『孤独のグルメ』、『散歩もの』、『花のズボラ飯』、『サチのお寺ごはん』。マンガ原作者の久住昌之さんが手掛ける作品は、食べ物と日常を描いたものが多い。
あの独特なセリフまわしはどこからくるのか。お店探し、メニュー作りのコツは? 久住さんに、気になることを聞いてみました。
――食べ物の話を中心に描かれていますが、何か理由があるんでしょうか。
それは、頼まれるので(笑)。デビューしたのが「泉昌之」名義の『かっこいいスキヤキ』という漫画で、その中に入ってる『夜行』は、ひとりの男が夜汽車の中で弁当を食べるというだけの話なんですよ。
だから同じです。『孤独のグルメ』と何も変わらない。35年くらい同じことやってますね。ただ、食べるだけ。誰でもご飯は食べますから。
例えば下ネタは誰もがするけど恥ずかしいこと、黙っていること。だから、それを言うこと自体が面白いわけですね。そういう下ネタに対して、食べ物は上ネタっていうか、裏返しのようなもの。食べものや食べることそのものよりも、「食べてる人」が面白いと思うんです。
―― 一貫して描かれているのは、食事にかかわる小さな楽しみですね。
本当に普通のことです。普段のこと、普通のこと。特別なことは誰かが描いてますし、ほかの人がやってるんなら、自分は普通のほうを選ぶかな。
大きく取り上げられているものは、特別なことのほうが多いんじゃないですか。高級店とか、有名店とか、隠れた名店とか。
特別なことを描くよりも、普段やってるときに見逃しているようなことに、面白いことがあるような気がしています。
――『孤独のグルメ』に登場するお店というのは、自分の足で探してるんですか。
もちろんそうです。選び方としては、味とかよりも、やはりドラマができそうなお店を探しています。漫画が描けそうな、絵になりそうなお店ですね。
――それは、お店のたたずまいとか。
それもありますね。だけど別に、たたずまいだけで決めてるわけではないです。(1巻に登場した)池袋西武の屋上のうどん屋さんは、たたずまいも何もないですからね。
「谷口(ジロー)さんが絵に描いたらいいんじゃないかな」と思えるようなところを探しています。そうすると、谷口さんが漫画の中ですごく雰囲気のある場所にしてくれる。
だから、谷口さんが描いたお店に期待し過ぎて行くと、だいたいが「なんだ、普通だな」となる(笑)。
そのためにけっこう探して、本当にいっぱい失敗もしています。基本はやっぱり自分で歩いて探すのが大事。必死ですよ、締め切りがあるので。
――ドラマ版に登場するお店も探されるんですか。
僕はやってないです。最初にそのことについてはすごく話し合いました。ディレクターがもう10年前から「これをドラマにしたい」と言っていて、10年目に実現したくらいなので、もう100回くらい読んでいるから、センスがわかってるんですよ。
お店の選択も任せられる。そこのところはみんな必死で、時間かけてやってくれるので。食べログ見んなよってね(笑)。
――なかなか雰囲気というか、五郎が行きそうなお店を選ぶというのは大変な作業ですよね。
大変。毎回50軒くらい行って、それも1軒につき2、3回くらい通って、それで決めているので、もう死にそう。都内はかなりまわってる。ドラマのほうは本当にある店なので、何か変化をつけるのが大変ですよね。料理も変えていかないといけないし。ブームと関係ないのがいいですからね。
――原作のお仕事ですが、久住さんの場合、作品ごとに関わり方が違うんですか。
違いますね。僕、「泉昌之」名義でデビューしたときは、コンテも描いて、コマ割りもして、簡単な絵も描いていました。弟と一緒に「Q.B.B.」(Qusumi Brothers Band)としてやるときもそうです。
でも、谷口さんの場合は大量の写真と、シナリオみたいにト書きの入った文章を渡しますね。『花のズボラ飯』はそれこそ文章だけ。写真はなし。家の中の設定は実際にある家を元に作ったんだけど、あとは料理を作って、食べてもらうという。
――料理も作るんですね。
『花のズボラ飯』では僕が作ります。そうじゃないと主人公の気持ちがわからないよね。だいたい締め切りが迫ってきて、「どうしよう」って打ち合わせして考えています。
大変ですよ。大変じゃないものはないです。
