南沢奈央の読書日記
2024/12/27

雪で始まり、雪で終わる

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撮影:南沢奈央

 日々、読んだ本を記録している。一年ごとに分けているので、その年に何冊ほど読んだのかもすぐに分かるようになっている。
 2024年はどんな本を読んだのだろうかと振り返ってみると、川端康成の『雪国』から始まったものの、小説は約100冊中35冊ほどであった。半数以上は小説だと思っていたので驚いたが、たしかに実感として、最近は詩や短歌・俳句に興味が向いているのでそうなるのも納得ではある。
 また、姪っ子甥っ子がいることで、絵本への食指が遠慮なく動くようになった。書店に行けば必ず、絵本・児童書コーナーは覗く。そうしてすぐに姪っ子甥っ子の存在は後回しになって、自分で読みたいものや飾っておきたいものを手に取ってしまう。そういえば『パンどろぼう』は、結局姪っ子にあげないまま手元にある……。先日3歳の姪っ子にあげた『大ピンチずかん』は、一人でこたつで熱心に読んでくれているらしいから、やはり『パンどろぼう』も今度のお正月に持っていってあげようか。
 逆に人にはあげられないなという本が二冊ある。長田弘さんの詩集『深呼吸の必要』と歌人・穂村弘さんのエッセイ集『蛸足ノート』だ。年中すぐに手に取れる場所に置いておき、今年は何度も手に取った。『深呼吸の必要』に関しては、秋に舞台の制作と公演で約1カ月半の間滞在していた岐阜県可児市で大変お世話になった。枕元に置いておいて、テキトーに開いて一篇の詩を読んでから寝るというのがルーティンだった。不思議なもので自宅に戻ってきてからはしていないが、時々ふと読みたくなって開く。
 そして下半期は、日本経済新聞の「プロムナード」というコーナーで毎週エッセイの連載をさせていただいたのが、ある意味、新しい挑戦であった。本や落語といったテーマがない中で、純粋なエッセイを書く。とても楽しい時間だった。その執筆の際に、参考にさせてもらったというか、“書く”という推進力をもらっていたのが、『蛸足ノート』だった。こちらも読売新聞で連載されていたものだ。軽快で、でも味わい深い文章。何気ない日常を切り取りながらも、それを受け取る感性が魅力的で、ハッとさせられることも多々。そして穂村さんの使う言葉や文章のリズムがとても好きで、読むと、いろんなことをわたしも言葉にしたいと思わせてくれるような力があるのだ。お世話になりました。これからもよろしくお願いします。

 

 半年間の新聞連載も無事に終わり、年の終わりも見えてきた最近は、毎日舞台の公演に燃えている。今年は大晦日まで東京での公演が続く。今までにない年末年始になりそうで、わくわくしている。
 日々上がっていく高揚感の中で、家に帰ってきてこたつに入り、ホッと一息つく。そうして、大好きな雪見だいふくと共に味わうのが、『雪のうた』だ。100人の歌人による100首の〈雪〉の短歌アンソロジーである。
 左右社から出ている短歌アンソロジーシリーズ、実は『海のうた』、『月のうた』に続き、第3弾となる。季節ごとにもちろん全て楽しませてもらっているのだが、どれも本当に素敵な装幀で惚れ惚れしてしまう。表紙の紙質なんか相当こだわって作られている。今回の『雪のうた』も持ったときの手触りでまず、雪を感じる。本として、作品として、とても愛おしい存在だ。
 雪は、東京に住む人間からしたら、出会えるか出会えないか分からない、特別なものだ。だから降ったら、とてもうれしい気持ちになる。大変なのは分かっているが、積もってほしい、とすら思ってしまう。でも日常的に雪があると、もっと特別な雪を見ることができるのかもしれない。
〈東京の人は知らないだろうけれど雪はときどきひかるよ、青く〉
 盛岡在住のくどうれいんさんの一首。青く光る雪……それはそれは綺麗だろう。「東京の人は知らないだろうけれど」というのが良い。東京にいれば何でもできる、何でも見られるとよく思われるけれど、こうした自然に関することは、どうしたってできないことがある。雪国だからこそ見ることのできる、美しい景色。そういったものを知るために、来年はたくさん旅に出られたらいいなと思うのだ。
 エッセイで楽しませてもらった穂村さんの歌もやはり魅力的。
〈体温計くわえて窓に額つけ「ゆひら」とさわぐ雪のことかよ〉
 情景が浮かぶ。“雪のことかよ”という軽やかなツッコミから想像するに、夫婦だろうか。熱を出してしまった奥さんが体温をはかり、窓で額を冷やしながら、雪が降り始めたのを発見。口に体温計をくわえているから、「雪だ」が「ゆひら」とおかしな発音になってしまう。とても可愛らしい。そして二人で笑いながら雪を眺めるのだろうなと思うと、とても微笑ましく、あたたかい。
 微笑ましい二人が見えてくるというと、こちらも。
〈外に降る雪の様子をみてるからあなたは鍋の様子をみてて〉
 こういったアンソロジーの歌集で好きだなぁと作者の名前を見ると、岡本真帆さんの短歌であるということが多い。一緒に雪を見るではなく、鍋を〈あなた〉に任せて、自分だけ見に行く無邪気さが可愛い。こう言われたら、仕方ないなぁと相好を崩してしまう。
 短歌はたった31音から、ばぁっと情景が現れて、さらに言うと物語すらも見えてくるからおもしろい。一首だけで、一晩中こたつで想像が止まらなくなりそうだ。
 だからこの本は一冊だけれど、100首=100の物語に出会うことができる。あらゆる雪に出会い、これからもっと寒くなることも楽しみになってきた。

『雪国』から始まって、『雪のうた』で終わる2024年の読書。本から受け取ったたくさんのものが溶けてなくならないように、わたしはこうして言葉に変えて残していく。
 来年も、良き本と出会えように。良いお年を。

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南沢奈央

生年月日:1990年6月15日
出身地:埼玉県
血液型:O型
身長:164cm
趣味:読書・落語鑑賞
好きな食べ物:そば・卵焼き
特技:ピアノ・韓国語

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