トルコでなぜあれほど多くの建物が倒壊したのか 耐震対策は

ジェイク・ホートン(BBCリアリティーチェック)、ウィリアム・アームストロング(BBCモニタリング)

Collapsed building in Iskenderun

トルコ南東部で発生し、トルコとシリアに甚大な被害をもたらした地震では、多くの建物が倒壊した。その中には、耐震性能をうたう比較的新しいものも含まれた。真新しいマンションが崩れた様子に、トルコ国内では怒りの声が上がっている。BBCは、がれきと化した新しい建物3棟に注目し、その安全性について調べた。

マグニチュード(M)7.8と7.5の2つの地震が6日未明と同日午後にトルコ南東部で発生し、トルコ南部とシリア北部にまたがる広い地域で数千棟の様々な建物が倒壊。2万人以上が死亡した。

全壊した建物の中には、新築の集合住宅も含まれていた。このため、建物の建築基準について喫緊の深刻な懸念が立ち上っている。

今の時代の建築工法なら、今回のような揺れの強さに建物は耐えられるはずだった。そして、過去の震災の経験から、トルコでは地震に備えた耐震基準が徹底されているはずだった。

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Presentational white space

BBCが特定した新築ビル3棟のうち1つについては、大勢が安全な場所を探して叫び、走る様子がソーシャルメディアに投稿された映像に映っている。

トルコ・マラティヤに建っていたマンションの下半分が崩れ、そのがれきの上に建物の下半分が傾いて載る様子が見える。

動画説明, この建物は最新の耐震基準に準拠していたとされている

このマンションは昨年建てられたばかりで、「最新の耐震規制をすべて順守して完成」したとうたう不動産広告のスクリーンショットがソーシャルメディアに投稿されている。

広告は、建築資材も技術者も「一級」のものを使ったとうたっていた。当時の実際の広告はもはやオンラインにはないが、ソーシャルメディアで拡散しているスクリーンショットや動画は、同じ会社の類似の広告と体裁が同じだ。

昨年完成した新築の建物ならば、2018年に刷新された最新の建築基準に沿って建てられたはずだ。地震多発地帯の建物は、鉄骨・鉄筋で補強した高品質コンクリートの使用が義務づけらている。建物が揺れの衝撃を吸収するよう、柱や梁(はり)を張りめぐらせる必要もある。

ただし、このマンションでどのような建築工法が使われていたか、BBCは確認できていない。

地中海沿岸にある港湾都市イスケンデルンでも、比較的新しい集合住宅が大きく崩れた様子が撮影された。16階建ての建物と横面と後ろ側が完全に崩れ、建物の一部だけがわずかに残っている。

Building in Iskenderun
画像説明, 2019年に完成したイスケンデルンの新築マンション、震災前と震災後

BBCは倒壊した建物の写真と、建設会社の広報写真を照合した。それによると、この建物は2019年に完成した物件だという。だとするならば、これも2018年施行の新しい建築基準に沿って建てられたはずだ。BBCは建設会社に取材を試みているが、回答を得られていない。

イスケンデルンの南にあるハタイ県の県庁所在地アンタキヤでも、9階建ての集合住宅が大きく崩壊した。BBCが確認した写真には、この建物が含まれるマンション群の名前「ギュチュル・バフチェ」が書かれた看板も見える。

BBCはこの「ギュチュル・バフチェ」の落成式の動画も発見。それによると、2019年11月に完成したという。

その動画でセルアル建設のオーナー、セルヴェト・アトラス氏は、「ギュチュル・バフチェ・シティーは、その場所と施工の品質から、他の物件に比べて特に特別なものです」と話している。

Guclu Bahce

画像提供, Twitter

画像説明, アンタキヤで大きな被害を受けたマンション群

BBCの取材に対してアトラス氏は、「私はハタイ県で何百もの建物を開発した。悲しいことに残念ながら、そのうち2棟が崩壊してしまった」と話した。

アトラス氏はさらに、今回の地震があまりに大規模だったため、アンタキヤ市内で無事だった建物はほとんどないと述べた。「一部の報道機関が報道のふりをして、見方を変え、スケープゴートを選んでいる様子は残念だ」とも話した。

