渋谷駅から徒歩3分。井の頭通り沿いLOFT横に位置する飲食ビルの6階。
小洒落たJazz Bar「琥珀-amber-」のキッチンで昼間から麺の湯ぎりをする青年がいる。間借りの汁なし担々麺専門店「担担担(タンタンタン)」を営む斉木祐介さんだ。
RADWIMPSの結成メンバーという異色の経歴を持つ斉木さんに、間借り店舗の魅力と現在に至るまでの紆余曲折を聞いた。
ホームレスから汁なし担々麺屋へ
――汁なし担々麺の専門店って珍しいですね。
確かに、あんまり無いんじゃないですか。
――もともと専門店をやろうと?
汁なし担々麺の食べ歩きをしてたら自分でやりたくなりまして。去年の頭ぐらいに"プロ遊び人"って名目で遊んでいた時期があったんですよ。でもお金はないし、何しようかなって考えた結果、毎日1000円ぐらいで美味しいもの食べようって決めて。
ラーメンは種類が多すぎるけど、汁なし担々麺なら全制覇できるんじゃないかと思って、3ヶ月間毎日食べ歩きました。
――理想の汁なし担々麺を作りたい、みたいな。
食べ歩きしてるときに色んなアイデアが出てきたから、昔からお世話になってる料理人に相談して一緒にレシピを作りました
――間借り店舗を選んだ理由は?
俺いま家がないんですよ。友達の家の一角や漫喫で寝泊まりしていて、もう3、4年定住してないんです。身軽なホームレス生活。そんなんだから、間借りの店も身軽でいいなと思って。
担々麺って本来は担ぎ売りらしいんです。ほら「担」じゃないですか。だから運びやすいように汁なし。そこが俺っぽいなって思ってます。
――担担担のこだわりを教えてください。
ごまだれとかラー油は自分で調合して作ってるので全部がこだわりですが…トッピングや辛さ、シビれをカスタマイズできる"選べる幅"があるところですかね。
トッピングは温泉卵が人気で、次は納豆。担々麺屋では珍しいと思いますが、ひきわり納豆は麺に絡みやすいしおすすめです。
辛さのレベルも選べるんですけど、辛さって食べてると慣れるみたいです。四川省産の花椒のシビれもハマるのでぜひ。
「間借りって楽しい!」を広めたい
――オープンしたのはいつですか?
去年の10月です。去年の6月に担々麺が好きになって、9月までひたすら食ってそこから準備しました。なので好きになってから4ヶ月、思い立って1ヶ月。いろいろ早いですね(笑)
今の店で2店舗目なんですけど、7月中に3店舗目もオープンしました。最近は雑誌やバラエティー番組に出させてもらったり、フジテレビのニュースでも取り上げていただいて、有り難いです。
――ケータリングで出店もされてるとか。
ライブイベントとかですね。担々麺屋だから、担いで売りに行ってます。こういう話をしてると「うちの店使って!」と言ってくれる人や「私もお店やってみたいんだけど」って相談してくれる人が増えてきました。
なかなかすぐに行動出来ない人っているじゃないですか。そういう人にこんなやり方もあるよって事例になればいいかなと思ってます。
――間借り人口を増やしたい?
そうですね、自分が遊んでる街に面白い店が増えたら嬉しいので。間借りって初期費用が安いからリスクも少ないし、何年も貯金したり借金する必要もない。クラウドファンディングだってあるし。
「見て盗めー!」とかいって何年も修行するのもいいけど、必要な情報はYouTubeとかマッチングサイトとか、もしくは実際に足使えばいくらでもゲットできる時代ですから。
――寿司職人に下積みはいらない、という人もいますよね。
これは!ってコンセプトやレシピ、もしくはコミニュケーション、そういうものに自分の時間をつかって専念すれば持続可能で個性的な店が出来るんじゃないかと。
だから「間借りの店って楽しいよ!」を広めたい。今年34歳でいい年ですから、チャレンジする人を応援できる立場になりたいなってのもあるんです。身軽でもできるって自信もちょっとずつついてきたし、失うものもないし(笑)
紆余曲折ありすぎの半生
――先ほどホームレスだと聞きましたが、RADWIMPSから現在までいろいろあったみたいですね。
経緯を簡単に話すと、中学の時にRADWIMPSを結成して、辞めた後は縁があって元ザ・ブルーハーツのドラムの梶原徹也さんと2人でバンドやってました。そのツアー中に脳梗塞になっちゃって右半身不随になって。もうプレーヤーはできないなと思って音楽のイベント会社を始めました。
――経歴が渋滞してる。まずRADWIMPS結成のきっかけは?
