アメリカ・イリノイ州に住む女性が、「スターバックス」のアイスコーヒーなどに入れられる氷が多すぎるとして、同社を相手取って、500万ドル(日本円でおよそ5億3000万円)の損害賠償を求める訴えを起こした。
報道によると、女性は、イリノイ州の連邦地方裁判所に起こした訴えの中で、スターバックスで販売されているアイスコーヒーなどは、氷が多すぎて、店頭で表示されている容量の半分ほどしか入っていない場合も多くあるという。
その上で女性は、スターバックスが虚偽の表示で不当な利益を得た詐欺の疑いがあると主張。過去10年間に氷入りのドリンクを購入したすべての顧客を代表するとして、500万ドルの損害賠償を求めている。
訴えについて、スターバックスは「冷たい飲み物に氷は不可欠なものだと客は理解しています。商品に不満がある場合は喜んで作り直します」とのコメントを出している。
今回、裁判を起こした女性は、すべての顧客を代表して損害賠償を求めているが、日本でも、このような形式の裁判を起こせるのだろうか。仮に日本で今回のような裁判を起こした場合、請求が認められる可能性はあるのだろうか。上田孝治弁護士に聞いた。
●日本では「他の消費者を代表した損害賠償請求」はできない
「まず、日本では、個々の消費者が他の消費者を代表する形で損害賠償請求を行うことは認められていません。個々の消費者が請求できるのは、あくまでもその消費者自身が被った損害についての賠償のみです」
上田弁護士はこのように述べる。
「もっとも、日本においても、平成28年10月から、アメリカの制度とは異なりますが、一定の要件を充たす集団的な消費者被害について、国が認定した消費者団体が原告となって訴訟を起こし、個々の消費者の被害回復に向けた手続を行う『消費者裁判手続特例法』がスタートする予定です。
したがって、今年10月以降に発生する集団的消費者被害事案については、この新しい制度に基づいた被害回復がなされる可能性が出てきます」
個人が日本で今回のような裁判を起こした場合、請求が認められる可能性はあるのだろうか。
「例えば、缶ジュースの販売で、実際に入っている容量が表記されている容量より少なかったという事案であれば、個々の消費者の損害自体はわずかかもしれませんが、少なかった分に相当する金銭請求が認められると思われます。
しかしながら、本件のように、店頭で冷たいドリンクを販売するケースでは、店側が氷を除いたドリンクの容量として具体的な数字を示し、『氷を除いて●ミリリットルのドリンクを提供します』という約束を消費者と結んでいたと評価できる事情でもなければ、そのような契約内容であったとは認められないでしょう」
弁護士ドットコムニュースがスターバックスコーヒージャパンの広報担当者に取材したところ、氷を除いて何ミリリットルの飲み物を提供するかは、客に対して情報公開していないそうだ。社内では、それぞれの大きさのカップについた目盛りに合わせて、「この目盛りまで注入する」「氷はこのくらい入れる」と指導しているとのことだった。
「よって、本件のようなケースで個々の消費者が金銭請求をしても、通常は、店側に、氷を除いて一定の容量のドリンクを提供すべき約束があったとまでは言えないとして、消費者の請求は認められないと思われます。
店頭におけるドリンクの提供とは異なりますが、過去には、ズワイガニの通信販売で重量を2㎏と表示していたケースで、行政が、ズワイガニの脚の表面に付いた氷の膜を含めた総重量は約2㎏であるものの、氷の膜を除いた重量は約1.6㎏に過ぎなかったことについて、景品表示法上の有利誤認につながるおそれがあるとして『注意』をしたこともあります。事業者も、誤解を招くような容量の表記は避けるべきです」