あなたの善意が地域を破壊? 映画「ポバティー・インク」が語る支援の裏側

    寄付が引き起こす悲劇とは。

    善意の途上国支援が経済的自立を妨げる——。地域の農業を破壊し、起業の壁となる「支援の負の面」を描いたドキュメンタリー映画「ポバティー・インク ~あなたの寄付の不都合な真実~」が8月6日、公開された。なぜ挑発的なテーマの映画を作ったのか? BuzzFeed Newsは監督にメールインタビューした。

    マキャベリ「変化のないのには理由がある」

    「変化のないのには理由がある。変化によって損をするのが強者であり、恩恵を受けるのが弱者だからだ」。映画は、援助の構図に当てはまる、こんなマキャベリの言葉で始まる。

    「与えましょう。命を救うのです」「貧しさを過去のものにしましょう。それが我々の使命です」。政治家やミュージシャンが次々と援助を訴える様子が流れる。

    だが、援助を受ける側の声はこうだ。「援助は失敗している」「恩着せがましいやり方が問題です」どういうことか?

    米支援の悲劇

    映画では、支援が地元産業を破壊する事例が次々と紹介される。

    「ハイチの米作と自給能力を奪ってしまった。ひとえに私の責任だ」。こう告白するのはクリントン元米大統領。

    1980年代初め、低く抑えられた関税を背景に、アメリカで助成金を受けて大規模生産された米が流入。競争力のないハイチの米作は廃れていく。

    ハイチの米農家らが嘆く。「私たちはボロボロです。多くの農民が農業をやめました」「援助を受けて依存してしまった。自分たちでは生産できなくなった」「私の願いは前のように米を作ることです。援助を受け取るのでなく、輸出したいのです」「そうすれば寄付ではなくて仕事を生み出せる」

    農業で食べていけなくなった人々は、仕事を求めて都会を目指す。断層が走る地域の上に、スラムができた。そんなハイチを2010年1月、巨大地震が襲った。

    緊急支援は欠かせない。だが地震から3年たっても届く支援米が経済を歪める。

    「これではNGO共和国ですよ。国民あたりのNGO数が世界一なんですから。モノを配り続けられるように、彼らはニーズを作り出そうとしています。まるでハイチ人に自立してほしくないかのようです」

    起業家に立ちふさがる「援助」

    ハイチの青年2人は、太陽光パネル製造会社をガレージでおこした。スラム出身者を含む従業員62人を抱えるまで成長。ギャングに引き込まれそうになる従業員を必死に止め、訓練した。

    順調だった事業だが、ハイチ地震後に一変する。支援として海外から大量に無料の太陽光パネルが送り込まれたのだ。創業者の一人は語る。

    「僕らの存在を知らなくて、善意でやっているのは分かります。先入観のせいなんですよね。『ハイチには何もないから水でさえ持っていかなきゃ』。この思い込みには苦しめられました」

    「地震後の競争相手は主にNGOです。太陽光発電のパネルや街灯を無料で配っている」

    地元産業を破壊した「慈善活動」

    ケニアの事例も紹介される。ある女性起業家が話す。

    「子どものころ、母は私を店に連れて行き、国内製の素敵なTシャツを買ってくれたものです。ケニア綿でした」

    だが、今では国産を買うことは難しい。「なだれ込んできた古着のせいです」。1980〜90年代、ケニアの繊維産業は大打撃を受け、工場が閉鎖され、大量解雇が起きた。

    映画はこうした「不都合な真実」を次々に明らかにしていく。本当に必要な改革を提案する。

    「公平な社会制度を」

    なぜ挑戦的なドキュメンタリーを撮ることにしたのか。8月6日の日本公開に先立ち、BuzzFeed Newsはマイケル・マシスン・ミラー監督にメールでインタビューした。

    ——映画で伝えたかったことは何ですか?

    映画の根底にある哲学的ビジョンは、貧しい人たちは操られる対象でも、解決されるべき問題でもないということです。主体であり、自らの発展ストーリーの主人公であるべきなのです。

    発展途上国の貧しい人たちが貧しいのは、公平な社会制度から排除されているからです。土地の所有権、私的財産権、公正な裁判、ビジネスを登記し正式な経済活動に参加できる、といったことです。

    アメリカや日本では当たり前のものとして考えられていますが、発展途上国では欠如しているのです。なぜ貧困産業がこうしたことを改善する手助けをしてこなかったのかを、問い正すべきなのです。

    理解してほしかったことの一つは「貧しい人々は市場によって支配され、グローバル資本主義に押しつぶされ、市場から保護される必要がある」というのは神話であるということです。

    貧しい人たちは市場に支配されているのではなく、市場から排除されているのです。

    ——日本は冷戦下、アメリカの支援を受けて復興を遂げました。援助が一概に悪いわけではないのでは?

    第2次大戦後の日本や欧州の発展と、アフリカやラテンアメリカなどの貧しい国の発展には、重要な違いがあります。

    ドイツや日本は、すでに発展していました。高いレベルのリテラシーや高い技術力、社会制度に関する強い伝統などがありました。

    支援が機能するためには、受け止めるための基盤が必要です。皮肉なことに、支援をうまく利用できる国々は支援が必要なく、支援を必要としている貧しい国々は、それを受け止めることができない。

    ——雇用の場を提供する海外の社会的起業家もいます。

    確かに、革新的な人たちも増えてきています。正しい方向への一歩ではありますが、それでも最終的には、経済的発展がその国の中から生じる必要があります。

    ハイチでソーラーパネルを製造する人が言うように、支援を必要とする人々を助けに来てくれることはいいことですが、「40年経ったあとも居続けるとしたら問題です」

    だから私たちは「公正な制度」の重要性を主張しているのです。それがなければ地域の経済が栄えることはありません。長期的な発展のためには地元の産業が発展することが鍵だという基本的な重要ポイントは見逃されがちです。

    ——名古屋大大学院で国際開発を専攻された監督に、日本の人へのメッセージをお願いします。

    日本はイノベーション、制度設計、コラボレーションにおいて素晴らしい伝統があります。

    私たちの映画によって、貧困問題への関心が高まり、富を作り出すための本当の基盤は、産業化プランでも経営者資本主義でもなく、人々の創造的能力であると少しでも気づいてもらえたら、と願います。