コカインを使用したとして、ピエール瀧容疑者が麻薬取締法違反の疑いで逮捕されたことを受け、ソニー・ミュージックレーベルズは3月13日、電気グルーヴのCDや楽曲の出荷・配信停止、店頭在庫の回収を決めた。
すでに「iTunes」や「Amazon Music Unlimited」、「Spotify」などの音楽配信サービスで、電気グルーヴの楽曲の大半にアクセスできなくなっており、利用者からは悲鳴が上がっている。
こうした中、レーベルに対して方針の撤回を求めるオンライン署名が3月15日、change.orgで始まった。
署名では「過剰な反応とも言えるこの措置に抗議」し、「これまでのように、配信とパッケージを通して電気グルーヴの作品を自由に聞ける・買える状態に戻すこと」を求めている。
署名は3月17日現在、2万5千筆の支持を集めている。
BuzzFeed Newsは、発起人となった社会学者の永田夏来さん(@sunnyfunny99)と、音楽研究家のかがりはるきさん(@kgrhrk)に、署名を始めた経緯を聞いた。
「消費者・ファンとして」
ーーどうして配信停止・商品回収の撤回を求める署名を始めたのでしょうか?
永田:まず、13日に公式サイトに掲載されたオフィシャル告知を見たのがきっかけでした。
ピエール瀧さんが逮捕された第一報を見た時点で「これは大変なことになった」と思っていましたが、さすがに行きすぎていると思いました。
かがりさんとは、電気グルーヴのライブ会場でよく会っている付き合いの長い「ライブ仲間」で、ニュースを見ながら何かできることはないかと考えていました。
私個人としてではなく「消費者・ファンとして」呼びかけたかったので、お願いして、二人で共同発起人になりました。
かがり:ちなみに、署名ページに使用した電気グルーヴのグッズは、すべて自分の私物です。
永田さんから「何か良い写真用意して!」と指示を出されたので、あわててキャンペーン立ち上げ前夜に、家中からCD、DVD、レコードなどをかき集めて撮りました。
大量のグッズを並べながら、「ああ、自分はこんなに電気グルーヴが好きなんだな」とあらためて実感しました。
業界として本末転倒
ーー13日の配信停止発表後、様々な音楽配信サービスで楽曲が聞けなくなっていく様子を見て、どのように感じましたか?
永田:これまで自由に聞けていた音楽が突然聞けなくなったのは、「怖い」なと思いました。
私自身はCDも持っているので、実際には困らないのですが、サブスクリプションのリスクを軽く考えていたことを痛感しました。
かがり:これまでサブスクリプションで電気グルーヴを聞いていた人たちは、急に聞くことができなくなりました。今後、CDもまともな金額で購入できない状況に陥った時には、違法コピーや違法配信に頼らざるを得なくなるかもしれません。
レコード会社の施策によってそうした違法行為を助長してしまうのなら、それは(業界として)本末転倒ではないかと思いました。
回復できる場所を確保する
ーー署名では、薬物報道ガイドラインに「薬物依存症であることが発覚したからと言って、その者の雇用を奪うような行為をメディアが率先して行わないこと」と書かれていることに触れ、「排除や厳罰はむしろ逆効果」と書かれていました。
瀧容疑者がどのような状況で薬物を使用していたかは明らかにされていませんが、仮に依存症に近い状況であった場合、レーベルや事務所による「自粛」は、本人にどのような影響を及ぼすと思いますか?
永田:もしも依存症やそれに近い状況だとしたら、時間をかけてしっかり回復し、ペースを守りながら活動を続けられる場所を確保するのが大切だと思います。
依存症から回復するプロセスでは一定の収入が必要になってきますが、瀧さんのような著名人の場合、今後就くことのできる職種も限られてくるはずです。
だからこそレーベルや事務所は長い目で見守って、組織として彼を守ってほしいと思います。
ーーその一方で、「自粛」は当然だという声もありますが、どのような対応が理想的だと考えますか?
永田:瀧さんの活動は多岐にわたっているので、切り分けが大切だと思います。
今回の署名活動でも、石野卓球さんとの二人での活動である「電気グルーヴ」に対象を絞っていて、俳優としての活動は除外しています。
かがり:俳優活動についても、映画『麻雀放浪記2020』について「瀧さんの出演シーンを残したまま劇場公開するらしい」と報じられ、ネット上では賛同する声が多く上がっています。
容易に正解・不正解を決められる話題ではありませんが、「不祥事が起きる→関連作品はすべて封印」といった対応に違和感を抱く人たちの存在が可視化されることで、今後の対応のあり方について、建設的な議論が交わされていくことを期待したいです。
電気グルーヴとは
ーーお二人と電気グルーヴのつながりを教えてください。
永田:デビュー以来のファンで、今回の(結成30周年)ツアーも楽しみにしていました。2004年に発売されたライブビデオに満面の笑みで映っているのが、密かな自慢です。
かがり:電気グルーヴといえば、世間では砂原良徳さんが在籍されていた90年代の印象が強いかと思いますが、私は2005年頃からの「お客」です。
なので、伝説の「オールナイトニッポン」も聴けていませんし、代表曲の「Shangri-la」ですら後追いで知ったような立場です。
ちょうど、自分が旧譜を聞き始めた頃は電気グルーヴの活動が休止中でした。
「電気グルーヴ×スチャダラパー」名義の活動を経て、2008年に8年ぶりのアルバム『J-POP』がリリースされたときは、「やっとリアルタイムで電気の活動を追える!」と喜んだことを覚えています。
なので、「今は活動休止中だけど、いつかはリアルタイムで追いかけたい」と願いながら旧譜を聞いていた過去の自分を思うと、やはり今回の出荷停止・回収・配信停止の処分は残念でなりません。
回復しやすい社会になっていくこと
ーー署名活動を通じて、今後どのような議論が起きることを期待しますか?
永田:排除や厳罰はむしろ逆効果であり、本人を受け入れる場所が用意されていることが、(薬物依存からの)回復の手助けになるという前提を、まず共有していきたいと思います。
かがり:今回、署名活動への参加を呼びかけたところ、「薬物報道ガイドラインの存在を初めて知った」とリアクションしてくださった方が何人もいらっしゃいました。
実は私自身も不勉強ながら、今回の件で初めて「薬物報道ガイドライン」を知った口でした。
今後は多くの人がガイドラインなどを通して、薬物や依存症への理解を深め、依存症の人たちが回復しやすい社会になっていくことを望みます。