愛媛県が出した加計学園をめぐる新文書に関連し、ニュースサイト「netgeek」が「朝日新聞が首相動静を証拠隠滅のために削除した」と記事を配信し、拡散している。結論から言えば、これは誤報だ。
新文書は首相の答弁と矛盾する内容
注目されている「新文書」には、安倍晋三首相が2015年2月25日に加計孝太郎理事長と面会し、「新しい獣医学部の考えはいいね」などとコメントした、と記されている。
安倍首相がこれまで繰り返してきた「2017年1月20日に獣医学部新設を知った」という答弁と矛盾する内容だ。
首相動静には面談記録が載っていない
しかし、新聞各紙が毎日掲載している「首相動静」「首相日々」などの欄には、首相が加計学園理事長と面談したという記録が残っていなかった。
また、朝日新聞のサイト上で公開されていた「2015年2月25日の首相動静」は現在、閲覧できなくなっている。
netgeekはこうした事実に注目して、「あろうことか朝日新聞は証拠と矛盾する首相動静の記録記事を削除した」などと指摘し、「証拠隠滅」と言い切った。
わざわざ首相動静を消す理由は思い当たらないので証拠隠滅に違いない。ネット上ではそう囁かれている
もっとも、これからマスコミは自社に都合のいい部分のみを取り上げて疑惑を報じるだろう。朝日新聞はなぜ首相動静を削除したのか、皆が納得できる回答を行うことはできるのだろうか?
「証拠隠滅に違いない」と断定しているが、断定に至る根拠は示されていない。
1万7000件以上シェア、百田氏らが拡散
この記事は、ネット上で大きく拡散している。計測ツールBuzzsumoで調べると、FacebookとTwitterで5月23日現在、1万7千件以上シェアされている。
小説家の百田尚樹氏らがつぶやいたことが、拡散に一役買っている。
証拠隠滅は根拠のないデマ
朝日新聞デジタルは、ほとんどの記事が掲載から1年以内に自動的に削除される。この記事の筆者の一人(古田)も担当者だった。
「netgeek」は「自動削除という声もあるが、残っているものもある」などと指摘しているが、1年を超えて残っているものはごく一部の例外だ。
2015年2月25日の首相動静は、少なくとも2017年5月時点(アーカイブサイト、Internet Archiveより確認)で消えていることがわかる。今回の新文書を理由に証拠隠滅を図ったというnetgeekの指摘は完全に間違いだ。
首相動静が全てではない
そもそも、首相動静に面会記録がないから、理事長と会っていないとは限らない。その理由を説明する。
各紙が毎日掲載する「首相動静」「首相日々」などの欄は、首相の1日の行動記録が載っている。しかし、全ての面会相手が網羅されているわけではない。
各紙の担当記者が張りついて記録をとっているが、首相官邸には複数の通用口があり、お忍びで人と会うのは難しくないからだ。
実際、安倍首相自身も2014年3月にフジテレビ「笑っていいとも!」に出演した際、「首相動静」について問われ、「実際にはもっともっとたくさんの方々と会っています」と語っている。
また、朝日新聞も5月23日の朝刊で、政権幹部が「新聞に掲載される『首相動静』にも載っていない」と述べたことに触れながら、以下のように反論している。
官邸には複数の出入り口があり、その全てを確認できているわけではない。また、官邸や公邸、東京・富ケ谷の私邸で記者に分からないようにする「極秘会談」も過去にたびたび行われてきた。
安倍首相や学園側は、2015年2月25日の面会を否定した。新文書は間違っていると主張していることになる。しかし、愛媛県側が文書で示してきたのに対し、首相側は、官邸への入廷記録はすでに破棄したと述べて、客観的な証拠は示されていない。