「俺は俺でやる。だから投票に行かない」 棄権する20代の声を聞く

    「無関心」とは少し違う感情


    「若者が投票に行かない」と言われて久しい。

    総務省の調査によれば、2014年12月の衆議院総選挙の投票率は、20歳代が32.58%。最も高い60歳代は68.28%で、倍以上の開きがある。

    いったい、なぜか。

    「実際、どこが与党になって誰が総理になっても、自分の生活は大して変わらないじゃん。消費税が8%に上がった実感もあまりないし。別に、俺は俺でやるから」

    投票にいかない理由は、人それぞれ、あるだろう。「世の中に無関心で、何も考えていないから」というステレオタイプなイメージだけでは語れない。

    BuzzFeed Newsは、Nさんに話を聞いた。彼は、一度も投票に行ったことがない。

    26歳。東京に生まれ、ずっと実家で暮らしている。未婚。都内の大学を卒業して、映像制作会社に就職した。その後転職をし、カメラマンとして働いている。平日は朝10時から夜10時頃まで。土日にも仕事が入ることがある。

    土曜の夜、新宿のチェーン居酒屋で、Nさんはこんなことを語った。

    何も考えてないわけじゃない

    ——普段、ニュースはチェックしている?

    「通勤中にスマートフォンでウェブニュースを見たり、家で食事中にテレビを見たりする。ただ、テレビはつけているだけで、意識して見ているわけじゃない。新聞はまったく読まないね」

    「4月に熊本地震が発生した時には、スマホやテレビでこまめに動向を追ってた。熊本にいる友人がいるから心配で。情報を少しでも知っているのと知らないのとでは、違うと思う。世の中で話題になっていることは、知っておいたほうがいいと思ってる」

    ——最近、ほかに興味を持った話題は?

    「集団的自衛権に関する議論かな。軍拡を進める中国にどう対抗すればいいのか。『戦争反対』なのは当然だけど、SEALDsとか、他国に攻め込まれたりした時のことを何も考えていない人が多い気がする」

    「メディアによってはSEALDsを『若者代表』のように取り上げているけれど、俺はまったく好きじゃない。ただ、名前を出して正々堂々とやっているのは素直にすごいと思う。でも、その周りで『戦争反対』だけを叫ぶ人たちは考えが浅いんじゃないかな」


    ビールを飲みながら話した。Nさんは自分なりの考えを持っている。世の中に興味がなくて、日本社会がどうなってもいいと思っているわけではない。

    それなのに、なぜ投票に行かないの?

    政治家への不信感

    ——「若者は選挙に行かない」と言われるけれど、どう思う?

    「まあ、若者でも行く人は行ってるよね。一票の重み、というのもわからなくはない。でも、俺が投票に行っても行かなくても、何も変わらないと思う。世の中も、生活も」

    「投票に行く時間が無駄だとは思わない。けれど、政治に興味はないし、釣りに行ってるほうが楽しい。それに、俺も含めて日本国民のほとんどは政治に関して素人だろうから、やっぱり投票しても意味がないと感じる」

    ——今の政権、どう思う?

    「え……、何も思わない」

    ——政権の動きはチェックしている?

    「大きな出来事があれば見るけれど、そんなに気にしていない。実際、ほかの政党が与党になっても、そんなに変わらないと思ってる。外交とか、災害があった時の対応とか。裏で官僚たちが動いていて、表にその時の大臣が出るだけじゃん」

    「失言とか、ちょっとした不祥事があった時に、すぐに揚げ足を取り合うのが気になる。もっとほかに話し合うことあるんじゃないのか、と。小さなミスは絶対にあるし、何でも100%完ぺきにできる人なんていない。メディアも含めて、ちょっとしたミスでボロクソに言ったりするのはどうなのと思う」

    ——街頭演説を聞いたことはある?

    「まともに聞いたことはないし、どうでもいい」


    Nさんは静かに語る。政治に興味はないと言っているが、話していて退屈な様子はなく、口調は穏やかだ。

    ——TOHYO都」「国に届け」など、政党や選挙管理委員会が、若者向けの企画で投票を呼びかけている。どう思う?

    「存在は知っている。でも、あんなの、ぶっちゃけ見ないよ。やってることが、ちんぷんかんぷん。本当に若者に向けて作っているのかわからない。見る気にならないし、見たとしても投票に行く気にはならないと思う。どうせ、何も変わらないし」

    ——「白票でもいいから投票して、若年層の投票率を上げたほうがいい」という意見もある。

    「でも、政治家は変わらないでしょ」


    終始、表情はにこやかだったが、声は真剣だった。言葉の端々に、政治家やメディアへの不信感がにじんでいた。

    政治に関心がある若者の声は、メディアに取り上げられる。しかし、そこに出てこない彼のような人たちの声を、私たちはどれだけ聞いているだろう。

    棄権する人たちの気持ちを知らないままに、「投票にいこう」と呼びかけても、どれだけの効果があるだろう。

    「投票しても、俺の生活は何も変わらない。俺は俺でやるから」

    これが、「投票に行かない若者」の一人の声だ。

    7月10日。Nさんは、今回も投票に行かない。