海賊版サイトにどう対策をするか。議論は白熱している。
内閣府の知的財産戦略本部「インターネット上の海賊版対策に関する検討会議」が6月22日から開かれている。
これを仕切るのは、中村伊知哉慶大大学院教授と村井純慶大教授の2人の座長。
今後、海賊版サイト対策はどうなるのか。検討会議が進む中、中村伊知哉座長がBuzzFeed Newsの取材に話した。
ーー第1回、第2回と検討会議を終えて感想は。
どうなることやら。
広告問題や削除要請などはコンセンサスが得られているが、ブロッキングの法制度をつくるか否かは、どちらに揺れるかわからない。
ーー4月13日の知的財産戦略本部・犯罪対策閣僚会議で緊急対策が決定した段階では、中村座長は「ブロッキングやむなし」という意見だったと認識している。
あの時はやむなしだった。政府としてなにかしらの対応をしないと、不作為の批判の方が強くなる。政府はブロッキングをしても容認する解釈まで出した。「やむなし」というのが、私があのときに出せたギリギリの意見だった。
ーー状況はだいぶ変わったが。
現時点ではっきりしているのは、いまの段階でブロッキングを実行してはいけないということ。問題の3サイトは事実上死んでおり、ブロッキングをしても緊急避難に当たらない。状況は収まりつつあり、今後どうするかを考えていく段階である。
今回の検討会議構成員の多くはブロッキング不要派が多い。ブロッキングしなければ問題解決はしないと言っているのは川上(量生)さん。
私自身いま決めてることはなく、ブロッキング是非の問題は、中立でいくと決めている。
ーー今回の構成員は慎重派も多くいる印象。
政府も腹を括ってきたなと。ブロッキングに慎重派の村井純さんを共同座長にしたのはかなり本気度が出ている。私だけだったら、どうしても知財側に立っているという意見は出るだろう。そこに“ネットの親分”が出てきて、必ずしも「ブロッキング前提ではない」とメッセージは伝わったと思う。
NTTコムのブロッキング宣言問題
ーー「いまブロッキングを実行しても緊急避難に当たらない」とのことだが、NTTグループがブロッキングを決めた。
唐突で私も驚いた。政府の発表に反応して実行するのは、おかしい流れではないがそれでも早いなと。総務省にも聞いたが「我々も急に言われてビックリしている」と。
緊急避難にあたらないと誘導してあげないといけない気もしている。
ーー振り上げてしまった拳をどうするか、と。
政府から「もう緊急避難ではない」と言わないといけないかもしれない。宣言を出せれば出すと思うが、状況を見極めているのではないか。
正規版サービスの浸透をどうするか
ーー対策の中に「正規版サービスの流通」もあるが、出版社のサービスが浸透しない理由をどう考えるか。
これまで出版業界に姿勢、取り組みがなかったことに尽きると思う。第二回検討会議でも、局長から「業界として正規版をまとめなければ事は収まらない」と意見があった。
つまりは「オフィシャルな漫画村を作ってくれ」と。
ーー出版社の怠慢からこのような状況になったと思うか。
出版社が批判されているが、それはあまり感じない。被害者なのに、対策を怠ってきたからと言われるのは少々気の毒だなと。
ーー出版社の変化などは感じるか。
出版業界にとって変われるいいチャンス。ひとまず海賊版は死んでいるから、今のうちに手を打って新たなビジネスモデルを作るのも対策のひとつ。
関係省庁との連携は
ーー関係省庁との連携は円滑にいっていたか。
最終的に全体を取りまとめたのは、内閣府知財本部。議論に参加していたのは、総務省、経産省、文科省、警察庁。
4月13日の決定はどこも「やむなし」だったのではないか。一番悩んで苦しんだのは、通信の自由を所管している総務省だろう。
委員会で決めたことではなく、政府が独自で決めたことである。最後の相談を受けたとき、「これは民間にブロッキングを要請するのか」と何度も確認した。そうしたら「それは一切しません」と。それで私も理解した。
ーー総務省から反発はあったのではないか。
かなりの相談を受けた。業界から反発も出るし、通信の秘密についての一歩踏み込んだ解釈になってしまうから、慎重に進めたいとは言っていた。
ーー一連の問題の解決、期限などはあるのか。
政府からは、来年の通常国会に間に合うようにというのが4月13日時点の意見だった。しかし、状況は変わり、政府の見直しもあるかもしれない。どう動くのかわからない。
ブロッキングとは別に、リーチサイトの議論はすでに文化庁の文化審議会で議論されている。未だ揉めているが、次の国会に出せるように文化庁は力を入れている。そこにブロッキングを統合することもあり得るかもしれない。
今後の論点は
ーーいまの主題はなにか。
4月13日の状況のままであれば、ブロッキングの是否だったが、いまは総合対策。海賊版はいったん収まっているが、また必ず出てくる。問題の本質が消えたわけではない。
ーーどのような結論に落ち着くと予想するか。
知財本部は政府から、法制度を検討しろと球を投げられている状態。通常であれば、こういう法制度にすると答えを出すが、今回はその答えすら出せるかもわからないのでは。
いま議論していることは、「知財戦略」と「IT戦略」という日本の政策2トップの激突。海賊版だけでなく、今後もこのような案件は続くだろう。