内閣府の知的財産戦略本部「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」の第1回会合が6月22日、都内で開かれた。
社会問題になっていた漫画や動画を違法にアップロードする「海賊版サイト」。
政府は4月13日の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議で、海賊版サイトについて、緊急対策を決定。民間事業者(プロバイダー)が自主的な取り組みとしてサイトへのアクセスを遮断する「サイトブロッキング」をできるよう制度を検討していくとした。
ブロッキングについては、明確な法的根拠がなく、憲法や通信事業法が保障する通信の秘密の侵害となりかねないことなどから、反発の声も上がっている。
22日の初会合には、事業者や法学者、弁護士など多方面から有識者が出席し、ブロッキングの是非などを議論。今後は9月に中間報告書をまとめ、関係省庁の対策強化に生かしていく予定だ。
漫画村閉鎖で売上アップ?
今回、政府から名指しされた漫画海賊版サイト「漫画村」は4月中旬に事実上閉鎖した。
閉鎖から約2カ月後、漫画家や小説家からは「電子版の売上が伸びた」との声が上がっている。
22日の初会合でも「海賊版サイト閉鎖と電子版売上アップ」の話題になった。
委員の一人でカドカワの社長である川上量生さんは、「ブロッキングに類するアクセス制限の仕組み以外では、この問題は解決できないと主張させていただきたい」と立場を明らかにした上でこう話した。
「漫画村をはじめ、違法サイトはまったく手の出しようがなかったわけだが、4月13日の政府の発表で結果的にはほぼ停止した。今までなかったことで、そのこと自体を認識していただきたい。電子版サイトの売り上げは大きく改善した。これも事実である」
講談社も売上改善と報告
同じく委員会のメンバーで講談社の野間省伸社長は欠席。取締役の吉羽治氏がメッセージを代読した。
初めに、「出版社としての立場から発言し、違法サイト撲滅への法制化、対応策をいかにして実現させるかについて全面的に協力する」とした。
次に電子版売上が改善したことを説明。
「(海賊版サイトの影響は)デジタルコミックの大幅な売上ダウンというかたちで現れた。売り上げ推移から見れば、説明のつけようもない急激な落ち込み具合だった」
野間氏のメッセージによれば、漫画村は2017年8月以降に爆発的に広がり、同年8月に発売された講談社の人気デジタルコミックの新刊が配信3日後のデータで前巻比で大幅に売上がダウンしたという。
そして、漫画村閉鎖後、売上は回復。同作だけではなく、デジタルコミック全体の売上も対前年同月比でアップしたと説明した。
「社内の試算ではあるが」と前置きした上で、漫画村による逸失売上金は1カ月で約5億円、年間で60億円に上るとした。
「影響を与えていた可能性はある。しかし…」
カドカワや講談社、漫画家らが主張する電子版売上のアップを、漫画村をはじめとする海賊版サイト閉鎖の影響と考えていいのか。
インターネットユーザー協会幹事の中川譲氏はBuzzFeed Newsの取材に話す。
「海賊版サイトが正規版の売上に影響を与えていた可能性はあります。しかし、漫画の市場規模自体が長年に渡って年間で数千億円でしたから、1年にも満たない海賊版サイトの存在によって数千億円もの被害を受けたという主張はさすがに現実離れしています」
「アクセス数を単純に掛け算した数字であるなど数字の根拠を明快にしていかないと、被害実態を捉えるための基礎資料と位置づけることすら難しくなってしまいます」
「マンガ作品の売上はその内容だけではなく、アニメやネットとの連携、販売のタイミング、同時代の社会状況など様々な要因が絡んでいます。また2010年代は、紙媒体の停滞と電子出版の躍進という、成長と衰退が折り重なっている時代です。電子媒体での売上の変化を一つの海賊版サイトの問題だけに帰結させてしまうのは、マーケティング調査としても少々問題を含んでいるのではないかと感じます」
「ブロッキングは、インターネット業界のみならず、国民全体をも巻き込む大きな議論になるので、根拠として示される数字は常に真摯なものであって欲しいと考えます」