鈴木雅之はアニメに全然興味がないし、アニソンなんて絶対歌わない。
――嘘である。
この男、人気アニメ『かぐや様は告らせたい』シリーズの主題歌を手がけ、再生回数は1300万回を突破。作品も欠かさずチェックしている。
「ラブソングの王様」から「アニソン界の大型新人」へ。
インタビュー連載第2回は、40周年記念アルバム『ALL TIME ROCK ‘N’ ROLL』を出した鈴木が、還暦を過ぎてなお未知の領域へと挑む理由を語った。
連載第1回:「今日で解散します」と言うはずだった。バンドの未来を変えた運命のイタズラ
連載第3回:鈴木雅之が「違う、そうじゃない」と思うこと
連載第4回:大瀧詠一さんに、夢でもし逢えたら
還暦はゴールじゃない
――昨年放送された『かぐや様は告らせたい』第1期の主題歌『ラブ・ドラマティック feat. 伊原六花』で、アニメソングに初挑戦されました。依頼を受けた時は面食らいましたか?
いや、「いいじゃん、いいじゃん!」っていう感じですよ。やっぱり、日々チャレンジだから。60歳過ぎたぐらいから、次はどんなことをしようかなと考え始めて。
それまでは還暦=ゴールだと思って、「還暦ソウルを届ける」っていう発信をしてきたんだけど。
いざ本当に還暦を迎えた時に、「これはゴールじゃなくて新たなスタートだ」っていうのをひしひしと感じた。
いままで以上に、一年一年を内容の濃いものにしていこうと。そういう気持ちになったんだよね。
だからこそ、アニメ主題歌の話がきた時には「絶対やってみよう」ってスタッフのみんなにも言うことができた。
「アニソン界の大型新人」
――『ラブ・ドラマティック』は有料配信で10万ダウンロードを超え、ゴールド作品に認定されました。アニメファンの反応はいかがでしたか。
「アニソン界の大型新人」っていう肩書をひっさげて、アニメのフェス(Animelo Summer Live 2019)にも参加させてもらって。
本当にアニメファンの熱量、パワーをすごく感じた。ウェルカムで迎えてくれて嬉しかったし。
みんながペンライトを持って、出演アーティストごとにイメージカラーをつけるんだけど、鈴木雅之が出た時にさいたまスーパーアリーナが真っ赤に染まったんだ。それが熱い気持ちにさせてくれた。
アニメのフェスだからアニソンじゃないといけないと思うんだけど、向こうのスタッフから「せっかくだから『違う、そうじゃない』とか『め組のひと』も歌ってください」って言われてサプライズで歌ったんだよ。
そうしたら、みんなものすごく喜んでくれて。自分のなかで「全然、間違いじゃなかったな」っていう思いにさせてもらったね。
桑マンとエイトマン
――硬派なイメージの鈴木さんがアニソンということで、最初は意外に感じた人も多かったようです。
俺は1950年代生まれだから、最初のアニメ世代だと思うんだよね。『鉄腕アトム』や『鉄人28号』『エイトマン』とかを見て育ってきたし。
『エイトマン』に至っては「パパパパッパー」ってイントロのトランペット吹いてたのは、(ラッツ&スターのメンバーの)桑野信義の親父さんだからね。
あいつの親父さんは先名(信勝)さんといって、もともとニューブリードのトップのトランペッター。90年代に『エイトマン』がリメイクされた時も、桑野が吹いてるんだよ。
――『かぐや様は告らせたい』も実際にご覧になっているのでしょうか。
担当するってことになって、漫画の単行本を全部取り寄せて読んだから。
会計の石上にグッときた
――好きなキャラクターは?