――1巻に登場した「シャケトー」なんかも、もともと久住さんが普段、食べられているものなんですか。
そうですね。でも、普段は食べれてないですね。何かのタイミングで試したことがあって、それでやってみようかなって思って編集の人たちと作ってみたら、「これは美味しい。簡単で、これだけでいいじゃない」となった。
『花のズボラ飯』はメニューを作ってから話ができます。まず季節感。やっぱり連載なので、いまの季節を取り入れてみようかとか、外に出たら何を食べるのかなとか、いまなら何を買うかなとか考えますね。
で、ちょっと外を歩いてみたりして、例えば農家の軒先で100円で何か売っていたら、これで話ができないかなと、ストーリーを考えます。
それで、谷口さんの場合も、花のズボラ飯もそうなんだけど、漫画としてできあがったものを見て、やっぱり台詞を直していますね。「ここまで絵で描写しているんだから、このセリフは言わなくていいんじゃない」とか、言い回しなどを変えていますね。
――原作を提供して、さらにフィードバックもして、1つの作品が完成していくんですね。
はい。そうですね。孤独のグルメのドラマのほうも、シナリオは脚本家が書いているんだけど、五郎の台詞は70%くらい僕が直してますね。五郎はこういう人だから、こう言うだろうと。
――五郎の食べたときのリアクション、台詞、すごく特徴的です。
テレビのグルメ番組、食べ物番組だと、とにかくカメラの前で食べて、何かリアクションをしなければいけないじゃないですか。
でも、『孤独のグルメ』は声に出すわけじゃなくて、頭の中で考えていることなんです。頭の中で言っている分にはどんなことでもあり。でも、「肉がジューシーだ」なんてことは絶対バツですね。頭の中でそんなこと言わないですよね。
――確かに。五郎さん、例えば川崎で焼肉を食べて、「うおォン」って言うじゃないですか。
そうですね。ああいう言葉が出ちゃうんです。実際に「うおォン」って言わせちゃうのが漫画だと思うんです。
人が食べているときとか、何かしているときの頭の中が面白いですね。あんなことをやってるとき、頭の中では何を考えているんだろう、みたいなこと。
――久住さんは漫画も描かれると思うんですけど、漫画を描くこと、原作を作ること、まったく違う楽しみがあるんですか。
漫画を描くのは面倒くさいですね。もう駄目。絵を描くのは時間がかかっても1枚で終わるのでいいんだけど、漫画はいっぱいコマを割って、いっぱい描かなきゃいけないからね。
漫画を描くのは向いてないね。やっぱり漫画というのは、ああいうものを描いていくのが好きな人にしか描けないと思う。漫画って大変な作業ですからね。
――原作を作るとか、設定を作るとか、そういったことのほうが好きですか。
人と組んでやると面白いからね。自分が考えたことを、その人のフィルターを通していくとどういうふうになるだろうって、いつもすごく楽しみです。だから描く人には、僕の原作を見て、「面白い、これは頑張ろう」って思ってもらえたら嬉しいです。
――『SPA!』で『孤独のグルメ』をやられて。『ズボラ飯』のほうは女性誌です。
だから始めるときはすごく、どうだろうっていうところ、ありましたよね。『花のズボラ飯』みたいに企画から何から読者から、全然僕が会ったことないような人に向けてやるっていうのは、なかなか勝負でしたね。
なので軽はずみにはやらないようにしています。女性誌に載る漫画というのは初めてで、しかも対象は主婦の方々です。どんな人が読んでいるのかわからなかったんだけど、「その人たちのことを意識しちゃ駄目だな」とは思ったんです。そうしたら失敗するなって。
だって、わからないんだから。わからないものに「こうじゃないか」って勝手に決めるのは失礼だし、「やっぱり自分が面白いと思うものを作るだけだな」と。
最低でも、かわいい女の子を描けないと好感を持ってもらえないなとか、知ったかぶりしたような料理は絶対駄目だなと思いました。じゃあどうやるのがいいんだろうかって考えて、僕でもできる料理を、僕が思いつくバカバカしいセリフを言いながら、そのまま可愛い主婦が作るという形になりました。
孤独のグルメもそうだし、花のズボラ飯もそうなんだけど、連載始めたときの評判ってそんなに芳しくないんです。
