坂本龍一、JASRACに苦言 「襟を正して透明性の確保を」

    映画の上映使用料、音楽教室… 是々非々のスタンスを語った

    日本音楽著作権協会(JASARC)は、映画音楽の上映使用料を引き上げ、映画館から徴収する方針を決めた。「戦場のメリークリスマス」「レヴェナント:蘇えりし者」など、数々の映画音楽を手がけてきた音楽家の坂本龍一さんは、クリエイターへの適正な還元を求めつつも、小さな劇場への影響を懸念している。BuzzFeed Newsは、ニューヨーク在住の坂本さんに、Skypeで話を聞いた。

    18万円は非常に低いが…

    ――JASRACは外国映画の音楽について、映画1本あたり18万円だった上映使用料を興行収入の1〜2%に引き上げ、これまで支払いを担ってきた配給会社に代わって映画館から徴収することを目指しています。いずれは日本映画も同様の契約に改めたい考えです。

    18万円は非常に低く、とても妥当とは言えないと思います。映画業界は音楽の価値を認めて、興行収入に連動したインセンティブを導入してもいいのではないでしょうか。

    いま音楽だけで生活していけるのは、ごく一部のアーティストだけです。日本ではインセンティブ契約はまずありませんし、(楽曲の)買い取りのような形が主流なので、作曲家は大変です。

    だからといって、海外と同じように興行収入の1〜2%にすることがいいのかどうかはわからない。少なくとも僕は、すぐに海外並みに引き上げるべきだ、という意見ではありません。

    作曲家の立場からすれば高い方がいいということになるのでしょうが、僕自身が映画に従事する身でもある。

    仮にヨーロッパ並みの2%に引き上げたとして、それによって小さな映画館が犠牲になるようでは心が痛みます。

    メッセージを出した経緯

    ――11月8日のJASRACの記者会見では「使用される音楽とその著作者に対しての正当な対価が支払われることが重要」とする、坂本さんのメッセージも紹介されました。坂本さんが、今回のJASRACの方針を全面的に支持しているように誤解した人もいるかもしれません。

    JASRACからは「映画業界へ向けてメッセージを出してほしい」ということで依頼書が送られてきました。

    世界的に見ても、映画のなかでの音楽の地位は低い。日ごろからその点を問題だと思っていましたし、機会をみて発言してきました。

    信頼するイタリアの作曲家、ダリオ・マリアネッリがすでに長いメッセージを寄せていたこともあり、引き受けたのです。

    ただ、送られてきた資料には、海外並みのパーセンテージにするとか、劇場から徴収するといったことまでは書かれていませんでした。

    小さな映画館も一律でいいのか

    ――では発表を知って、寝耳に水の部分もあったのですね。

    そうですね。事前の情報はまったくなかったので。

    一足跳びに海外のスタンダードにすれば、弊害も出てくるでしょう。小さな映画館はつぶれてしまうかもしれない。

    一口に映画館といっても、製作会社とリンクした大きな会社もあれば、個人でやっているような小さなところもあるわけです。そこに一律で同じ条件を当てはめていいのか、難しい問題です。

    日本独特の映画ビジネスの実情もあるでしょうし、劇場だけが負担すべきなのか、製作者などが支払うべきなのか、僕にはそこまではわかりません。

    JASRACと映画関係者とで、よく話し合う必要があるのではないでしょうか。

    母にだっこされ見たフェリーニ

    ――坂本さん自身、映画館には思い入れがありますか。

    4〜5歳のころ、母親にだっこされながらフェリーニの「道」を見たのが、映画館についての一番最初の記憶かな。

    暗いところに長い時間いて、別に楽しくはなかったんですけど、妙に音楽がこびりついて。後からラジオでテーマ曲を聴いて「あ、あの時の曲だ!」とすごく嬉しかった思い出があります。

    その時の体験はいまでも強く生きていますね。

    高校生の3年間は、人生で一番たくさん映画を見た時期でした。3本150円とかの安くて小さい映画館ばっかりですけど(笑)。大島渚さんやフェリーニ、ゴダールなんかの作品をよく見ていました。

    新宿の名画座とか、ヤクザ映画ばかりかけている映画館だとかに、毎週のように出入りしてましたね。

    個人的に、小さな映画館への愛着はとても深いです。

    JASRAC一極支配に異議

    ――坂本さんはJASRACに対して、以前から厳しい指摘をしてきました。

    JASRACの一極支配に対しては、90年代から主張をしてきました。僕らミュージシャンたちが声をあげたこともあって、一極支配が崩れ、ほかの著作権管理会社が生まれた。そういう自負はありますね。

    著作権には演奏権や録音権、貸与権などの「支分権」があります。僕の場合、新規楽曲については演奏権のみJASRACに委託していますが、演奏権以外の支分権は新興のNexToneに委託しています。

    (※NexToneはEXILEやONE OK ROCK、ゴールデンボンバーなどの楽曲を取り扱っている新興の著作権管理会社)

    かつては著作権管理団体はJASRACしかなくて、支分権別の管理もできなかった。街に一軒しかレストランがなくて、しかもコースメニューしか頼めないような状況でした。

    いまはレストランが増え、アラカルトも頼めるようになった。やっと主張が実現したわけです。

    ですから、JASRACに加勢しているということはまったくありませんし、JASRAC側からみれば、むしろ「坂本は離反している」ということになるでしょうね。

    音楽教室からの徴収は「踏み込み過ぎ」

    ――JASRACに対しては是々非々の姿勢ということでしょうか。

    その通りです。随分昔から文句を言ってきましたが、「JASRACが100%正しい」とか「100%間違っている」ということはありえない。

    今回の上映使用料の件で言えば、「18万円は少ない」と声をあげること自体は間違っていないと思っています。ただそれは、JASRACのためではありません。自分たち作曲家のためです。

    ――JASRACは6月、音楽教室から演奏に伴う著作権料を徴収することを正式発表しました。

    音楽教室のなかで複数の生徒さんが演奏したとしても、内輪の範囲だと僕は思いますけどね。JASRACはちょっと踏み込み過ぎたんじゃないかな。そんなことよりも、ほかにやるべきことがあると思いますよ。

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    映画「Ryuichi Sakamoto: CODA」予告編

    JASRACは時代とかけ離れている

    ――JASRACへ望むことは。

    ネットが普及して、著作権について心配される場面も増えてきました。しかし、JASRACは時代とかけ離れている、時代が見えていない、というイメージが強いですね。

    一方はタダで(安く)使いたい、もう一方はいや著作権は大事だという。反対の価値を主張しているわけですから、お互いに話し合い、理解し合う必要があります。

    そのためには、JASRACが公共的に信用されていないといけません。なぜJASRACの主張は批判を浴びるのか。世間のイメージも含めて、自分自身を問い直す必要があるのではないでしょうか。

    襟を正して、透明性を高めていってほしいですね。

    (さかもと・りゅういち) 1952年、東京生まれ。1978年に「千のナイフ」でソロデビュー。同年、イエロー・マジック・オーケストラ(YMO)結成。多くの映画音楽を手がけ、「戦場のメリークリスマス」で英アカデミー賞音楽賞、「ラストエンペラー」で米アカデミー賞作曲賞、グラミー賞など受賞。

    今年3月にアルバム「async」発売。ドキュメンタリー映画「Ryuichi Sakamoto: CODA」が公開中。近著に『龍一語彙』(KADOKAWA)。12月9日からNTTインターコミュニケーション・センターで展覧会「設置音楽2」を開催する。12月15〜17日には、草月ホールで開かれるライブイベント「グレン・グールド・ギャザリング」に出演予定。

    BuzzFeed JapanNews