【相模原事件】「戦後最大級の大量殺人」 専門家が語る特殊性

    カギは「足取り」

    19人が死亡し、戦後最大級の大量殺人となった神奈川県相模原市の障害者施設襲撃事件。「日本の殺人」などの著作があり、殺人事件を研究してきた、河合幹雄・桐蔭横浜大教授(法社会学)も「類似の事案が思い浮かばない事件」と語る。

    何が特徴で、どのような対策があり得るのか。

    「類似の事件が思い浮かばない」

    ーーこの事件の特徴はどこにあるのか?

    他に類似の事案がすぐに思い浮かばない、珍しい事件です。被害者の人数からしても、戦後最大級の大量殺人事件といえます。

    大量殺人はいくつかのパターンに分けることができます。

    ・戦前の津山事件(※1938年、岡山県津山市の集落で、一晩で30人が犠牲になった殺人事件。加害者は自殺)のように、地域に対して強い恨みを持っている。

    ・日本赤軍(※1972年、イスラエル・テルアビブ空港で銃乱射事件などを実行)やオウム真理教(※1995年の地下鉄サリン事件などを引き起こす)のような自身の政治的、宗教的な主張をアピールするテロ事件。

    ・近年の秋葉原事件(※2008年発生の通り魔事件。7人が死亡)や池田小事件(※2001年、大阪・池田市の大阪教育大付属池田小に男が侵入し、児童8人が死亡)のように有名な場所で不特定多数を殺害する。

    これも日本の殺人事件の特徴でもありますが、容疑者が自殺するケースが多いのです。津山事件もそうですね。

    しかし、今回は元職員という報道もあるように、障害者施設という土地勘がある場所を狙い、しかもこれだけ大量の殺人を犯した後に、出頭している。障害者施設を狙って、これだけの大量殺人が起きたというのも珍しい。

    「極めて珍しい」

    一刺しして、怖くて手を離すパターンもあります。何刺しもするというのは、強い継続の意思がないとできません。

    今までのパターンとは一線を画している、極めて珍しい事件です。 

    そもそも、いくら暴れまわっても不特定多数を狙うなら、こんなに人は殺せません。よく知っている障害者施設で、動けない障害者を刺した。

    特殊な環境だったので、かなりの人数が被害にあったと考えられます。

    対策は取れたのか?

    ーー対策が必要という声が上がっています

    そもそも事件自体が戦後の殺人事件の中でも、極めて珍しいパターンです。犯罪白書を開けばわかるように、日本では近年、殺人事件自体が大きく減っています。そして検挙率も高い。

    まず、全体状況から対策を考えるべきです。この事件を機に、障害者施設をターゲットにした事件が次々と起こるとは思えません。

    凶悪事件が減っているのは、現状で取ることができる治安対策が機能しているからです。事件自体が大きく減っているなかで、最後に残るのはどうしても対策の取りようのない事件になります。

    特別な事件を念頭に大規模な治安対策をしてもしょうがないし、屈強な警備員がいても、覚悟を持って入ってくる加害者をどこまで止められるか。

    よく起きる事件、例えば人が外から入ってくる侵入盗対策というような形で、見直すのは可能だと思います。

    注目すべきは「足取り」

    問題は犯行までの足取りです。

    ーーどういうことですか?

    殺人事件や強盗など凶悪事件を調べていると、家を出て、知り合いに会ったから犯行を断念する。知り合いに声をかけられたらから思いとどまるというケースが多いんですね。

    もし、昔の仲間に会っていたら、家を出た時に知り合いに会っていたら……。思いとどまる可能性があったと思うのです。

    襲われるところから対策を考えるのではなく、もっと前から考える。彼を最後まで孤立させずにいることはできなかったのか。注目すべきはそこです。