ウクライナ侵攻をロシアのテレビで見る まったく別の話がそこに

シモーナ・クラロワ、サンドロ・ヴェツコ BBCモニタリング

A woman in St Petersburg watching President Putin on TV last week

画像提供, Getty Images

画像説明, プーチン大統領のテレビ演説を見ているサンクトペテルブルクの女性

ロシアの国営テレビが映し出す「現実」が、いかに現実と違うか。日本時間3月2日午前2時の画面が、その典型例だった。BBCワールドニュースは、ウクライナの首都キーウ(キエフ)でロシア軍がテレビ塔を砲撃したという速報で始まった。同じ時にロシアのテレビは、ウクライナの都市を攻撃しているのはウクライナだと伝えていた。

では、ロシアの人たちは、この戦争について何をテレビで見ているのだろう。電波を通してどのようなメッセージを聞いているのか。以下は、3月1日にロシアで主なチャンネルをザッピングしていた人が、目にしただろう内容の一部だ。主なチャンネルはロシアの場合、政府と、政府に協力する企業がコントロールしている。

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国営テレビ局「チャンネル1」はロシアで特に人気のチャンネルだ。その番組「グッドモーニング」は、ニュース、カルチャー、軽いエンターテインメントを組み合わせた、多くの国にありがちな朝の情報番組。

モスクワ時間1日午前5時30分(日本時間同午前11時30分)、通常の放送が変更になった。司会者が「みなさんよくご存じの出来事のため」放送予定を変更し、ニュースや時事問題の話題をいつもより多く伝えると説明した。ニュース速報は、ウクライナ軍がロシア軍の機器を破壊しているという報道は誤報で、「経験の浅い視聴者を欺く」ためのものだという内容だった。

「インターネット上では、フェイクとしか言いようのない映像が流れ続けています」と司会者が説明し、「雑に加工されたもの」だと説明する写真が複数、画面に映し出された。

Screenshot from Russian television Channel One
画像説明, ロシア「チャンネル1」の画面から。番組司会者は、同じ軍用車両の写真を並べて示した。上の写真のキャプションは「ドンバス2014」、下のキャプションは「ウクライナ・モンタージュ」となっている。司会者は、上の写真は2014年の紛争で破壊されたウクライナ軍の車両で、下の写真は同じ写真を加工したものだと主張。ウクライナ軍の車両に、ロシアの軍装備によく使われる「Z」の標章が足されていると説明した

モスクワで午前8時になると、テレビ局NTVの朝の番組に切り替える。NTVは、ロシア政府の支配下にあるガスプロムの子会社が所有するテレビ局だ。この朝の番組は、ウクライナ東部ドンバス地方の話題ばかりだ。ロシア政府は2月24日、ウクライナの非武装化・非ナチス化のため、ドンバスで「特別軍事作戦」を開始すると表明した。

ウクライナの北にあるベラルーシからウクライナの首都キーウ(キエフ)まで、数十キロにわたり続く軍用車列については、まったく触れない。その30分後、イギリスのBBCラジオ4のニュース速報は、首都に迫る車列の話題で始まった。

「ドンバスからの最新ニュースから始めます。LNRの戦闘員は3キロ移動し、攻勢を続けています。DNRの部隊は16キロ移動しました」と、アナウンサーは説明した。

LNRとは自称「ルガンスク人民共和国」。DNRとは「ドネツク人民共和国」。ロシアによる8年前のウクライナ東部介入を機に、ロシアの後押しを受けて一方的に独立を宣言した親ロシア派地域のことだ。

共に国営放送でロシアで最も人気のチャンネル、「ロシヤ1」と「チャンネル1」は、ドンバス地方でウクライナ軍が戦争犯罪を犯したと非難した。ウクライナ市民を脅かすのはロシア軍ではなく、「ウクライナのナショナリスト」だと、ロシヤ1のアナウンサーは述べた。

「チャンネル1」のアナウンサーは、ウクライナ軍が「民間人とロシア軍に対する挑発行為」として、「民家砲撃を準備中」で、「倉庫をアンモニアで爆撃しようとしている」と説明した。

ロシアのテレビは、ウクライナで起きていることを「戦争」とは呼ばない。その代わり、攻撃は軍事インフラを標的とした非軍事化作戦、あるいは「両人民共和国を防衛するための特別(軍事)作戦」と表現される。

国営テレビでは、アナウンサーや特派員が感情的な言葉や画像を使い、ロシアによるウクライナでの「特別軍事作戦」とソ連のナチス・ドイツに対する戦いには、「歴史的類似性」があると強調する。

「子どもを盾にするナショナリストの戦術は、第2次世界大戦以来変わっていない」と、「ロシヤ1」の姉妹チャンネル「ロシヤ24」の朝の番組のアナウンサーは述べた。

「連中はまさにファシストそのもののように行動する。ネオナチは武器を民家の横に設置するだけでなく、子供が地下室に避難している家のそばにおいている」と、特派員はリポートした。ビデオには「ウクライナのファシズム」というテロップが出ている。

動画説明, ウクライナとの「戦争」と言わないロシア国営メディア 信じる国民と信じない国民
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ウクライナの都市爆撃はウクライナのせいに

