【解説】 ウクライナの戦火はモルドヴァ東部に拡大するのか

ローレンス・ピーター、BBCニュース

Destroyed radio masts in Transnistria

画像提供, Reuters/Transnistria Interior Ministry

画像説明, 爆発で倒壊したトランスニストリア地域のラジオ塔

ウクライナの隣国モルドヴァの東部トランスニストリア地域で、謎の爆発が相次いだ。ウクライナでの紛争が拡大する恐れが出ている。

ウクライナと国境を接するトランスニストリア地域では、1990年9月にロシア系住民が分離を宣言したものの、国際社会は承認しておらず、国際法上はモルドヴァの一部となっている。

この地域を支配している親ロシアの分離派当局は、ウクライナの「侵入者」の仕業だと発表した。一方、ウクライナのヴォロディミル・ゼレンスキー大統領は、ロシアの特殊部隊によるものだと非難している。

ロシアは懸念を示している。トランスニストリア地域には約1500人のロシア兵がいる。

ロシアの当局者は、モルドヴァでロシア語を話す人々が迫害されていると述べた。これは、ウクライナ侵攻の正当化で使われたのと同じ言い訳だ。

爆発は誰の仕業か

トランスニストリア地域当局によると、過去2日間にあった爆発は、以下を標的にしていたとされる。

  • トランスニストリア地域の主要都市ティラスポリにある保安本部
  • ロシア語ニュース放送に使われている旧ソ連時代のラジオ塔
  • ティラスポリ近郊のパルカニ村にいる軍部隊

死傷者は報告されていないが、トランスニストリア地域では現在、赤色の「反テロ」警報が出され、警備が強化されている。

トランスニストリア地域の当局者は、ウクライナから侵入した正体不明の3人が、てき弾銃で保安本部を攻撃したと述べた。この説明は検証されていない。

ロシア政府は、状況を注視しているとし、「懸念材料だ」とコメントしている。

ウクライナのゼレンスキー大統領は26日、ロシアが背後にいるのは明らかだとの見方を、首都キーウで示した。

「目的は明らかだ。この地域の情勢を不安定にし、モルドヴァを脅すことだ。モルドヴァがウクライナを支持すれば、何らかの措置を取ると示している」

さらに、「私たちは向こうの能力を理解しているし、ウクライナ軍はこれへの準備ができており、恐れていない」と述べた。

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戦線は拡大するのか

トランスニストリア地域がの摩擦が再燃すればモルドヴァは不安定化し、ウクライナ戦争で新たな戦線が生まれる可能性がある。ウクライナ南部の主要港湾都市オデーサは、トランスニストリア地域のすぐ東に位置している。

ロシアはトランスニストリア地域を補強し、オデーサを西側から攻める可能性がある。東側からの攻勢が、ウクライナ軍に阻まれているからだ。そうなれば、すでに弱っているウクライナ軍が分散することになる。

ロシア軍最高司令官の1人、ルスタム・ミネカエフ副司令官は22日、「ウクライナ南部を掌握することで、トランスニストリア地域への新たな道ができる。同地域では、ロシア語を話す人々が迫害されている」と述べた。

Ukraine east

ロシアのウラジーミル・プーチン大統領は、旧ソヴィエト連邦内のロシア系民族を「保護」すると宣言している。ウクライナ侵攻でもそれを理由にした。モルドヴァは、かつてソ連を構成する共和国のひとつだった。

現在、モルドヴァにとって最も関係が近い同盟国はルーマニアだ。しかしルーマニアと違い、モルドヴァは北大西洋条約機構(NATO)にも欧州連合(EU)にも加わっていない。多くのモルドヴァ人はルーマニアのパスポートを持ち、EU内で働いている。

モルドヴァは、ヨーロッパ最貧国のひとつだ。また、多くのウクライナ人にとっての故郷でもある。これまでに43万7000人以上のウクライナ難民を受け入れている。人口は260万人であり、難民の人口比はどの国よりも高い。

モルドヴァのマイア・サンドゥ大統領は、強力な親EU派だ。しかし、いまも多くの支持者がいるイゴール・ドドン前大統領は、親ロシア派だった。

モルドヴァは、ロシア軍のウクライナ侵攻を象徴する聖ゲオルギー・リボン(黒とオレンジの縦じまのリボン)やアルファベットの「Z」のシンボルを公に示すことを禁止している。

トランスニストリア地域はどこにある

トランスニストリア地域は、モルドヴァ東部のドニエストル川と、ウクライナ国境に挟まれた狭い地域を指す。1990年にモルドヴァからの独立を宣言したものの、国際社会には承認されていない。

ロシアは第2次世界大戦後、現在のモルドヴァの前身であるモルドヴァ・ソビエト社会主義共和国を作り出した。主にロシア語が話されているドニエストル地方(かつてはウクライナの自治領)と、その隣のベッサラビア地方(1918~1940年にはルーマニアの一部)を合わせた地域だった。

しかしソ連が崩壊すると、モルドヴァ人の民族主義の強まりやモルドヴァとルーマニア再統一について、ドニエストル地方で警戒感が高まり、分離独立が宣言された。

モルドヴァとトランスニストリア地域が短期間、相対した国境戦争では、最大700人の死者が出た。1992年に停戦が成立。これは、同地域に駐留していたロシア軍が実施させた。

(英語記事 Explosions hit Transnistria: Is war spreading?)