京都アニメーションの第1スタジオが放火され34人が死亡した事件。大勢のスタッフの命だけではなく、これまでの作品に関する資料も失われた。
こうした事態をめぐり、「京アニの火災で失われた資料や原画は、自民党の麻生太郎内閣が国立メディア芸術総合センターで保管しようとしたが、それを民主党が非難して阻止した」という言説が参院選直前、ネット上を駆け巡った。
結論からすると、この言説は文化庁も否定しており「誤り」だ。BuzzFeed Newsは、このツイートのファクトチェックを実施した。
拡散しているのは、以下のような個人によるツイート。選挙前日の7月20日未明のものだ。
京アニの放火で京アニが作ってきた作品の資料や原画などが焼失してしまいました。
実はこれらの資料や原画は、2009年に自民党の麻生太郎内閣が国立メディア芸術総合センターで保管しようとしたんだけど、それを国営マンガ喫茶だ!って非難して阻止した政党があるんだ。
民主党って言うんですけどね。
そのうえで、「いいかお前ら。何度も言うけどマジで政治を知れ」などと指摘した。
今回のツイートは選挙前のタイミングかつ、文化庁に直接の確認ができづらい土曜日のツイートだった。
訂正情報も広がってはいたが、結果的に6万8千以上リツイートされ、9万6千以上いいねがついている。
まず、経緯を振り返る
そもそも「国立メディア芸術総合センター」とは、漫画やアニメ、ゲームなどの資料収蔵を目指して計画されたもの。
自民党政権時代に計画がはじまり、2009年の麻生太郎内閣時代には予算が計上されて、文化庁所管で11年開館を目指した議論が進んでいた。
「アニメ・漫画の殿堂」などとも呼ばれたが、建設費に117億円かかるということもあり、民主党(当時)などの野党から批判が殺到。同党の鳩山由紀夫代表は「巨大国営マンガ喫茶」などとも揶揄した。
反対していたのは、野党だけではない。自民党の河野太郎議員(現・外務大臣)も「目的が決まっていないのに、箱物だけ建てても、百害あって一利なしだ」と述べており、同党の「無駄遣い撲滅プロジェクトチーム」も予算執行の停止を求めていた。公明党のプロジェクトチームでも、同様の意見が出ていた。
同年の衆院選では自民党が大敗。計画は政権交代を経て、撤回された。
文化庁の回答は
では、京都アニメーションの作品が資料や原画で保管する予定はあったのだろうか。
文化庁の担当者はBuzzFeed Newsの取材に、当時の担当者に確認をしたうえで回答。「個別具体のアニメーション会社の資料を保管するという話はありませんでした」と述べた。
「センターの主眼は現役ではなく、亡くなった先生の漫画の原画が散逸してしまうことを防がないといけない、というものに置いていました」
文化庁としても拡散しているツイートを確認したといい、「京都アニメーションの資料や原画を保管しようとした」という言説は間違いであると述べた。
ただし、「企業側から提供していただいた場合、一部作品が保管される可能性はあったかもしれません」という。
「1900年代から現代に至るまでの日本のメディア芸術の優秀作品は保管しようという話もあがっていました。京都アニメーションの関連作品だと、第10回メディア芸術祭(2006年)で『涼宮ハルヒの憂鬱』が審査委員会推薦作品に選ばれています」
「しかし、現実的に(現役の作品だと)会社のものでもあるので、全て保存できることはなかっただろうと考えています。施設の面積を考えても、難しかったのではないでしょうか」
「何かできることがあれば」
「可能性」「たられば」はあったとしても、ツイートからは「保管」が決まっていたように読み取れる。
先述の通り、批判したのは民主党だけではなかったという点も含めて、BuzzFeed Newsとしても「誤り」と判断した。
文化庁の担当者は、以下のようにも語っている。
「今回の事件は、我々としても残念な話。文化的資源が奪われている状況だが、さらにかけがえのない、かえることのできない人の命も奪われていまいました」
「資料に関しても、現状では、実際何が失われたのかもわからない状況です。状況を見極めつつ、文化庁としてもできることがあれば、と思っています」
BuzzFeed JapanはNPO法人「ファクトチェック・イニシアティブ」(FIJ)のメディアパートナーとして、2019年7月からそのガイドラインに基づき、対象言説のレーティング(以下の通り)を実施しています。
ファクトチェック記事には、このレーティングを必ず記載します。ガイドラインはこちらからご覧ください。
- 正確 事実の誤りはなく、重要な要素が欠けていない。
- ほぼ正確 一部は不正確だが、主要な部分・根幹に誤りはない。
- 不正確 正確な部分と不正確な部分が混じっていて、全体として正確性が欠如している。
- ミスリード 一見事実と異なることは言っていないが、釣り見出しや重要な事実の欠落などにより、誤解の余地が大きい。
- 根拠不明 誤りと証明できないが、証拠・根拠がないか非常に乏しい。
- 誤り 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがある。
- 虚偽 全て、もしくは根幹部分に事実の誤りがあり、事実でないと知りながら伝えた疑いが濃厚である。
- 判定留保 真偽を証明することが困難。誤りの可能性が強くはないが、否定もできない。
- 検証対象外 意見や主観的な認識・評価に関することであり、真偽を証明・解明できる事柄ではない。
UPDATE
「国立メディア芸術総合センター」に関する説明を修正しました。