ボーカルの野田くんと一緒の私立の学校に通ってたんですけど、その時から学園祭にでてる先輩バンドを見てかっこいいなーって思ってて。けどなんでか担任の先生が軽音楽部に入れてくれなくて。
中2の時にその学校を辞めて地元の公立の学校に転校して、そこでRADWIMPSのギターと出会いました。
そこでようやくギターを始めたんですが、そのうちに本気でバンドをやりたくなって、メンバーを集めたのがRADWIMPSです。
――在籍はいつまで?
高校卒業くらいですかねー。高2の時に横浜アリーナで開催されたバンド大会に出場して優勝したんです。それがデビューのきっかけ。
――すごい!しかしなぜ辞めたんですか?
バンドが売れたら自分達のMVを撮りたいなーと思って映像の専門学校に進学したんですけど、メンバーに「バンドやってるのになんで映像なの?」て、やりたいことが伝わらなくて…チラシとかHPも僕が作ってたからその延長線上だったんですけど。
そういうすれ違いがあったし、そもそも素行も悪かったから一緒にバンドできなくなっちゃいました。
――素行…スタジオを3時間予約してるのに最後の1時間しかこない奴、みたいな。
そうそう(笑) そういうのがかっこいいと思ってたのかもしれないですけど、間違ってました(笑)
――ブルハ梶原さんとの接点は?
小室哲哉さんのスタジオでバイトしてたことがあって、そこの人が紹介してくれて音楽番組の当て振りの仕事で一緒になったんです。なぜかDJ役だったけど(笑)
その収録の帰りに梶原さんが「バンドやらない?」って言ってくれて、なぜか2人でバンドやることになって、梶原さんのTHUNDERBEATってプロジェクトにギターで参加しました。
――梶原さんの決断もすごいですね。
そうですよね(笑) おそらく周りの大人たちが推してくれたのかなと。短い期間でしたけどめちゃくちゃ刺激的で貴重な時間でした。
――そのさなか病気になってしまったと。
ツアーから帰ってきてそのまま自分のイベントでDJやってたらいきなり脳梗塞になって病院に運ばれて。酔っぱらいだと思われて一度病院から帰らされたんですけど、次の日も治らなくてもう一度病院に連れていってもらったら脳梗塞だったっていう。
病気がわかってからはバンドの道を諦めて、音楽のイベントやデザインとかの会社を始めました。他にできることもなかったし、それ以外に選択肢がなかった。
――その状況で行動に移せるのがすごい。
身の回りのものを捨てたりして、どんどん身軽になったからってのもあるかも。なんにも無くてもなんでもできるんだなーって、ちょっとずつ自信もついてきました。
――病気を経験して考え方が変わった?
それはあまり無いです。いつ死ぬかわからないから思いっきりやろう!みたいな感覚は人よりあると思いますけど。
……やっぱりRADが売れてるってのが大きいのかも。だから俺も何かで同じステージまで上がらなきゃみたいなところはあります。一度はバンドで上手くいったっていう成功体験的な自信もあるし。
今だから言えるRADWIMPSへの思い
――自分が在籍したバンドが売れるって正直どんな気持ちですか?
………焦りがあるっちゃあるかも。どこに行っても曲が流れてくるし、映画の内容とか全然入ってきませんよ(笑)たまに夢にも出てくるし。でもそれもいい刺激だから、恵まれてるなと思う。
――前向きですね。
バンドをゼロからつくって上手くいきはじめたところまでは自分もいれたし、歌ってくれる人を見つけた嗅覚みたいなのはある種の自分の才能だと思ってますから。
――どのステージまで上がったら納得できると思いますか?
間借りでいうとなんだろうなぁ。うーん。でも、元メンバーに認めてもらえたらいいのかも。これはいいプロダクトだね!みたいな。
全国区になれたらいいとも思いますけど、昔のメンバーが今はこうやって頑張ってるんだって思えるところまで行きたい。そういう意味では執念じみたものがあるかもしれません。
担担担の汁なし担々麺は自信作だし、美味しいから食べに来てほしいな。
担担担
渋谷ロフト前店
住所:東京都渋谷区宇田川町17-1 ブラザービル6F
営業日:定休日なし
営業時間:11:30〜16:00
渋谷東急本店前店
住所:東京都渋谷区道玄坂2-25-7 プラザ道玄坂5F
営業日:水・木 のみ
営業時間:11:30〜16:00(ラストオーダー 15:45)
※売切れ次第終了
渋谷道玄坂ゴールデンボール店
住所:東京都渋谷区道玄坂2-22-6
営業日:定休日なし
営業時間:11:30〜17:00