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京セラの稲盛和夫名誉会長(83)は、企業統治(ガバナンス)改革が進む日本で活動を活発化させている物言う株主(アクティビスト)に関連し、短期的な利益の実現を求めてくる株主に対しては、状況に応じて毅然(きぜん)と拒否することも必要だとの考えを示した。
稲盛氏はブルームバーグとのインタビューで、株主還元を強く求めるアクティビストについて「投資家がなるべく多くのリターンを得たいと考えるのは一面正しいし理解できる」と指摘。ただ、「会社をつぶして社員を路頭に迷わせるわけにはいかない。安全に経営するためにはこれだけの余裕が必要だと、わがままな要求に対しては毅然として言わないといけない」と述べた。
安倍晋三政権は海外企業に比べて低い日本企業の収益力を高めるため、ガバナンス改革を進めており、株主資本利益率(ROE)8%以上を目標とする具体的な数値目標を掲げた。こうした中、オアシス・マネジメントは3月、京セラ株約1%の株式を所有しているとして同社に対し、日本航空株やKDDI株を一部売却して株主還元に回すことなどを求めた。
ブルームバーグのデータによると、京セラはKDDI株の13%を保有する筆頭株主。稲盛氏は、株式売却による株主還元は「当然、投資家としては言いたいことだと思う」としながらも、「KDDIを筆頭株主として守っていく責任もある。持ち株を散らして、株主構成が不安定になるのは決していいことではない」と述べ、同社は京セラが中心となって設立した経緯を説明した。
保有資産の価値が急膨張
KDDIの株価は、携帯電話事業の好調などを背景に過去3年間で4倍近くに上昇。保有するKDDI持ち分の時価は、京セラ自体の時価総額のほぼ半分(9900億円)に達するなど急速に資産価値が膨らんでいる。こうした中で9月末時点の京セラのROEは5.8%とTOPIX構成銘柄平均の8.6%より低い。
オアシスのセス・フィッシャー最高投資責任者(CIO)は、ブルームバーグの取材に対し「われわれは株主であって『わがままな』株主ではない」とし、「経営陣が株主から会社を守る義務があるという考え方は、まさしくアベノミクスで変えようとしている行動原理だ」と稲盛氏の考え方に不快感を示した。
KDDI株の価値が急拡大する一方で、同時期の京セラの株価は50%程度の上昇にとどまり、TOPIXの84%を下回った。稲盛氏は1959年に京都セラミック(京セラ)を創業。84年には通信自由化を受け第二電電(KDDI)を設立、2010年には破綻した日本航空の経営を引き受け再上場に導いた。
「従業員が一番」
稲盛氏が創業した京セラの社是は、会社経営の目的を「全従業員の物心両面の幸福を追求する」ことだとうたっている。会社法では株主が会社の所有者だと規定されているが、稲盛氏は「株主より従業員が一番だ」と断言する。「社員を大事にし、喜んで働いてくれれば会社の業績は上がる。それは株主にとってもいいことで、決して利害が対立することではない」と考えるからだ。
稲盛氏が経営理念を説く私塾「盛和塾」には、中小企業の経営者らを中心に9000人が集う。サンフロンティア不動産の堀口智顕社長は、年12回は盛和塾に顔を出す。「稲盛塾長は経営の神様そのものだ。日本航空社員の顔ぶれは変えずに心を変えて、たった2年で急回復を実現させたことでも分かる」と述べた。
稲盛氏は65歳の時、臨済宗妙心寺派円福寺で在家得度を受けた。まだ5、6歳の頃、父親に連れられて郷里・鹿児島で得た「隠れ念仏」の体験が自分の原点で「神様、仏様の存在があり、厳しい環境、いい環境、どんな環境でも与えてくれている天地、自然に感謝する気持ちを持ち続けてきた」という。「経営者が企業を治めるためにはまず自分自身を治めていく規範を身に着けることだ」と説いた。
京セラの株価は午後1時42分現在、前日比91円(1.6%)高の5678円で取引されている。
(見出しの名前を訂正済みです)