近年働き方改革が進み、時間的な効率性や雇用のフレキシビリティといった利点から「リモートワーク」を導入する企業が増え、また今後さらなる拡大が予想されます。
それにより、従来は顔を合わせて行っていたコミュニケーションを「ビデオ会議」に代替する機会も増加しています。しかし、画面越しの会話のしづらさなどから、良い運営方法を見つけられていないと感じる人は少なくないのでは?
「やっぱり対面のほうが話しやすい」と言われてしまうこともあるビデオ会議ですが、実は相手に“伝わるコツ”はいろいろあります。
今回は、リモートワークを全社で10年以上実践し続け、さらに企業がリモートワークを行うための仮想オフィスツール「Remotty」の提供も行うソニックガーデンの野本司さんに「ビデオ会議の鉄則」について、ビデオ会議で伺いました。
働く場所が縛られないことの魅力と意外な悩み
——まずは、野本さんのお仕事について教えてください。
エンジニアとしても働いていますが、主に新規事業開発やマーケティングを担当しています。具体的にはソニックガーデン全体のマーケティングやリモートワークを支援する仮想オフィス「Remotty」のマーケティング、リモートワーク専門メディア「リモートワークラボ」の編集長もやっています。新卒で入社し、気づけば今年で3年が経ちましたね。
——新卒で、完全リモートワークの会社を選んだ理由はなんでしょうか。
海外の大学に通っていたので、卒業時期が3月ではなく8月でして。僕は勉強が楽しかったので留学期間中に就職活動をあまりしておらず、帰国してから就職活動を始めましたが、すでに多くの企業では採用し終えてしまっていました。それでもいろんな企業をWeb上で検索し説明会にも行きましたが、採用パンフレットを見てもあんまりピンとくる企業が見つからなかったんです。
そんな中、唯一ソニックガーデンだけは、代表のブログやコーポレートサイトで働き方や社風についてたくさん情報を発信していたので、学生からしたらとても分かりやすかったんですよ。また、単発ではなく月額定額の契約を結び、顧客と長い関係を築く「納品のない受託開発」というビジネスモデルにも惹かれました。
僕は帰国後、兵庫に住んでいたので、最初の面談はビデオ会議で行うことに。当時の僕はプログラミング未経験者で、技術的なことはまったく分からなかったこともあり、まずは入社前にいちから学ぶことになりました。
平日の昼過ぎまでは雑務の手伝いをし、昼からは代表の倉貫とビデオ会議を利用してプログラミングの修行をしました。約3カ月間、画面共有をしながらプログラミングスキルを学ばせてもらいました。そうして入社前からずっと兵庫に住みながらリモートワークをしています。
——就活をされた2017年当時は、ビデオ会議はまだメジャーではなかったと思いますが、抵抗感はありませんでしたか?
不思議と驚きはありませんでしたね。海外に留学していたので、普段から家族や友人と話すときにビデオ会議を使うことが多かったんです。国際電話だとかなりお金がかかるので。
実際リモートワークの環境ではありがたいことばかりですよ。まず、リモートワーク不可であれば、僕は望んでいなくとも東京に住まなければいけなかったと思います。お金がかかるし、通勤には時間がかかる。その点今は、兵庫に住み続けることができていますし、仕事が終わって移動なくすぐに別の勉強を始められたり、時間やお金を効率的に使えていると感じますね。
また、僕は旅行が好きなので、海外に行きながら仕事ができるのも良い点です。この前はマルタ共和国やオランダへ行き、現地で仕事をしていました。いわゆる “ワーケーション” です。会社を長期で休むことなく、行きたい国にいけるので、働く場所が縛られないことは嬉しいです。
そういえば、オフィスで働いている知人から「会議室を準備するのが結構大変」と聞いたことがあります。部屋の予約をしたり、ホワイトボードを準備したり。リモートワークだと大した準備はいらず、ボタンひとつで話せるので楽かもしれませんね。
強いていうとデメリットは、運動不足になりがちなこと……。朝起きて、ベットを出てから通勤にかかるのは「徒歩5歩」のみ。やっぱり理由がないと外には出ないですから、逆に健康面を意識するようにはなりました。今では週4日はジムに通っています。そうでもしないと、極端な話1日100歩以内で生活できてしまいますからね(笑)。
そもそも僕は人と会うのが好きなんです。でも、社員は全国各地に散らばっていて、遠いところだと北海道にいたりするので、そんなに頻繁には会えないのはちょっと寂しい。だからみんなで自由に集まって、ワーケーション的に二泊三日の旅行に出かけたり、ハッカソンを開催したりしています。
「仮想オフィス」で通常のオフィス空間を再現する
——リモートワークを円滑に進めるために意識されていることはありますか。
これはビデオ会議にも通じることですが、通常のオフィス空間をリモート上でも実現しようということを意識していますね。
