「漫画村」など海賊版サイトについて対策を検討してきた政府の知的財産戦略本部の検討会議。
事務局は9月13日、特定サイトへのブロッキングの法制化について「合意できなかった」とする中間とりまとめ案を示した。

漫画村で電子書籍が初の売り上げダウン

同社執行役員の竹村響さんが取材に応えた。
竹村さんは9月2日に開催された一般財団法人情報法制研究所(以下、JILIS)のシンポジウムに「我々のような中小企業の意見も」と出席していた。
−−漫画村による被害を、どの程度と見積もっていますか。
漫画村は今年の年明けから大きくPVを上げてきて、5〜6月には収束したとされています。
弊社は今期の前半において電子書籍だけでも2割落ちている。それが漫画村消滅以降は回復しました。
竹書房では08年から電子書籍に取り組んでいる。11年にガラケーからスマホにシフトするタイミングで多少の落ち込みはあったが、基本的に11年以降売り上げが下がったことはなかった。18年上半期は初のダウンでした。
−−金額に置き換えるとどの程度でしょう。
どこで捉えるかだが、上代ベースで数億円の被害ではないでしょうか。痛いなんてものじゃありません。
JILISのシンポジウムでも伝えたかったのは、我々のような中小企業にとって海賊版サイトは深刻であるということ。
竹書房はミリオンセラーを出したことがなく、特段「これがヒット作」というものがない。ビジネスモデルは薄く広く売ることで、マーケットに強く依存したものになっている。
海賊版サイトによって、各電子書籍サービスの売り上げが減れば、比例して減る。マーケットに依存しているからこそ被害は大きいのです。
漫画村がもう1年続いていれば会社は潰れていた

−−ブロッキングについてどう考えますか。
テクノロジー論を我々が語るべきではないし、ブロッキングが正しい手段かはなんとも言えない。しかし、なんからかの対策を打ってほしいところで、実行に向かって動いていたのは有難いと思っています。
すでに起こった犯罪に対処するのではなく、いま起こっている犯罪にどうするかが重要。被害額がいくらとか、規模がどうかの議論をする前に被害はもう生まれています。
漫画村がもう1年続いていたら、会社は潰れていたかもしれません。
また、作家さんを代理している立場で、我々に出る被害は作家さんにも及びます。それによって廃業せざるを得ない作家さんも出てくるかもしれない状況でした。
−−これまでの知財本部の検討会議、疑問に感じたことはありますか。
構成員の中に小売の当事者がいないことです。本の版元はいたけど、電子書籍サービスを運用する人が参加していない。テクノロジーに関しては出版社より長けているのではないでしょうか。
漫画村にどう対策をしてきたのか

−−漫画村に対して、どのような対策をしてきたのでしょうか。
漫画村に限らず、調査は随時行なっていました。「Free Books(フリーブックス)」が問題になった際は、警察に協力しました。
しかし、漫画村に関してはタイミングを逃した。削除要請などは(削除されても別のサイトが現れる)「いたちごっこ」だと思っています。
そもそも、海賊版サイトを撲滅するためには我々だけが削除してもしょうがない。サイトにある7〜8割のコンテンツを削除しないと意味がない。
それを抱えているのは大手4社。海賊版サイトを潰すのであれば、我々が「進撃の巨人」や「ワンピース」を削除するのに協力すべきだと思います。
また「自助努力すべき」という意見もありますが、これはまず警察が出発点になるべき問題と考えます。
−−出版社横断のサブスクリプション型ビジネスを作るべきなど、これまでの出版業界のあり方を問題視する意見もあります。
主張したいのは、なぜサブスクの話などになるのかという点です。疑問視する人は、いまのマーケットではよくないと言いたいのか。電子化される書籍はほぼすべての電子書籍サービスに行き渡るようになっています。
十分にマネタイズができている現状をダメと言われ、「読み放題にすべき」というのは相当話がズレているのではないでしょうか。
(サブスクは)映像や音楽業界の方が、よほど進んでいません。出版デジタル機構という大きな取次を作り、広く行き渡るようにした結果が、今の姿です。海賊版サイト撲滅とはまったく別の議論だと思います。
−−今後は、どんな取り組みを行われるのでしょうか。
漫画村をはじめ、海賊版サイトは完全な著作権法違反であり、権利がないのにあるかのように振る舞う詐欺でもあります。
出版社にとって5万円は痛くないかもしれないが、作家さんにとっては大きい金額です。
実際の被害が出ている中で、国が言い出してくれたことは有難いと考えています。具体的にどうしていくのか、これからも議論させていただき、協力もしていくつもりです。