プロの音楽家たちがそれぞれの自宅から“合奏”! 新日本フィルハーモニー交響楽団が公開した「遠隔パプリカ」の動画が話題を呼んでいます。
参加したのはなんと総勢62人。オーケストラのほとんどのパートが揃っています!
それぞれの画面から垣間見える個性と生活感もおもしろい。ちびっこが映っていたり、
お店の中(?)だったり。
好きなパートに注目して見ることもできます。5分半、飽きずにたっぷり楽しい〜!!
新型コロナウイスの影響で、演奏会が次々に中止になっているクラシック音楽界。
社会的にリモートワークの機運も高まるなか、「オーケストラも何かできないか?」と発足した「テレワーク部」の活動がこの遠隔演奏です。
最初は4人でスタートし、日を追うごとに参加者が増加。あくまで有志参加ですが、最終日にはオケ全体の7割のメンバーが手を挙げました。
BuzzFeed Newsは、テレワーク部の発起人であり動画の編集も担った「中の人」、副首席トロンボーンの山口尚人さんにお話を聞きました。
「ま、一回試してみるか!」勢いでスタート
ーー「テレワークパプリカ」をやろうと思ったきっかけは?
現在、新型コロナウイスの影響で私たちのオーケストラは全面的に活動を停止しています。
オーケストラによっては、無観客ライブ配信などの手段で演奏を続けていますが、私たちは本拠地のホールも閉鎖されていて集まることもできない状況です。
新たな感染者を出さないためにも楽員はそのことを受け入れざるを得ないなか、この状況でも何か私たちメンバーでも演奏できないか考えている時に、政府が「テレワーク」を推進しているニュースを観ました。
オーケストラという特殊な職業ゆえにテレワークには最も向いていないのですが……「ま、一回試してみるか!」という完全な私の思いつきではじめました!
それぞれの“自撮り”を重ねて
ーーこれだけの人数の皆さんで、どうやって“合奏”していらっしゃるんですか?
Web会議のように同じタイミングで演奏しているわけではなくて、各自の自宅や好きな場所で自分のパートの演奏動画を自撮りしてもらい、僕がそれを集め、1本の動画に編集しています。
未経験のチャレンジですし、参加者も「どうなるんだろう」と思っていたようですが、自撮りでいい演奏をしさえすれば、私がなんとか合成してくれるという安心感からか、チャレンジしてくれる人が増えたようです。
皆さんには、パプリカの原曲をイヤホンで聴きながら、それに合わせて演奏してもらっています。音程やリズム、テンポなどはもちろん本物のパプリカにタイミングを合わせてほしいとお願いしましたが、それでもやっぱりずれますね。
「いつものオケやっている時のアンサンブル力と感性で対応して!」とかなり無理な要求をしていました(笑)。
ーー演奏するみなさんにとっても動画を見るまで全貌がわからないんですね! パプリカという選曲も素敵です。
比較的合わせやすいビートが安定している、子供からお年寄りまで幅広い層に聴いてもらえる、そして何より、閉塞感の漂う現状を少し忘れて明るくなれる曲として選びました。
実はこの2月のファミリーコンサートで演奏したばかりで、私がオーケストラ版の楽譜をアレンジしていたんです。
とはいえ、一人で自撮りで演奏しながら、誰かとアンサンブルすることを想定するのはプロでも難しかったと思います。
「ほんとに同じパプリカ聴いてます!?」
ーー撮影に不慣れな方もいらっしゃったと思うのですがトラブルはありましたか?
まず、同じ曲を聴いて演奏しているのにテンポがどんどんすれる! これは再生や撮影する機器の違いでも起こるようで、「ほんとに同じパプリカ聴いてます?」みたいなこともありました(笑)。
メトロノームを使ってテンポを合わせるのも試しましたが、本当に練習みたいでノリがなく、楽しい感じにはなりませんでした。
あとは、それぞれの演奏のクセ、例えばどういうリズムの取り方がカッコいいと思えるかなどは人によって全く違うので、毎日アップする動画を楽員それぞれが研究していたようです。
数名の自称機械音痴の方は、撮影からデータの送信に至るまで「どこをどう押せばいいの?」みたいな状態でしたので、スマホの機種を聞いて説明書や画面の画像を探し、やり方を調べメールにわかりやすく書いて送っていました。
ーー手厚いサポート! 逆に、やってみてわかったおもしろさや楽しさはありましたか?
普段お客様に聴いていただくのは、オーケストラの演奏として出来上がった状態です。
が、今回は「いくつかの楽器だけ」など、「各種パーツ」の状態で動画を出す回が多く、パーツがどんどん組み合わさって1つの音楽ができあがるプロセスが動画でも表現できたんではないかと感じます。
いつもは1つのオーケストラとして、ザックリひとまとまりにみられている一人ひとりのそれぞれの息遣いや緊張感、演奏にかける熱量を感じますし、生活や空気感までフレームから滲み出ていたのが印象的で面白かったですね。
一番悲しいのは、音楽を届けられないこと
ーー新日本フィルさんに限らず、いま世界各地のオーケストラが大変な状況だと思います。演奏者の皆さんはどんな思いでいらっしゃるでしょうか?
プレーヤーはこの先も公演のキャンセルがいつまで続くのか心配しています。コロナが収束した時、経済的な事情で演奏家でいられるのか……ぶつけどころのない不安を抱えて生活しています。
その一方で、コンディションを維持する必要があるので、たいたいの音楽家は家で練習漬けの毎日だったりします。
一番悲しいのは、音楽を届ける職業なのに音楽を届けられないことです。経済的な事情などすっ飛ばして、これがいま一番音楽家にとって辛いと思います。
こういう時に音楽はなんの力にもなりません。コンサートをすることは不謹慎だとたくさんのご批判を受けることもあります。
でも少しおさまってきた時には音楽がまた人を癒し、勇気や希望を持たせ生きる活力になるものだということに気付いてもらえると思っています。なのでそれまでは辛いですが……テレワークで頑張ります!