尾道ゆかりの作家林芙美子は食生活の様子をよく書き記している。「キャベツばっかり食べている。ソースをかけて肉なしのキャベツを」。自伝的小説「放浪記」にはそんな一節が残る▲安いキャベツではなく、肉が食べたい。貧乏にあえぐ、若き芙美子の偽らざる嘆きなのだろう。そのキャベツの高騰が最近ひどい。葉物が高くなる年末年始とはいえ1500円いや千円近い店もあるというから驚く▲広島では名物のお好み焼き店が大打撃を受け、野菜大盛りの注文を断る動きもあるそうだ。天候不順が原因ながら白菜などを含め、早く平年並みの値段に戻ってほしい▲昨夏に品薄になった主食のコメも、コーヒー豆やチョコレートも高値が続く。買い控えの動きが強まっているのに支出に占める食費の割合を示す「エンゲル係数」が、逆に42年ぶりの高水準に上昇しているのは心配だ▲芙美子は放浪記にこうも書き残している。「キャベツを見るとフクフクと湯気の立つ豚カツでもかぶりつきたい」。気持ちは分かるが、今の主役は豚カツよりキャベツのような気がする。古代ローマ人が万病に効くと重宝した存在を欠けば、豚カツもきっとおいしくいただけまい。