特派員の説明は、ウラジーミル・プーチン大統領が2月末に根拠なく主張した内容に呼応するものだ。ウクライナが女性や子供、高齢者を人間の盾にしているというのが、プーチン氏の言い分だ。

プーチン氏が命令した侵攻が期待通りの迅速な戦果を挙げていないのではないかと、西側諸国の報道は問いかけている。それに対してロシアのテレビは、ロシアの作戦は大成功だと繰り返す。ロシアのテレビニュースは、ウクライナ側の機材や武器をどれだけ破壊したか、随時報告している。朝のニュースでは、1100以上のウクライナの軍事インフラ施設が使用不能になり、数百の機器が破壊されたと伝えた。ロシア側の死傷者についての言及は、まったくない。

ロシアの朝のニュース速報は、ウクライナ東部以外でのロシア軍の攻撃作戦についてほとんど何も伝えない。国営テレビの特派員は、キーウやハルキウ(ハリコフ)など、ロシア軍が住宅地を砲撃した主要都市では取材していない。ロシアの特派員たちは代わりに、ドンバス地方の部隊に密着している。

しかし、この日の午後になると、BBCがもう何時間も大々的に報道してきたハルキウ砲撃について、ニュース番組はようやく触れた。ただしその報道内容は、住宅破壊はロシア軍のせいではないというもので、ロシアに責任を負わせようとする情報は「フェイク」だと主張した。

「ミサイルの軌道から判断して、攻撃はロシア軍のいない北西部からのものだ」と、午後4時のニュースで司会者は言う。さらに4時間後、「ロシヤ1」の報道はさらに踏み込んで、ハルキウを爆撃したのはウクライナ軍だと主張した。

「ハリコフを攻撃して、ロシアがやったと言っている。ウクライナは自分の街を砲撃して、西側にうそをついている。しかし自国民をだますことはできるだろうか」と、「ロシヤ1」は問いただす(訳注:同じ都市の名前を、ウクライナ語ではハルキウ、ロシア語ではハリコフと言う)。

午後5時のニュースでは「ロシヤ1」のアナウンサーが、ウクライナにおけるロシアの「主な目的」を、「西側の脅威からロシアを守ること」だと説明した。それによると西側諸国は「ロシアとの対決にウクライナ国民を利用している」のだという。

ウクライナに関する「フェイクニュースやうわさ」がネット上で流れていることに対抗するため、ロシア政府が「真実の情報のみが掲載される」新しいウェブサイトを立ち上げることになったと、アナウンサーは伝えた。

政府の公式見解以外は報道不可

Blast at a TV mast in Kyiv, 1 March 2022

画像提供, Reuters

画像説明, 首都キーウではテレビ塔が攻撃された(3月1日)

ロシアのテレビ局は連邦政府の監督機関「通信・IT・マスメディア監督サービス」から、政府の公式見解に沿った報道をするよう、義務付けられている。

それでも、3月1日の報道論調が各局まったく同じだったというわけではない。ニュース速報がウクライナの戦争犯罪について語る一方、「チャンネル1」の時事トーク番組では、政府寄り司会者のヴャチェスラフ・ニコノフ氏が番組最後に、自分がいかにウクライナが好きか語った。

「私はウクライナをとても愛していますし、ウクライナ人を愛しています。何度もウクライナを旅したことがあります。本当に素晴らしい国です。そして、ウクライナの繁栄と友好は、ロシアにとって大切なことだと思います。(中略)私たちの目的は正義です。私たちは勝利します」と、ニコノフ氏は強調した。

若いロシア人の中には、独立系のウェブサイトやソーシャルメディアからニュースを入手する人が増えている。そして、戦争が長引けば長引くほど、死んだ兵士や捕虜の画像や映像がそうしたメディアに登場している。しかし、当局はこれを受けて、独立系メディアの規制をますます強めている。

連邦政府の通信・IT・マスメディア監督サービスはTikTokに対し、軍事的・政治的コンテンツを未成年者に「おすすめ」しないよう命令した。「ほとんどの場合、こうした素材は際立って反ロシア的内容」だからと、不満をあらわにしてた。

同サービスはグーグルに対しても、いわく「ロシア軍の損失に関する偽情報」とする検索結果の削除を要求した。ロイター通信によると、モスクワの「特別軍事作戦」に関する「偽報道」については、 ツイッターの読み込み速度を再び減速させたほか、フェイスブックへのアクセスも制限したという。

この監督機関はメディア各社に対し、侵攻を報道する際にはロシアの公式情報源のみを使用するよう指示し、「宣戦布告」や「侵攻」に言及した報道を取り下げるよう指示した。対応しない場合は罰金や放送禁止などで処分すると警告している。独立系民間テレビ局「ドシチ」と、リベラル系の人気ラジオ局「モスクワのこだま」のウエブサイトは共にアクセスがブロックされた。両社が「過激主義と暴力」を呼びかけ、「ロシア軍の活動に関する虚偽情報を組織的に拡散した」というのが、その理由だ。

(追加取材:フランシス・スカー)

(英語記事 Ukraine: Watching the war on Russian TV - a whole different story)