被災地であまりに多くの建物が倒壊したことから、トルコでは多くの人が、建築基準法の内容を疑問視するようになっている。

確かに今回の地震は強力だったが、適切に建てられた建物ならば倒壊はしなかったはずだと、複数の専門家が指摘している。

英ユニヴァーシティ・コレッジ・ロンドンで緊急事態対応の計画と管理を専門にするデイヴィッド・アレクサンダー教授は、「今回の地震の最大強度は激しかったが、しっかり造られた建物を崩壊させるほどではなかった」と話す。

「ほとんどの場所で揺れの程度は最大限のものではなかったので、倒壊した数千棟のほとんどが、合理的に想定される耐震建築基準に見合っていなかったのだろう」

建築基準の徹底に不備

トルコではこれまでの被災経験から、建築規制が強化されてきた。1999年に北西部イズミットで起きた地震では、1万7000人が死亡している。

しかし、2018年の最新基準を含めた建築基準は、十分に徹底されていない。

「以前からある建物がほとんど改修されていないのに加えて、新築の建物についても建築基準がほとんど徹底されていない」と、アレクサンダー教授は言う。

BBCのトム・ベイトマン中東特派員が取材した南部アダナの住民は、25年前に地震被害に遭いながらその後、適切に修復されないままだった建物のひとつが、今回倒壊したと話した。

一方、たとえば日本は地震が多いにも関わらず、数百万人が高層集合住宅に暮らしている。そうした国の事例を見ると、建築基準がいかに被災時の安全確保に関係するかうかがえる。

日本の建物の安全基準は、建物の用途や、地震によるリスクが高い地域との距離で決まる。単純に建物を強化する「耐震構造」のほか、「制震構造」(「ダンパー」と呼ばれる振動軽減装置を設置する)、そして建物を免震装置の上に置くことで、地面と建物を直接触れさせない「免震構造」方式がある。

Japan building standards graphics
Presentational white space

なぜ建築基準の徹底が不十分だったのか

しかしトルコでは、安全基準を満たさない違法建築に対し、政府が「行政処分免除」を繰り返し提供してきた。安全基準を満たさなくても、一定の金額を払えば、法的に見逃されるという仕組みだ。これは1960年代から続き、最近では2018年にこうした「処分免除」が実施された。

いざ大地震が起きれば、政府のこの政策が大惨事を引き起こす危険があると、もう長いこと批判されていた。

トルコ技師・建築家組合連合(TMMOB)の都市計画協議会のイスタンブール主任、ペリン・ピナル・ギリトリオール氏によると、トルコ南部の被災地では、7万5000棟の建物にこの「処分免除」が与えられていたという。

トルコのメディアは地震が起こるわずか数日前、最近の建築工事にさらに免除を与える新法案が議会の承認を待っていると報じていた。

地質学者のセラル・センゴル氏は今年初め、断層線上にあるこの国でこうした免除法を成立させることは「犯罪」に等しいと指摘していた。

BBCトルコ語は2020年に西部イズミル県で大地震が発生した後、同県で67万2000棟が直近の免除の恩恵を受けていたと報じている。

この報道では、2018年時点でトルコの建物の50%以上に当たる約1300万棟が建築基準違反だという、環境・都市省の話も引用している。

同省は今回の地震後、建築基準についての質問に対し、「我々の管理下で建設された建物で倒壊したものはない。被害状況の調査は、現地で早急に進められている」 と述べた。

追加取材:オルガ・スミルノヴァ、アレックス・マリー、リチャード・アーヴァイン=ブラウン、ディライ・ヤルチン

(英語記事 Turkey earthquake: Why did so many buildings collapse?)