居酒屋チェーンを経営する「ワタミフードサービス」の女性社員が過労自殺した問題で、女性の両親が12月上旬、創業者の渡邉美樹参院議員ら会社側を相手取り、損害賠償を求める訴えを東京地裁におこした。その額は「懲罰的慰謝料」を含め、約1億5300万円になるという。
報道によると、この女性は2008年に入社し、神奈川県内の店舗に配属されたが、休日をほとんど取ることができず、長時間勤務を強いられた。1カ月の残業時間は、国の過労死認定基準を超える141時間にのぼったという。女性は適応障害を発症し、入社からわずか2カ月後、マンションから飛び降りて亡くなった。
女性はその後、過労自殺として労災認定された。両親が訴えた理由は、自殺までの状況説明や謝罪、再発防止策の提示といった求めに会社側が応じなかったからだという。今回、両親が求めている「懲罰的慰謝料」とは、どのようなものなのだろうか。あまり耳にしないが、過去に認められたことはあるのだろうか。過労死や過労自殺の問題にくわしい波多野進弁護士に聞いた。
●懲罰的慰謝料は「同じことを繰り返させないため」にある
「我が国における裁判所が認定する慰謝料などの損害賠償の額は通常、加害者の不法行為等によって実際に生じた損害に見合った額となります。
一方、『懲罰的慰謝料』は、制裁や抑止のため、言い換えれば『同じことを繰り返させないため』に、実際に生じた損害以上の額の賠償金を、加害者に支払わせるものです。
日本の裁判では、このような懲罰的慰謝料は、広く一般的に認められているとは言えません」
このように波多野弁護士は説明する。アメリカなどでは、巨額の賠償金が課されることも珍しくないが、日本では考え方が違うようだ。日本の裁判では、慰謝料の額はどう決まるのだろうか。
「裁判の実務において、慰謝料は一応の基準らしきものはありますが、それはあくまで目安で、法律上いくらと決まっているわけではありません。
したがって、加害者の態様や悪質性、反省の有無、加害行為後も同種の行為を繰り返しているなどの事実が裁判で立証できれば、慰謝料を増額させる事情があるとして、一般的に認められている額以上の慰謝料が認められることもあり得ます」
●「痛ましい事件を二度と起こしてほしくない」という遺族の思い
いわゆる「相場」はあるが、例外もあるというルールのようだ。今回のケースについてはどうだろうか? 波多野弁護士は次のように指摘していた。
「現行の不法行為などの損害賠償の枠組みや最高裁判例からすると、懲罰的慰謝料は認められにくいと思います。
ただし、本件は満足な支援もないまま、過労死基準をはるかに超える長時間労働を新入社員にさせ、自死に追い込んだという非常に深刻なケースで、遺族の方々もこうした痛ましい事件を二度と起こしてほしくないという思いで、訴訟を起こされたようです。
もし仮に、他の店舗でも過重労働によって過労死や過労自殺や休職者が生じていたり、不払い残業の問題が頻発していたり、このような痛ましい事件が起こった後でさえ、そうした状況が放置されていることなどが裁判で立証されれば、通常の慰謝料の目安を相当程度超える慰謝料が認められることも、十分あると思います」