僕らは主に自社サービスの「Remotty」を使っています。そこでは、メンバーの顔が数分に1回表示されるので、オフィス同様「髪切った?」という会話が生まれたり、「背景が違うけど今日はどこからつないでいるの?」と雑談したりすることもしばしば。本当に “仮想の” オフィスなんです。
各自に部屋が用意されていて、話したい相手の部屋にアクセスし、掲示板のチャットで会話をすることも可能です。プログラミングは簡単に説明できないことも多いので、ワンクリックでビデオ会議を立ち上げて話すこともあります。
これは通常のオフィスでいうと、「今ちょっといい?」と肩を叩いて話しかけるような感じと同じですね。だけど、肩を叩きにいく移動の手間がない分、もしかしたらオフィスよりも便利かもしれません(笑)。チャットでの会話の内容は、ログにも残りますし。
また、他の人同士が話していることも画面の一番右に表示されるので、なんとなく “オフィス全体” の雰囲気も掴めます。「あっちのほうでなんかわちゃわちゃしてるぞ」というのが伝わってくるような感じですね。
もちろん、カメラをオフにすることもできるのですが、あくまでここはオンライン上のオフィス。オフィスでは顔が見えることが普通ですし、お互いの顔が見えるほうが人は安心しますから、なるべくカメラはオンにしています。仮に海外など時差のある場所で働くときは、少し早起きするなどして、同じ時間帯に顔を見て働けるようにしていますね。
そもそも、最初にリモートワークを始めたのは10年前。当時は渋谷にオフィスを構えていて、社員数は5人でした。「海外で働いてみたい」というメンバーが一人いたので、まずはお試しとしてSkypeでつなぎ続けて、いつでも話せるような体制を用意して始めてみたんです。
しかし、そのうちリモートワークをするメンバーが増えていくと、Skypeで常時つないでいる人数が多すぎて「誰が何を話しているのか」よく分からない状態に。そうした自社の課題が、Remottyをつくるきっかけになりました。そんな経緯もあり、開発会社でありながらリモートワークの手法には結構こだわっているんだと思います。
“伝わる”ビデオ会議の鉄則——よくある失敗と解決法
——リモートワークを進めたものの、頓挫した企業の事例もよく聞きます。どうしたら上手く導入できるのでしょうか。
よく失敗してしまうケースは「一気に進めてしまうこと」が問題なんです。働き方改革の流れにそって、社長の号令で始める企業が多いのですが、必ずしも一気に始めなくても良いんですよ。例えばまず、オフィスのレイアウトを変えること。メンバーの席を全部壁側に向けて、顔が見えづらい状態に慣らしていくんです。
次に、トライアルで1週間、リモートワークをやってみる。すると、例えばですが、紙の資料では共有できないと気がつき、ペーパーレスを導入するなどの改善が進んでいきます。業務を効率化するために無駄を省いていったら、「結果的にリモートワークになりました」くらいの状態がちょうどいいんです。
ビデオ会議にしぼると、良いツールを使うことも大切です。僕らはいろいろ試しましたが、Zoomが一番使いやすいですね。Googleハングアウトだと画面共有をすると自分の顔が消えてしまいますが、Zoomでは顔が見える状態だったりします。
とにかく、大きく始めて大きく失敗して、「やっぱりリモートワークはやめよう」となってしまうのは、もったいない。
——なるほど。それでは、ビデオ会議のなかでよく起こる課題と、対処法があれば教えてください。
ありがちなのは、複数人で1つのPCを使い、そこに1人がリモートワークで参加するケース。これは上手くいかないですね。話が聞き取りづらいだけでなく、現地のメンバーだけで話が進んでしまったり、現地で勝手に資料が配布されるなんてことも。そうなると、リモートワークのメンバーは孤独感どころじゃなく、まともに議論ができなくなってしまう。
ちゃんと議論を進めるためには、可能であれば別の部屋、難しければ少し距離を置いてもらって、一人ひとり違うパソコンからつなぐことがポイントです。疎外感がなくなり、公平に話がしやすくなりますよ。そもそも人数は多くても5人が限度。結局話すメンバーは決まってしまうので、大人数ではビデオ会議をしないほうがいいと思います。
僕らは納会や入社式、勉強会までもオンラインで開催しているのですが、その際は違うやり方を取り入れています。Zoomの「ブレイクアウト機能」を使い、小部屋に分かれて進めるんです。これなら、40人規模でも話ができますし、大人数の前では萎縮してしまう人でも発言できますね。
また、会議が始まる前の声かけも意外と大事。「これからつなぎますね」という一言があるだけでも印象は変わりますし、もし仮に前の会議が伸びていた際に、お互いに「待つ・待たせる」という無駄も省くことができる。
また、シンプルですがマイクつきのイヤホンを使って始めることも重要です。慣れていない人ほど、ノートパソコンでそのままつないでしまいがちですが、周囲にはノイズが聞こえて聞き取りづらくなってしまう。高度な性能はいらないですし、iPhoneに付属していたもので十分なので、必ずマイクつきのイヤホンをつないで始めましょう。
