安倍氏が銃撃で死亡、この衝撃は日本を永遠に変えるか

ルーパート・ウィングフィールド=ヘイズ、BBC東京特派員(奈良)

Japanese Prime Minister Shinzo Abe at Joint Base Pearl Harbor Hickam's Kilo Pier on December 27, 2016 in Honolulu, Hawaii.

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安倍晋三元首相(67)が8日午前11時半ごろ、奈良市で街頭演説中に銃で撃たれ、午後5時過ぎに死亡が確認された。第一報が報じられて以来、私のもとには友人・知人から次々とメッセージが流れ込んだ。日本でこんなことが起きるなんて、いったい何事か。誰もが同じ思いで当惑していた。

私もかなり同じ思いだ。この国に暮らしていると、暴力事件についてあまり考えないのが、普通のことになっていく。

しかも、この暴力事件の被害者はよりによって、安倍氏だ。なおさら衝撃が深まる。

安倍氏はもはや日本の総理大臣ではないが、今でも日本社会の大きな影響力を持つ有名人だ。過去30年の日本の政治家で最も有名な人物だと言えるかもしれない。

いったい誰が安倍氏を殺そうなどと思うのか。いったいなぜ?

似た事件というとほかに何があてはまるのか、考えている。地元の人たちに同じくらい衝撃を与えた、政治的暴力事件は。思いつくのは、1986年に起きたスウェーデンのオロフ・パルメ首相殺害くらいだ。

この国の人たちは暴力事件のことを考えずに日々を過ごしている。決して誇張してそう言っているわけではない。

確かに、ヤクザはいる。悪名高い日本の暴力団だ。しかし、普通の人はほとんどめったに暴力団に接しない。暴力団の側も、銃の違法所持に対する罰則があまりに厳しいため、銃をあまり使いたがらない。

日本で銃を手に入れるのは、非常に困難だ。犯罪歴があってはだめだし、講習の受講は必須で、精神科医の診断書の提出が求められる。警察による広範な身辺調査では、警官が近隣住民に免許申請者について聞き取りもする。

その結果、この国では銃による犯罪はほとんど存在しない。銃による年間死亡件数は平均して、10件未満だ。2017年は3件だけだった。

それだけに、銃撃犯と、使われた武器に、注目が集まっているのは、不思議なことではない。

いったい何者なのか。銃はどこで手に入れたのか。日本のメディアは、41歳の元海上自衛隊員だと伝えている。

しかし、勤務期間はわずか3年だったという。男が使った銃も、特に奇妙だ。事件直後に現場の路上に放置された凶器の写真を見ると、手製の武器のように見える。金属パイプを2本、黒い粘着テープでグルグル巻きにしてある。何か手製の引き金のようなものも見える。インターネットからダウンロードした設計図をもとに作ったかのような印象だ。

それではこれは、政治的な意図による攻撃だったのだろうか。それとも、有名人を撃って有名になりたい、妄想の世界に生きる人間の犯行だったのか。今のところは、分からない。

Members of media gather in front of Nara Medical University Hospital where Japan’s former prime minister Shinzo Abe is transferred after being attacked during an election campaign on July 09, 2022 in Nara,

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画像説明, 「安全な国」を誇りにしていた日本に、元首相銃撃事件は衝撃を与えた。安倍氏が搬送された奈良県立医科大学付属病院の前に集まった報道陣(9日、奈良県橿原市)

日本でも、政治家の暗殺は繰り返されてきた。特に有名なのは、1960年の浅沼稲次郎氏暗殺だ。日本社会党の委員長だった浅沼氏は選挙前の演説会で、演説中に突然壇上に上がって来た狂信的な右翼主義者に、日本刀で腹部を刺され、死亡した。今も日本に極右はいるが、右派ナショナリストの安倍氏をねらうとは思い難い。

他方、この国では近年、別の種類の犯罪が繰り返されるようになっている。目立たず物静かで孤独な男性が、誰かや何かに恨みを募らせ、暴力に至るタイプの犯罪だ。

2019年には、京都市のアニメ製作会社「京都アニメーション」が男に放火され、36人が犠牲になった。被告は警察に、「京アニに小説を盗まれた」と逮捕直後に供述していたという。

2008年には、世間に恨みを抱く若い男が東京・秋葉原で、トラックで歩行者を次々とはねた後、周囲の通行人を次々に刺した。7人が死亡、10人が重軽傷を負った。

犯行前、男はオンラインの掲示板に「秋葉原で人を殺します」と投稿。「友達できない」、「不細工な私の命の価値はゴミ以下」などとも書いていた。

安倍氏を撃った男の動機が、どちらの部類にあてはまるのかはまだはっきりしない。しかし、この暗殺が日本を変えるのは確かなことのように思える。

日本はとても安全な国なので、この国の警備体制は緩やかだ。今回のような選挙戦の最中、政治家は文字通り街角に立ち、演説をし、買い物客や通行人と握手をする。

安倍氏を撃った男はおそらくだからこそ、元首相に近寄ることができた。そして、寄せ集めの部品で作った武器を発射できたのだろう。

これは今日を境に、変わるに違いない。

(英語記事 Shinzo Abe death: Shock killing that could change Japan forever)