アメリカ・テキサス州のクラフトビール店「マンハッタンプロジェクト」のビール名に批判があがっている。
販売されているクラフトビールには「必要悪」や「プルトニウム」、核実験の名前などが付けられている。
社名の「マンハッタン計画」とは、第二次世界大戦中にアメリカが極秘裏に行った原爆の開発計画のことだ。
この計画でつくられた原爆は、1945年8月、広島と長崎に投下され、膨大な犠牲者を出した。生き残った人々の多くは今なお、後遺症や放射線による障害に苦しんでいる。
大きな犠牲をもたらした原爆開発にまつわる用語を名付けたビールを販売していることに対し、Twitter上では日本のユーザーから「酷すぎる」「許せない」「抗議すべき」との声が上がっている。
「原爆の父」や核実験の名前、「必要悪」
同社サイトの商品一覧ページには、原爆やその開発、実験にまつわる名前がつけられたビールが並ぶ。
「HOPPENHEIMER」は、「原爆の父」と呼ばれる理論物理学者のロバート・オッペンハイマーの名前をもじった商品名とみられる。
「PLUTONIUM-239(プルトニウム239)」は長崎に落とされた原爆に使われた核物質。
「NECESSARY EVIL」は、広島に原爆を投下した「エノラ・ゲイ」と共に飛行した写真撮影機の名前だ。
日本語では「必要悪」と訳され、米国などでは「広島・長崎への原爆投下は必要悪だったのか」という文脈で、議論の問題提起に使われている。
「TRINITITE」は、1945年7月16日にニューメキシコ州北部アラモゴードの砂漠にある「トリニティー」(三位一体)実験場で行われた、史上初めての原爆実験をもじったものと思われる。
「BLACK RAIN(黒い雨)」とは、原爆投下直後の広島と長崎で降った、放射性物質を含んだ雨だ。(取材時点から状況に変化があったため、記事末尾に追記を加えました)
広島・長崎の中心部だけでなく郊外の広い地域で降ったため、被爆者認定を受けられず救済を求める人々と国との協議が続いている。
広島に落とされた原爆「リトルボーイ」、長崎に落とされた「ファットマン」とみられるロゴのビールもある。
同社は、それぞれのビール名の由来などについてサイト上では説明していない。
一方、社名を「マンハッタンプロジェクト・ビアー・カンパニー」と名付けたことについては、こう説明している。
《ビール作りで、クリエイティブで協力的、実験的、そして科学的なアプローチをしているため》
BuzzFeed Newsは、マンハッタンプロジェクトに取材を申し込んでいる。
3年前、「ビキニ環礁」と名付け炎上。政府から抗議も
オンライン上では、同社のビールの品質に一定の評価をする声がある一方、ビール名に対する抗議の声が上がった経緯もある。
2019年に「Bikini Atoll(ビキニ環礁)」という名前のビールが販売された際には、大きな批判が巻き起こった。
米国は1946年7月からビキニ環礁で核実験を繰り返し、放射性物質で汚染した。
批判に対してマンハッタンプロジェクトは、「多くのハラスメントと殺害予告を受け取ったため声明を発表する」とTwitterに声明を掲載した。
「『ビキニ環礁』と名付けられた私たちのビールは、マーシャル諸島で行われた核実験をばかにしたり、わい小化するものではありません」
「私たちのブランドとビールの名称を通して、忘れられがちな、米国の核開発とその影響、世界史の中でもとても重要な歴史についての意識を高めたいと思っているのです」
ビキニ環礁があるマーシャル諸島共和国は保健省名義の抗議声明を出し、人々からも発売中止を求めるオンライン署名が立ち上がった。
マーシャル諸島保健省の抗議声明では、商品名をめぐり以下のように強く批判し、発売の中止と謝罪を求めた。
《この商品は、ここで起き、今も影響をもたらし続けている恐ろしい出来事を茶化している。許容できるものではない》
《あなた方は、米国の核実験がこの国、特にビキニ環礁の人々にもたらした痛みと苦しみについて理解すべきだ》
このビールは現在、同社サイトの商品一覧にはない。
サムネイル:Getty image
UPDATE
「BLACK RAIN(黒い雨)」という名のビールは、2月14日夕現在の同社サイトの商品一覧からは消えている。インターネットアーカイブを見ると、2月2日付のアーカイブでは存在していた。何らかの理由で発売を取りやめた可能性がある。