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「性風俗業は仕事であり、職業です」経営者の女性が国を訴える理由

国の持続化給付金や家賃支援給付金で、性風俗業関連の事業者が対象外にされているのは、憲法に反しているとして、デリヘルを経営している女性が裁判を起こす。

新型コロナウイルスの影響で経済的な打撃を受けた事業者を支援するために、国が実施している「持続化給付金」や「家賃支援給付金」。

これらの制度で、性風俗業関連の事業者のみ給付対象外とされているのは、職業差別であり、「法の下の平等」を保障する憲法に反しているなどとして、関西地方でデリヘルを経営する女性(30代)が国を提訴する。

8月27日には訴訟資金を募るクラウドファンディングを開始。原告側弁護団の調べによると、持続化給付金の制度をめぐる裁判は日本で初めてだという。

「セックスワークは仕事であり、職業」

訴訟を起こすのは、関西地方でデリヘル(派遣型ファッションヘルス)を経営するFU-KENさん。

10代の頃に風俗嬢として働き始め、後にオーナーとして独立して自身の事業を育ててきた。現在は従業員数名と、「キャスト」の女性数十人が在籍しているという。

新型コロナウイルスがあらゆる業種に深刻な影響を及ぼす中、FU-KENさんの事業も例外ではなかった。

緊急事態宣言が出された4、5月は自治体の休業要請に従い、1カ月ほど休業をした。そのため4月は売り上げが8割減、5月は約7割減だった。6月はおよそ5割減、7月は3割減と少し持ち直したものの、8月も4割減といまも影響は続いている。

「この訴訟は『セックスワーカーの安全を守るための訴訟』そして『性風俗業界の未来に関わる訴訟』です。訴訟を通じて『セックスワークisワーク』、セックスワークは仕事であり職業だという想いを世の中に伝えてゆきたいと考えています」とFU-KENさんは語る。

「性風俗関連特殊営業」のみ除外

そもそも持続化給付金とは、新型コロナウイルスの感染拡大による営業自粛などで、大きな影響を受けた事業者に対して、国が最大200万円(個人事業者は最大100万円)を給付するもので、事業全般に広く使うことができる。

家賃支援給付金は、緊急事態宣言の延長などによって売り上げ減少に直面した人々の事業継続を支援するため、地代・家賃の負担軽減を目的として、国が最大600万円(個人事業者は最大300万円)を給付する制度だ。

どちらの制度においても、中小企業や小規模事業者、フリーランスを含む個人事業者などが幅広く対象とされているが、ソープランドやラブホテル、デリヘルなどをはじめとする「性風俗関連特殊営業」の事業者は対象外とされている。

政治団体や宗教団体も対象外とされているが、業種によって対象外とされているのは、性風俗関連特殊営業のみだ。

「職業差別が浮き彫りに」

この問題に抗議するため、FU-KENさんは今年6月、性風俗業や接待を伴う飲食業(キャバクラ・ホストクラブなど)の事業者でつくる「ナイト産業を守る会」とともに、中小企業庁に申し入れをした

その際、同庁の担当者は「性風俗関連特殊営業」の事業者を対象外にしている理由として、これまでの給付金や補助制度でも対象外としてきたため、今回対象にすると「(過去の政策との)整合性が取れない」と説明した。

また、梶山弘志・経済産業相は、5月に開かれた参院予算委員会で野党から「職業差別である」と見直しの必要性を指摘された際に、こう答えた

「社会通念上、公的資金による支援対象とすることに国民の理解が得られにくいといった考えのもとに、これまで一貫して国の補助制度の対象とされてこなかったことを踏襲し、対象外としている」

一方、FU-KENさん側はこうした国の対応は「法の下の平等」を保障する憲法14条に違反していると主張する。

弁護団の一人である亀石倫子弁護士は、「国が長い間、性風俗事業者を多くの公的給付の対象から外してきたその根底には性風俗への誤解や偏見があり、コロナ禍によって性風俗に対する『職業差別』が浮き彫りになったのではないか」と語る。

