった。さらに、1949年生まれまでは「第1次ベビーブーム世代」で人口も多い。つまり、2020年時点での有配偶男性の母集団には、70歳以上の者が多く含まれ、当然、2020年に死亡した者の年齢の中央値も高い値を取る。
一方で、男性の未婚割合は後に生まれた世代ほど上がり、1970年前後生まれの男性の50歳時点での未婚割合は3割に迫る。2020年時点での未婚男性の母集団は、若い者が多く含まれることになるため、2020年に死亡した者の年齢の中央値も低くなるのである。
人口学では、母集団の年齢分布を考慮した上で、配偶関係別の寿命を求める方法が確立されている。最新の論文に基づき、2020年の統計を用いると、65歳以降の未婚男性の平均死亡年齢は81.79歳、既婚(有配偶・離別・死別のいずれか)男性は85.16歳で、その差は3.37年にとどまる(※2)。未婚男性が極端に短命ということはなく、未婚男性にとっても公的年金は長生きリスクを社会で負担する制度として有用だ。
日本の公的年金は、未婚者であれ既婚者であれ「1人当たり賃金」が同じであれば、老後に支払われる「1人当たりの年金額」は同じだ(※3)。しかし、年金が1人当たりで同じであっても、生活費は「世帯当たり」でかかるものが多いため、未婚者は1人当たりに必要な生活費が多くなる。より長く働き、「繰り下げ受給」して年金額を増やすことは、未婚男性にとっても、有力な選択肢に変わりない。
(※2)石井太「結婚の多相生命表:基礎的概念と手法」、国立社会保障・人口問題研究所『人口問題研究』80-3(2024.9)、pp.301~325 による。
なお、同論文によると、2020年の統計を用いた65歳以降の未婚女性の平均死亡年齢は87.42歳、既婚女性は89.91歳である。女性も既婚者の方が長生きしやすい。
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金融調査部
主任研究員 是枝 俊悟