DeNAのキュレーションメディア問題。3月13日に公開された300ページを超える調査報告書には急成長を追い求め、正確性や法令遵守に無頓着な運営実態が詳細に描かれている。だが、疑問が残る。責任は誰にあるのか。
報告書の「原因・背景分析」の章では、2人の人物の問題が記されている。A氏、B氏と匿名にされているが、メディア統括部長の村田マリ氏と、MERYを運営するペロリ代表取締役の中川綾太郎氏であることは文脈から読み取れる。
キュレーションメディア事業が他人の権利を侵害しかねないというリスクに対して、2人には「感度が十分に備わっていない」ため、DeNAは「それ相応の対処をすべきであった」と報告書は指摘している。
実はこの章で名指しで個別の問題を明確に指摘されたのは、この2人だけだ。あとは組織的な問題として、「コミュニケーション不全」「"反・大企業病"に対する行き過ぎた称揚」などが挙げられている。
中川氏はペロリ代表を辞任、村田氏も辞任の意向を表明している。
守安社長が果たした役割は
だが、責任はそこに止まらない。報告書は守安社長の関与を繰り返し指摘する。
守安社長はスマホゲームの停滞で次なる成長のエンジンを求め、iemoとペロリの2社を買収した後の2014年12月、高い目標を掲げた。
2018年3月までにMERYを除く9サイト合計で、「1000万DAU及び四半期あたり10億円の営業利益」、MERY単体で「400万DAU及び四半期あたり10億円の営業利益」というものだ(DAUは1日あたりユーザー数)。
守安氏は目標とする時価総額から逆算して目標DAUを計算。それを9サイトを統括する村田氏と、MERYを率いる中川氏に伝えていた。
報告書ではこれに、村田氏が「相当高い目標設定である」と受け止めたとある。
3月13日、第三者調査委員会の会見でBuzzFeed Newsはこの点を質問した。そもそも難しい目標だったのではないか。守安社長との間で議論はなかったのか。
委員長の名取勝也氏は、こう話す。
「『大変な目標ですね』というやりとりはあったが、社長からの指示だからそれに向かって全力を尽くした」
守安氏は他にも、数字が安定しないソーシャルメディアからの流入でなく、検索結果から来る来訪者の数を指標とするよう指示するなど、事業の全体方針の策定に大きく関わっていたと報告書は指摘している。
調査報告書を受けて、守安社長は月額報酬50%を6ヶ月間減給の処分を受けた。
村田氏と中川氏の責任とは
守安氏は会見での質疑で、3月12日に開かれた取締役会で事業運営の責任者として2人の進退が問われ、辞任の申し出があったと説明した。
BuzzFeed Newsは、この点も会見で質問した。報告書には守安社長が目標や方針を決めていたとある。そうであるならば、村田氏と中川氏の責任は具体的にどの部分にあるのか。
守安社長は「法令遵守、コンプライアンス」が守れなかったことを挙げた。その上で、自身が立てた目標についてはこう説明した。
「どのくらいの目標が妥当、というところもいろいろ議論がある。私も南場に高い目標を設定されて、それをどうやってクリアしていくのか知恵を絞ってきた。高い目標自体が問題なのかというと、議論があると思う」
再度、質問した。事業責任者に課した目標は、法令を遵守しても達成できる数字と考えていたのか。
「その時点では、そうできるのではないかと考えていたということです」
DeNAの責任とは
確かにMERYやそのほかのキュレーションメディアには、著作権を侵害するコンテンツがあった。だが、そのような問題点はDeNAがそれらの事業を買収する段階で既に社内から指摘が出ていた。
報告書は、ベンチャー企業のコンプライアンス意識が一部上場企業などと比べて低いことを指摘した上で、次のようにDeNAを批判している。
DeNAはiemo社及びペロリ社の買収を契機に、iemo社やペロリ社の役職員のコンプライアンス意識をDeNA社のコンプライアンス意識と同じ水準にまで早期に高める必要があり、そのための施策が講じられるべきであったが、当委員会から見ても、こうした施策が十分に講じられたとは考えられない。
また、こうも書いている。
DeNAは「大企業病に陥っているDeNAに、iemo社やペロリ社のスタートアップのマインドを浸透させる」という旗印の下、iemo社やペロリ社のコンプライアンス意識に積極的にメスを入れるのではなく、逆に遠慮してしまったように思われる。
村田氏と中川氏の辞任は、2人の責任を強く印象づける。ネット上ではメディア統括部長だった村田氏を名指しで批判する声が数多く見受けられる。
だが、報告書全体を通してみれば、守安社長やDeNA全体としての問題が指摘されている。村田氏と中川氏はメディア事業の責任者の地位からは辞任するが、今のところDeNA内に止まっており、対外的には沈黙を守ったままだ。
再開は可能か
急成長したスタートアップメディアがDeNAに買収され、その段階から指摘されていた法的なリスクの顕在化によって、休止の判断がくだされ、創業者がその地位を追われた。
報告書は、村田氏や中川氏には「iemoやMERYを通じてどのような価値観をユーザーに提示するか」という点について「確固たる考え」があり、DeNA側にはそれがなかったとも指摘している。
代表取締役に復帰する南場智子氏は会見でキュレーションメディア事業の再開について「白紙」と述べた。
それぞれのメディアの創業者であり、「確固たる考え」があった2人が去った後、DeNAはどのようにしてメディア事業を再開できるのだろうか。