高校2年生でデビューし、トップアイドルとして忙しい日々を送ってきたAKB48の横山由依さん。
コロナ禍で時間に余裕ができたことで、もともとの趣味だった読書の量が増えたと言います。
TwitterやYouTubeでたびたびおすすめの本を紹介していますが、「とにかく読んでいただきたい本」と熱く語った一冊が『82年生まれ、キム・ジヨン』。
幼少期の思い出から学校や職場での体験、結婚や育児に至るまで、一人の女性の半生を生々しく描き、韓国では社会現象に。日本でも、翻訳小説としては異例の20万部を超えるベストセラーになっています。
一人の女性として、アイドルとして。「もっと社会について学びたい」「今、関心があるのはフェミニズム」という横山さんの頭の中を聞きました。
そういえば自分にも…小説を通して気づいた辛さ
――『82年生まれ、キム・ジヨン』、TwitterでもYouTubeでも紹介されていましたよね。
自粛期間中に原作小説を読んで衝撃を受けて。秋に公開された映画も観に行きました。
タイトル通り、精神科医による1982年生まれの女性のカウンセリング記録という形で、彼女の半生を振り返っていくんですけど、本当にいろいろ考えさせられましたね……。
女性として今まで生きてきた中で気づけなかったこと、違和感すら感じていなかったことを「そういえば自分にも似たようなことあったな」「これ、確かに今考えたらおかしいな」と突きつけられて。
例えば痴漢とかってあまりに身近にありすぎて当たり前だったじゃないですか。女性だから強いられてきた辛さとか我慢とか、私にもあったんだな……って。
――韓国では女性アイドルが「読んだ」と公言したら大炎上。一部の男性から激しいバッシングを受けた事件でも話題になりました。
私もこの本を読んだっていうのは、ちょっと勇気が必要でした。
でもそれは「バッシングされるかも」という不安より、自分のことをうまく話せないのがずっとコンプレックスだったから。この本に心動かされた理由をうまく説明できるだろうか? と思ったからです。
同時に、これは自分で考えてちゃんと言葉にしていかないといけないことだって思いもありました。だから今回「『キム・ジヨン』の感想を聞きたい」と取材の依頼をくださってうれしかったです。やっぱり今、勉強しなきゃいけないタイミングなんだ、って改めて思ったので。
――ちょうど横山さんの興味が向いている方向だったんですね。
20代も後半になってきて、「知らなかった」で済ませてはいけないことが世の中にはたくさんあるな、とひしひし思うようになってきました。
経済とか環境とか、世界が抱える問題はこれだけではないですが、私は女性として生まれ育ってきたし、アイドルとしての経験で感じたこともある。
女性の問題、生きづらさ――いわゆるフェミニズムについては今一番身近に感じていますし、すごく関心があります。
違和感を言葉にしていくこと
――アイドルとして活動してきて「生きづらさ」に直面することもありましたか?
わかりやすいところだと、仕事柄「太った」「痩せた」ってしょっちゅう言われる、とかでしょうか。
そうかこれはルッキズムって言うのか、なんて言葉を知って、心に浮かんだモヤモヤをもう少し深く考えやすくなりました。
あとは、これはマネージャーさんとも話したことがあるんですけど、社会全体で女性の立場がまだまだ弱い中で、女性アイドルは特に「どうせ何もできないでしょ」「未熟でいいと思っているんでしょ」という目で見られている空気は感じますよね。
それはちょっと変じゃない? と感じることがあっても、声を上げる前に、まず本業である歌やダンスをスキルアップしなきゃ説得力がないのかな……と思っていた。
でも、気づいた時点でちゃんと考えていく、自分なりに言葉にしていくのは大事かもしれない、って最近は考えるようになりました。
ジャンルは違いますが、「めっちゃKawaii TV」で、自分がずっと好きで、でもうまく公言できなかったコスメや美容についてお話するチャンスもそのひとつだと思っています。
社会問題についてはまだまだ知識不足で、意見や考えをうまく言えないのがもどかしいですけど。いろいろ本を読んで話を聞いて、勉強しているところです。
今日カバンに入っている本はこんな感じです。
――すごい、3冊も! 読書お好きなんですね。
両親も姉も本が好きで――『キム・ジヨン』をすすめてくれたのも姉でした――小さい頃から読書はよくしていたんですけど、AKB48に入ってからは忙しくてなかなか……。
新型コロナでお仕事が休みになって時間ができたことで、小説から実用書、写真集まで久しぶりに本を読む生活になりました。
また本を読むようになって思ったのは、アイドルになって12年、日々お仕事や現場で学ぶこともいっぱいあるし、特別な経験もたくさんさせてもらったんですけど、自分の内面を深めたり見つめたりするのはできていなかったなって。
人としての中身を深めていくのは、これからの課題だと思っています。
紙の新聞を読み始めた
――素敵ですね。横山さんがこれからどんなことを語っていくのか楽しみです。
エマ・ワトソンさんをはじめ、海外の女優さんやアーティストさんは、はっきり思いを言葉にしていてカッコいいですし、この数年でその傾向はますます強まっている感じがしますよね。
AKB48の卒業生の秋元才加さんとかも、SNSで自分の考えをきちんと提示できている姿を見てすごく素敵だなって。
そういえば、最近紙の新聞を購読し始めたんですよ。私は社会のことを全然知らないなぁと思って。
――紙の新聞! 横山さんの世代では珍しいですね。
ネットニュースは結構読む方だったんですけど、自分の興味のあるもの中心になっちゃうじゃないですか。新聞だともっと広く見渡せるのがいいなと。8月の戦後75年の特集とか熟読しちゃいました、すごく興味深かったです。
一紙しか取ってないので、リテラシーが高い人には「それはそれで偏っている!」って怒られちゃうかもしれないですけどね。
――いやいや! 知らないことがあるからこそちゃんと勉強しようという意識はとても勇気づけられます。
学生時代にちゃんと勉強してこなかったツケが回ってきているってだけかも(笑)
「男性が嫌い」なわけじゃなくて…
「フェミニズムに関心があります」と言うと「男性が嫌いなの?」って言われることもあるんですけどそうじゃなくて……そうじゃないんですよね! 男性も女性もみんなが自分らしく生きられる世界になってほしい。
だからこそ、医学部の入試で女性の受験生の点数が一律で下げられていたニュースとか本当にショックでした。平等にチャンスが与えられているはずの場で、そんな理不尽なことあっていいのかって。
自分に直接関係があるわけじゃないけど、それが社会の構造によるものならちゃんと批判したい。知らないからって議論に参加できないのは避けたい。
私がつい最近気づいただけで、女性差別に限らず、私たちが生まれるもっともっと前から社会にはたくさんの問題があるわけですよね。
声を上げてきた人がいて、今がある。私も少しずつでいいから自分の言葉で発信できるようになっていきたいです。すぐにどうにかならなくても、未来の子どもたちがもっと自由に生きていける世界になったらいいな。