シーズン2の終盤、会計の石上君の生い立ち的な話になった時は、なかなか泣かせたね。
《※『かぐや様は告らせたい』は、良家の子女が集う秀知院学園高校を舞台に、生徒会副会長の四宮かぐやと会長の白銀御行が、互いに告白させようと智略をめぐらせるラブコメディー。石上優は生徒会の会計で青春を憎む陰キャだが、実は「裏主人公」でもある》
「うるせぇバーカ」って言うのが彼の口癖なんだけど。なんで「うるせぇバーカ」なんだろう?と思っていたのね。
石上は過去に良かれと思ってやったことで周囲からディスられて、どんどん陰にこもってどうしようもなくなっていく。
そんな時に会長から「うるせぇバーカ」って言ってやればいいんだ、という感じで励まされるの。そこで前に進むんだ、みたいな。
あれはちょっと泣けたね。「うるせぇバーカ」ってそういう意味だったんだと思ったら、余計にグッときた。
驚異の1300万再生
――今春放送の『かぐや様は告らせたい』第2期の主題歌『DADDY ! DADDY ! DO ! feat. 鈴木愛理』も、YouTubeで1300万回以上再生されるなど絶好調です。
シーズン2も担当させてもらうっていうことになった時に、(『ラブ・ドラマティック』を作詞・作曲した)いきものがかりの水野良樹ともう一度組みたいと伝えて。
プロデューサーの本間昭光とアイディアを出し合っているなかで、本間が「マーチンさんに合うかも」と鈴木愛理を推薦してくれたんだよね。
彼女はすごくリズム感や歌心を持っているボーカリスト。とてもいい形でやれたと思います。
ミュージックビデオが1000万回以上再生されて、日本国内はもとより、海外からもたくさんアクセスがあった。これは嬉しかったですね。
「プレスリーの息子」海外からも反響
――海外から「エルヴィス・プレスリーの息子じゃないか?」といった書き込みもあったとか。
これはね、ちょっと笑えて嬉しかったです。
アマチュア時代の1977年に「EastWest」っていうヤマハのコンテストに出たんだけど、決勝大会が8月の終わりで、プレスリーが亡くなってから10日ぐらいだったの。
《※エルヴィスの死去は1977年8月16日、EastWest決勝は8月27日》
その大会で歌ったのが『Good Times, Rock and Roll』で、邦題が『懐かしのロックン・ロール』。
フラッシュ・キャデラック・アンド・ザ・コンチネンタル・キッズの楽曲で、《Elvis Presley wearin' blue suede shoes》ってプレスリーのことを歌った歌詞もあって。
プレスリーが亡くなってすぐだったから、なおのこと「ロックンロールを伝えたい」みたいな気持ちがあったんだ。
だから今回、「プレスリーの息子」と言ってもらえたのは、ものすごく嬉しかったよね。
シーズン3も「準備しておかないと」
――40年越しの思いがあったわけですね。今後もアニメソングは歌っていくのでしょうか。
『かぐや様』にしたってさ、シーズン2の最終回が「Coming Soon」っていうか「To Be Continued」っていう感じの終わり方だったから。
「これシーズン3もあるんじゃないかな?」みたいな気持ちにさせられたよ。ちょっと準備しておかないといけないな(笑)
爪痕を残したい
――『かぐや様』やYouTubeの盛り上がりをきっかけに鈴木さんを知り、新たにファンになる人も増えているのではないかと思います。
ものすごくありがたいよね。ネットって即効性があるじゃん。
いままではSNSで発信するというよりは、自分の口から生の歌、生の言葉を伝えたいと考えてきた。
「ライブでなければいけない」と思っていたから、ネットでの発信にあまり重きを置いてなかった。
だけど今回のコロナのこともあって、ネットがとても大事なツールだっていうことを再認識できたっていうのは大きいね。
――アニメファンに対して、「鈴木雅之は告らせたい」「俺のことも好きにさせてやるぜ」的な思いもあったりしますか?
もちろん、そうですよ。チャレンジしていく以上、何か爪痕を残さなきゃいけない。
「鈴木雅之は告らせたい」ってすごくいいね。作品のファンの人たちに「シーズン3もやってね」って告ってもらえたらいいな、と思います(笑)
連載第3回に続く。
〈鈴木雅之〉 1956年、東京都大田区生まれ。
1980年、シャネルズ『ランナウェイ』でデビュー、100万枚超を売り上げた。1983年にラッツ&スターへと改称してからも『め組のひと』『Tシャツに口紅』など、多くのヒット曲を残す。1986年、『ガラス越しに消えた夏』でソロデビュー。代表曲に『もう涙はいらない』『違う、そうじゃない』など。
2011年、初のカバーアルバム『DISCOVER JAPAN』で日本レコード大賞「優秀アルバム賞」。2016年に日本レコード大賞「最優秀歌唱賞」。2017年には、芸術選奨文部科学大臣賞を受賞した。
近年はTikTokで『め組のひと』が話題となり、人気アニメ『かぐや様は告らせたい』の主題歌も手がけるなど、「ラブソングの王様」として幅広い世代に親しまれている。2020年、デビュー40周年記念アルバム『ALL TIME ROCK 'N' ROLL』を発表。7月15日には、同アルバム収録の『Ultra Chu Chu Medley』を7インチのアナログ盤としてリリースした。