仮にカフェやコワーキングスペースなど外でつなぐ場合は、周りの音がうるさい時があるので、自分が話さない時間はミュートにする気づかいも大切です。それでも騒がしい時は「Krisp」というノイズキャンセリングアプリを使うのがオススメですね。
また、外でつなぐ際、自分の席の後ろを通る人に画面や資料を見られたくない時は、パソコンのモニターに覗き見防止シートを貼りましょう。それと、慣れるまでは会議が始まる前にテストをすると安心です。
ちなみに余談ですが……自宅の僕の部屋は和室なんですが、ふすまが見えるとプロっぽくない雰囲気が出てしまうので、自由が丘にある自社のオフィスを撮影し、拡大印刷して普段から画像を壁に貼るようにしています(苦笑)。
細部の工夫が「相手に伝わるビデオ会議」をつくる
——話す際や聞く際に工夫していることはありますか。
1つは、相槌を大きく打つこと。いくら顔が見えているとしても、表情だけでは伝わりづらい。話し手にちゃんと聞いていると伝わるように「うんうん」と声に出しながら、大きな相槌や身振り手振りをすると安心して話してもらえます。
次に、意見を聞きたい時は「◯◯さんどうですか?」と名前をはっきり呼ぶ。そうしないと、誰に対して投げかけているのか分からず、発言が浮いてしまいます。そうして指名された時にもし仮にすぐ答えられない時は「今は考えています」と伝えることも。無言で考えていると、人って厳しい表情になりがちですからね。
また「これについて」「あれについて」という分かりづらい指示語も使わないほうがいい。「右側の画像について」と明確に伝えたり、画面共有をした上でマウスを該当箇所に合わせて動かしたりするとで、より伝わりやすくなると思います。「Mouse Locator」という、マウスを大きな矢印に変換してくれるアプリを使うと、さらに聞き手は分かりやすくなると思います。
——会議の内容はどのようにログを残すのでしょうか。
事前に議事録のようなドキュメントを用意し、それを画面共有をした上で進めていくんです。通常の会議でいう、ホワイトボードみたいな感じだと思います。
ちなみに僕らのビデオ会議では「ラジオ参加」する人も多いですよ。ラジオ参加とは、自分のビデオと音をミュートにして、まるでラジオを聞いているかのように参加すること。基本的にオープンな会社なので、自分が気になる会議には移動中やジムの時間に参加するメンバーもいますね。
——たくさん、ビデオ会議のコツが出てきましたね。
本当ですね。だけど、こういう働き方…… リモートワークとかビデオ会議が浸透すると、「実際に会う」ことの価値は逆に上がっていくと思っているんです。「今回、わざわざ東京のオフィスに行くことにはどんな意味があるんだろう」と、僕自身考えるようになりました。
1時間ビデオ会議でつなぐのと、1時間実際に会うのとでは、やっぱり後者のほうが “近くなれる” 感じがするじゃないですか。たぶん、「この人おしゃれだな」とか、「背が高いんだな」だとか、相手について気になること、ツッコミどころに気づけるようになるからかもしれません。それが会話のきっかけになる。やっぱり「実際に会う」って大事なんです。
ですから、繰り返しになりますが、従来のオフィス空間をどうリモートでも再現していくか、対面する働き方とリモートワークの差分を埋めていく、という考え方が大切。僕らも、あくまで旧来的な働き方を土台にしているから、ちゃんと ”伝わる” し、今の働き方が成り立っているんだと思います。
——今日はありがとうございました。そろそろ締めなんですが、ビデオ会議の「終わり方」にもなにかコツはありますか?
そうですね……「はい、終わり」でサクッと終わるのもいいですけど、なんだか堅苦しい感じもするので、僕は結構手を振ったりしますね。それではまた!
まとめ:相手に「伝わる」ビデオ会議、14の鉄則
- オフィスでの会議をリモートで再現することを意識する
- ビデオ会議中はなるべくカメラをオンにする
- 良いツールを使う。Zoomがオススメ
- 3人以上で実施する場合、一人ひとり違うパソコンからつなぐ
- 大人数では実施しないほうがいい
- 「これからつなぎますね」など会議が始まる前に声かけをする
- マイクつきのイヤホンを使って始める
- 自分が話さない時間はミュートにするよう気づかう
- 慣れるまでは会議が始まる前にテストをすると安心
- 相槌を大きく打つ
- 意見を聞きたい時は「◯◯さんどうですか?」と名前をはっきり呼ぶ
- 指名された時、すぐ答えられない時は「今は考えています」と伝える
- 「これについて」「あれについて」という分かりづらい指示語を使わない
- 事前に議事録のようなドキュメントを用意し、それを画面共有をした上で進める
株式会社ソニックガーデン 経営企画室主任 野本司
新規事業開発及びマーケティングを担当。ソニックガーデンのリモートワーク環境を生かし、国内外を移動しながら働く生活をしている。
[取材・文] 水玉綾 [企画・編集] 岡徳之 [撮影] 伊藤圭
iXキャリアコンパスより転載(2020年1月31日公開の記事)