Twitter上で野党批判を繰り返し、不正確な情報や誹謗中傷が問題視されていたアカウント「Dappi」の発信元が、東京都内のWEB制作会社だった問題。
立憲民主党の小西洋之・参議院議員と杉尾秀哉・参議院議員が「Dappi」のツイートで名誉を毀損されたとして、WEB制作会社とその社長ら役員2人に計880万円の損害賠償などを求めた訴訟で、双方が主張を行う弁論が8月22日、東京地裁(新谷祐子裁判長)であった。
WEB制作会社側はこれまで、投稿は1人の従業員が業務中に私的に行っていたもので、会社側は把握しておらず、無関係であると主張。今回の裁判では、動画は1本あたり10〜20分ほどで作成可能で、「業務に支障を来さない範囲で行うことが十分に可能であった」と主張した。
まず、経緯を振り返る
フォロワー数17万人以上と、拡散力の大きいTwitterアカウント「Dappi」。主に野党やマスコミ批判の文脈から、国会答弁を編集した動画や、DHCテレビ「虎ノ門ニュース」の動画、インフォグラフなどを公開。その発信内容には不正確な点や誹謗中傷と批判されるものもあり、問題視されてきた。
訴状などによると、「Dappi」は2020年10月、森友学園の問題に関連し、両議員について、産経新聞に掲載された作家・門田隆将氏のコラム記事を引用しながら、「近財職員は杉尾秀哉や小西洋之が1時間吊るしあげた翌日に自殺」などとツイート。
これについて両議員側は、亡くなった職員に説明を求めたり面談を求めたりした事実はないとし、ツイートにより名誉を毀損されたと主張。両議員は産経新聞と門田氏に対しても、同様の訴訟を起こしている。
両議員側は「Dappi」について、以下の点から、発信元のWEB制作会社が業務として行ったと主張している。
- 平均1日6件のツイートを継続していること
- 投稿が平日午前9時〜午後10時に集中し土日にほとんどないこと
- 動画の編集や文字起こしなど、一定の作業が必要な投稿がほとんどであること
WEB制作会社の法人登記によれば、同社はサイト制作やコンサルティング、インターネット広告の運営管理などを担っている。民間の信用調査機関によると、得意先の一つは「自由民主党」。政党支部や大臣経験者との取引も確認された。
同社の社長が、「自民党の金庫番」「影の幹事長」の異名を持つ党本部事務方トップ・元宿仁事務総長の親族であることや、農水相や金融担当相を歴任した山本有二衆院議員(比例四国)と「友人関係」にあることが、BuzzFeed Newsのこれまでの取材で明らかになっている。
WEB制作会社側はこれまでの裁判で、「Dappi」の投稿が同社の従業員によるものとは認めているが、業務とは無関係であり、「私的なもの」であり、会社側はむしろ「被害者」としている。
その主張によると、従業員は業務時間中に会社からの貸与パソコンを使って投稿を繰り返していた。2021年4月にプロバイダ側から意見照会があったことで会社側が投稿を知り、社長による聞き取り調査を経て減給10%(3ヶ月)の懲戒処分を受けた。従業員はいまも在籍中だという。
「Dappi」動画の作成手順は?
「Dappi」の投稿は平日のに午前9時〜午後10時に集中し、1日平均6件ほどであることが明らかになっている。業務中、会社側に“バレず”にこれだけの投稿を私的にすることが可能なのかーー。裁判ではこの点が、新たな焦点となった。
WEB制作会社側は今回の裁判までに提出した準備書面で、新たに「一連の投稿は投稿者1人で比較的短時間で行うことができ、その労力も限定的であったことから、会社の業務に支障を来さない範囲で行うことが十分に可能であった」と主張した。
会社側の主張によると、「Dappi」の動画は従業員が私的に購入した市販の動画編集ソフトで動画の必要部分を抽出。聴きながら要約・文字起こしし、Twitterに投稿していたという。この作業には10分程度かかるとしている。
さらに、国会中継の場合は、あらかじめ審議のスケジュールを把握し、関心のある部分などをダウンロードし、編集していたという。また、1投稿分の作業で複数ツイートに及ぶこともあるともした。
当該従業員が2021年1月18日に「Dappi」に投稿された国会中継の切り取り動画(画像上)の作業を再現をしたところ、動画のダウンロードから投稿まで20分ほどで作業ができた、としている。
こうした作業が業務時間中に行われていてもバレなかったのかーーという疑問に対しては、ほかの社員や役員が当該従業員による「Dappi」投稿の作成に「気づくことは一切なかった」としている。
コロナ前からテレワークを実施しており会社には平均2〜3人しかいなかったこと、そもそも社内レイアウト上の見通しも悪く、動画編集は業務でも珍しいことではなかったことなどを、その理由としている。
また、WEB制作会社の社長が当該従業員に聞き取りを調査をした4月から、懲戒処分の11月まで時間が空いたことについては、「大きな問題になるとは考えていなかった」ために当初は注意にとどまっていたと主張。
10月ごろから報道関係者らの問い合わせや「押しかけ」で営業活動が著しく害されたため、減給10%(3ヶ月)の懲戒処分に切り替えたとしている。
そのうえで、「Dappi」はあくまで当該従業員による業務中の私的な投稿であり、会社の業務とは無関係であるという主張を繰り返した。
一方、両議員側は、WEB制作会社側の主張の以下のような点に疑問を呈している。
- 聞き取りと注意があったとされる4月以降も10月まで「Dappi」の投稿が続いていたこと
- 投稿のために国会中継やDHCテレビ「虎ノ門ニュース」の内容を視聴・確認する時間が勘案されていないとみられること
そのうえで、調査報告書や懲戒処分関係の書類の提出を求めている。WEB制作会社側の弁護士は、会社側と相談のうえ、検討するとしている。