休業、キャストからは「店を開けてほしい」

デリヘルは、電話受付用の事務所やキャストの待機室は必要なものの、来客用の実店舗を持たない業態のため、節約できる経費は限られている。

収益が大幅に減る月が続く中、FU-KENさんは主な出費である広告費を削り、遠方から働きに来るキャスト用の寮も解約した。

キャストは全員、業務委託契約を結ぶ形で在籍していたため、休業することは彼女たちの収入源を一つ断つことを意味する。休業要請中も営業を続ける同業者も多かった中、FU-KENさんは苦渋の決断をした。

「他のデリヘルは大方が営業していたので、貯金がない子とかからは『本当に苦しいから店を開けて欲しい』と連絡が来たり、シングルマザーの子たちからは、休業前から子どもを保育園に預けられなくなって、金銭的に厳しい状態にあると聞いたり…」

「本当に休業中はプレッシャーがつらすぎて、どうしようという感じでした」とFU-KENさんは語る。

「国から烙印を押されたみたい」

休業の判断をした際、当てにしていたのが、当時すでに制度の概要が公表されていた「持続化給付金」だった。そのため、性風俗関連の事業者が対象外になると知った時は、ショックだった。

「オーナーになる前は自分もキャストとして働いてきて、自分の中でも『この仕事は普通の仕事じゃない』とか『自分は結婚して子ども産んだりしちゃダメなんじゃないか』とか『この仕事を続けてていいんだろうか』と考える瞬間がありました」

「どうしてそんなことを思うんだろう、世間の価値観が染み付いているのかなと、もやもやしてきたんです」

「そんな中、今回の給付金からも除外されたことで、私の仕事はそういう扱いをして当然なんだと、国からも改めて烙印を押されたような感覚がしました」とFU-KENさんは言う。

「この業界で働く理由や事情はみんなそれぞれ色々あるし、仕事が楽しい時もあれば、もうやめたいなっていう辛い時もあります。でもそれって他の職業でも同じことで、みんな基本的に生活のために仕事をしています」

「うちは反社会勢力とも関わりはないし、合法で営業していて、税金も払っているのになぜ除外されるのか。業界の中には悪質な業者もあるかもしれませんが、業種で一括して給付金の対象外にするのは『職業差別』なんじゃないかなと思います」

性風俗差別の根っこに何があるのか

8月28日に始めたクラウドファンディングにはすでに、360万円を超える支援が集まっている(9月14日現在)。

亀石弁護士は、今回の訴訟の争点になるのは、性風俗関連の事業者を対象外とすることが、①平等原則違反にあたるかどうか(=不合理な差別か、それとも、合理的な区別か)、②行政の裁量権の逸脱、濫用があるといえるかどうか、になるだろうと解説する。

「持続化給付金も、家賃支援給付金も、国(中小企業庁長官)と私人(事業を営む会社等)との契約(贈与契約)に基づいて交付するものです」

「法的には『契約』の一種でも、行政目的を達成するために国と私人との間で締結される『行政契約』は、私人同士の普通の契約とは違い、公益目的の契約で、かつ原資が税金のため、不平等・不公正な契約内容であってはならないという法的な制約があります」

法律を守り納税もしてるのに、なぜ「性風俗」というだけで国から給付金をもらえないのか。これはコロナ禍が浮き彫りにした「職業差別」。訴訟を通じて性風俗への差別の根っこに何があるのか明らかにしたい。そして国による性風俗への差別の歴史を終わらせたい。ぜひご支援を!https://t.co/WjlgraaYgk

亀石弁護士は、性風俗事業者を給付金の対象外とすることに同意する人は多いかもしれないと述べた上で、「では、その理由はなんでしょうか?」と問いかける。

「性風俗は『いかがわしい』職業だから?暴力団とのつながりがあるから?人身売買をしているから?税金を納めてないから?」

「私たち自身にも、性風俗のリアルを知らないがゆえの誤解や、『愛のある性行為だけが許される』といったような道徳観からくる、性風俗への“偏見”があるかもしれません」

「この訴訟を通じて『性風俗に対する差別の根っこに何があるのか』をみんなで考える機会にしたいと思っています」


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