宝島 (2025):映画短評

ライター4人の平均評価: 4.3
3時間超、緩みのない力作なのは確かである
戦後沖縄の実態を訴えるテーマ、俳優たちの渾身の演技、そして3時間超、まったく緩みなく観ていられる。力作なのは間違いない。抗議デモが祝祭を帯び、見たことのない光景へ変容する見せ場は圧巻。
しかし作品の根幹部で明らかに残念な部分が2つ。
リーダーの行方を探すために刑事になった主人公。しかし過去の関係性を描くシーンがわずかなので、その執念の源が伝わらない。兄弟関係も同様。ゆえに各人物の行動原理が掴みづらい。3時間あるのだから、過去をしっかり描いていれば全体が熱い奔流に満たされたはず。
そしてある重要なシーンで、助かるかもしれない命を放置して、作品の感動に繋げようとしている点。そこは完全に興醒めした。
本土復帰以前の沖縄から、今の日本が見える
『パラダイスビュー』『Aサインデイズ』などの、日本復帰以前の沖縄を描いた名作をほうふつさせるのは、そこに暮らす人々のバイタリティがとらえられているからだろう。
米軍支配に反抗心を抱きつつ、必死に生きる人々の気持ちの熱さ。そこに失踪したカリスマ的キャラをめぐるミステリーが絡められ、3時間の長尺ながら、まったく飽きさせない。
過去を描いてはいるが、現代に通じるテーマも宿る。米軍基地のある都市、横田空域に加えて関税問題など、日本がアメリカの下に置かれている現実は否定できない。ユルく支配されることに慣れていないだろうか? 必死に生きているだろうか? そんなことを考えさせられた。
灼熱の沖縄を疾走する魂の年代記
ハイエナジーで191分を駆け抜ける圧巻の映画体験。冒頭、米軍基地のフェンスを越える孤児たちの姿は『シティ・オブ・ゴッド』を彷彿とさせ、語り部グスクの視点で“不在の英雄”オンちゃんを軸に若者たちが戦後沖縄の現実と向き合う。刑事、教師、過激派――三者三様の運命が交錯し、スパークするのがコザ暴動の夜。暴力か理性か、問いかけは我々の胸に深く刺さる。
これは大友啓史監督が『龍馬伝』から発信してきたメッセージの大粒の結晶だろう。真藤順丈による傑作小説のどこに“加筆”したかを注視したい。怒りの渦の先にある希望、死者の声に耳を澄ませる祈り。幻想と土着が溶け合うマジックリアリズムが、映像に豊かな詩情を添える。
今、見られるべき映画
191分の超大作。しかし、この上映時間がなければ語り切れない映画でもありました。終戦による占領から復帰までの沖縄の姿を横軸に、米軍基地を襲う窃盗団・戦果アギヤーのカリスマリーダーの突然の失踪とその行方を縦軸に骨太なストーリーが展開されます。それは史実を描いた社会派作品であり、真相を追う極上のミステリーでもあります。メインキャスト4人はそれぞれ見事な演技を見せてくれました。終盤にあるやり取りは現代の世界の在り方を知っているだけに胸に迫るものがあります。上映時間の長さが気になるかもしれませんが、それを乗り越えて来る大友啓史監督入魂の一作です。今、この時に見られるべき映画です。