孤独のグルメが売れたのは文庫になってからなので、5年くらい経ってからですね。2刷くらいで絶版になって、文庫になってからようやく売れ始めたというのが『孤独のグルメ』。もう描いていたときから20年ですね。
――そういえば町をぶらりと歩いたり、ふらりと入った店をレポートしたり、そういったテレビ番組が、最近になって人気が出ている気がします。
僕は、いまの時代のことなんて全然考えないんですけど、ただ、圧倒的にみんなスマホだの、パソコンだのを見ている時間が多くなってきている。それで逆に、外に出てみたいというのはあるんじゃないですかね。
――久住さんの漫画、『花のズボラ飯』、『散歩もの』、『孤独のグルメ』とか、主人公がひとりで歩きまわったり、家の中にひとりでいたり、モノローグが多いと思うんですけど、それは何か理由があるんですか。
好きなんでしょうね。人の頭の中が好きだし、もともと食べ物の順番を考えて食べるって、頭の中で起きることじゃないですか。
それが照れくさいような気持ちがあって、そういう照れくさいことを大まじめに描いちゃったりしたら面白いかなって思ったのが最初です。
あとは自分ひとりでいることが多いっていうのもありますよね。旅行も一人旅がすごく好きなので、取材旅行には一切、編集者とかカメラマンとかつかない。
――メニューを見て、頼むものを決めるときって、頭の中フル回転しますよね。
でも、このごろは皆さんメニューを熟考よりも、スマホを見たりするからね。フル回転もしてなかったりするけどね。
レビューサイトの写真なんか見て、これ頼もう、みたいな。フル回転してない感じがする。もちろん、それは別にどちらでもいいことだと思います。
どっちでもいいけど、でも、フル回転してる様子のほうが漫画にはなりますね。何かを作るとなると、僕らはやっぱり今までなかった漫画を描きたい、面白い話を書きたい。そう思ったら、それはやっぱりネットをいくら調べてもできないですよ。失敗しないと。
――久住さんは音楽も作られていて、孤独のグルメのサウンドトラックはJASRAC登録なしで、許可を得たら誰でも使ってもいいと言っています。これはなぜ。
JASRACからちっともお金が入ってこないのをずっと実感していたから。そんなことよりみんなで自由にできたほうが楽しいじゃないですか。基本的にそれだけです。
だってJASRACって、自分の曲を自分のライブでやるのにもお金払わなきゃいけない。そんなことしたって絶対に何も戻って来ないから。そんな息苦しいのないなと思って、だから試しにやってみようと。でも何ら変わらないですね。
――何も困ることはない?
何も困ることはない。むしろCDを手売りする場合、僕らで完結しているのでJASRAC管理の印税制よりはるかに儲かりますね。そしていろいろなところで使ってもらってます。Twitterなどを通じて「使わせてください」って通知がよくきます。基本的に無料で使ってもらってる。ミュージシャンとしてすごく嬉しいです。
――どういうところで使われているんですか。
サントラだから、本当にいろいろなところですよ。個人の利用だったら全然OKですね。最近有名なのは、北海道に比布町という町があるんですけど、そこが宣伝の動画をものすごく『孤独のグルメ』っぽくしていて、孤独のグルメ的に比布町を紹介しているんです。
『ぴっぷなんだもん!』っていう動画がシリーズでいっぱいあって、主人公が比布町のお店に入って、頭の中で考えながら何か独りごとを言う、みたいな。そこにあのサントラを使ってるので、それはもう孤独のグルメっぽいですね(笑)。
――いまミュージシャン、デザイナー、いろいろな肩書がありますが。
デザイナーはもう辞めました。本職としては漫画家であり、ミュージシャン。どちらも同じくらいです。漫画家でデビューしたのが1981年なんだけど、その年に初めてライブハウスに出ました。
もちろん収入は違うだろうけど、関係ないよね。だってライブもこの3年ずっと、年間70本くらいやっています。
キャリアは長いから、曲もオリジナルの歌が100曲くらいはあるんですよ。だから、このメンバーでどれをやったら良くなるかな、みたいのを考えるのは、すごく漫画の原作に似てますね。ただまあ、自分がボーカルをやると、原作とはまた違うかもしれないけど。
――ミュージシャンとしての目標ってあるんですか。
ないですね。