食料問題の解決策のひとつとして世界的に広がりを見せている昆虫食をめぐり、「聖書の記述がコオロギも食べてよいと書き換えられた」などとするツイートが拡散している。
もともとは「いなごの類」だけとされていたものが、2017年に書き換えられたと主張し、それを「陰謀」などと指摘しているが、これは誤りだ。
当該部分についてはさまざまな解釈があるが、指摘されている聖書については、1970年に出版された旧版から「こおろぎ」の記載がある。
また、英語版の聖書では100年以上前から「コオロギ」(cricket)と記載されているものもあり、近年の昆虫食と結びつけるのは誤った見方だ。BuzzFeed Newsは、ファクトチェックを実施した。
拡散しているのは、国政選挙に政党の公認を受けて立候補した経験のある女性のツイート。
同じような投稿を繰り返しており、「昆虫食陰謀」「宗教まで変えてしまう」「闇が深い」などと指摘している。
聖書にはイナゴ以外の虫は食べては駄目だと書いてあったのですが、2017年から聖書の記載内容が変更されて「イナゴとコオロギ以外は食べてはならない」に書き換えられたので闇が深い。これ冗談ではないですよ。(2月15日、約5000いいね、17万インプレッション)
昆虫食陰謀。聖書では「虫を食べてはいけない。但し移住いなごの類、遍歴いなごの類、大いなごの類、小いなごの類は食べてよい」(レビ記11:22)でしたが2017年に新しくなった新改訳聖書はこの部分が「いなごの類、毛のないいなごの類、こおろぎの類、ばったの類」に変更。宗教まで変えてしまうとは…(2月14日、約1600いいね、6.5万インプレッション)
ツイートは「聖書修正までするのか」「用意周到な計画」などと拡散。なかには「聖書で禁じられたものを勧めるなんて悪魔」などとするものもある。
昆虫食を「陰謀論」の一環として批判する文脈で広がりを見せていることがわかる。
記述を確認してみると…
前述の通り、これは誤った情報だ。前提として、旧約聖書のレビ記にはさまざまな禁忌が記されており、「食べて良いもの、悪いもの」を規定している部分もある。
そのううえで、ツイートで指摘されているとみられるのは、「レビ記」(11章22)の『聖書 新改訳2017』(新日本聖書刊行会)の記載だ。
「それらのうち、あなたがたが食べてもよいものは次のとおりである。いなごの類、毛のないいなごの類、コオロギの類、バッタの類」(新日本聖書刊行会、聖書新改訳2017)
当該部分について、『新改訳2017』の旧版にあたる『聖書 新改訳』ではどう書かれているのか。調べてみると、1970年に出版された旧版にも以下の通り「こおろぎ」が含まれていることが確認できた。
「それらのうち、あなたがたが食べてもよいものは次のとおりである。いなごの類、毛のないいなごの類、こおろぎの類、ばったの類である」(新日本聖書刊行会、聖書新改訳)
カタカナになっている点や、言い回しなどの違いは見られるが、記載そのものが2017年に書き換えられたわけではない。拡散しているツイートは、誤りであることは明らかだ。
100年前の聖書にも…
レビ記を含む旧約聖書の原文はヘブライ語であり、翻訳によって、その表現は変わってくる。
指摘されている記載についても、原文にある4種類の虫と見られるものが何を指すのか、解釈が翻訳や訳者によって異なっている。
たとえば、英語に訳されたイギリスの「改訂版聖書」(1885年)や「アメリカ標準版聖書」(1901年)でも、当該部分には「コオロギ」(cricket)が含まれている。
「even these of them ye may eat: the locust after its kind, and the bald locust after its kind, and the cricket after its kind, and the grasshopper after its kind.」
一方、日本語に訳された聖書でも、翻訳者と出版社が異なる「新共同訳」(日本聖書協会、1987年刊)では、「いなごの類」の一部とされている。
「すなわち、いなごの類、羽ながいなごの類、大いなごの類、小いなごの類は食べてよい」(日本聖書協会、新共同訳)
なお、同じ日本聖書協会が2018年に刊行した「聖書協会共同訳」では「ばったの類」となっている。
「つまり、ばったの類、羽ながばったの類、大ばったの類、小ばったの類は食べることができる」(日本聖書協会、聖書協会共同訳)
国内では50年、英語版では130年近く前の段階から「コオロギ」の記載があることから、近年の「昆虫食」と結びつけて「陰謀」などとするのは誤った見方であると言える。
誤情報や陰謀論の拡散には注意が必要だ。
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