パンデミック下に生まれた赤ちゃんたち 5人の母親がロックダウン中の妊娠・出産を語る

新型コロナウイルスのパンデミックの中で妊娠と出産を経験した5人のイギリス人女性に、ポートレート写真家の二ナ・レインゴールド氏が話を聞いた。

A composite showing portraits of Naomi and her son Akirou, Steph and her daughter Nora, and Tash and her son Ziggy

画像提供, Nina Raingold

新型コロナウイルスによるロックダウンが続いた2020年、イギリスでは妊娠中の女性が検診や出産をたった一人で経験することになった。

「これが妊娠中の女性や母親にとってどれほど恐ろしい状況なのか、若い家族のポートレートを中心に活動している写真家として、そして1人の母親として、全く想像がつかなかった」と、ブリストル在住の二ナ・レインゴールド氏は語った。

イギリスの国民健康サービス(NHS)は2020年12月、妊娠中の女性について、通院などに同伴者1人を認めると発表。パートナーや家族、友人など同伴者に選ばれた人物は、単なる訪問者ではなく、妊婦の手当てに「必要不可欠な要素」として病院から認められるべきだとの見解を示した。

レインゴールド氏は5人の母親を取材し、隔離された状態での妊娠・出産経験と、そのときに受けた医療や心的サポートについて話を聞いた。

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エイミーさんと娘のエロウェンちゃん

A portrait of Amy with her baby daughter Elowen

画像提供, Nina Raingold

パンデミックがやってきたとき、私は妊娠18週目でした。

私は小児病院で脳の画像検査の仕事をしています。こうした臨床的な仕事ではまず期待できないことですが、すぐに在宅勤務に切り替わりました。

妊娠中の女性にとって状況は不確かなものでしたし、他の国ではCOVID-19が妊婦に影響を与えるケースも出ていました。

妊娠は病気ではないのに、職場に行かないことに罪悪感を覚えていました。仕事を放棄しているような気持ちになりました。

パートナーのクリスは何度か、妊婦検診に来られませんでした。こういうことは一緒にやるべきなので、とても残念でした。

最終的には緊急帝王切開になりました。トラウマになるほど恐ろしくて、回復もとてもつらかった。

クリスは分娩室への入室が認められましたが、手術の後に私もエロウェンも発熱したため、その晩は重症者治療室(HDU)に泊まりました。

クリスは滞在できませんでした。それが本当につらかった。私は体をねじってエロウェンを抱き上げることもできなかったし、新生児の母親として、どうやって母乳をあげたらいいかも分かりませんでした。

A portrait of Amy with her baby daughter Elowen

画像提供, Nina Raingold

妊婦クラスにも通っていて、色々な情報を得られましたが、バーチャルクラスだったので社会的な側面は欠けていました。

出産後クラスの広告にもたくさん目を通しましたが、公共交通機関は使いたくなかった。たくさんのハードルがありました。

通常であれば、外出してバスに飛び乗って、他の母親に会うのももっと簡単だったでしょう。

ほとんどの新生児の母親たちが同じことを思っているはずです。一緒にいる人や助けてくれる人が必要だと。

エロウェンの成長についても、「これが普通なのか?」と自問自答します。分かりません。ほかに比べる対象がいないので。

誰も周りにいないというのはきついです。エロウェンは私の父にすらあったことがありません。

おじいちゃんもおばあちゃんも孫に触れたくて仕方がないのに! もう少し大きくなったら、もっと大勢の人に会って、人ごみや騒音にも慣れられれば良いと思っています。

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ジョーさんと娘のオリーヴちゃん

A portrait of Jo and her daughter Olive

画像提供, Nina Raingold

ロックダウン中の妊娠で一番つらかったのは、夫のピートが検診について来られなかったことです。自分1人で乗り切るのはとても怖かった。

それから、どちらかが体調を崩すんじゃないかといつも不安でした。この9カ月間、ずっと不安の霧がかかっているようでした。

ピートは出産にも最初から最後までは立ち会えませんでした。途中で検査が必要になったのですが、そこにはピートは入れてもらえませんでした。

出産の時に自分で用意できるスタッフはパートナーだけです。45分間も待合室で独りになるなんて予定にはなかったのに!

A portrait of Jo and her daughter Olive

画像提供, Nina Raingold

出産後、家では私とピートだけ。誰も家に呼ぶことができませんでした。

周囲から隔絶された時期だったと思います。初めての赤ちゃんを迎えた時に歩きたいと思っていた道ではありませんでした。

Zoomで妊婦のグループに参加しましたが、もしこれが対面だったら、クラスの後にお茶でもしていたでしょう。

何もかもに圧倒されて、自分の気分を保つのが大変でした。

妊娠も出産も子育ても、独りで学んでやることではありません。大勢の人たちが必要なんです。

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ナオミさんと息子のアキロウちゃん

A portrait of Naomi with her baby Akirou

画像提供, Nina Raingold

私が息子を産んだ日は、完全にロックダウンしていた時でした。

病院へ行くととても静かでした。窓の外の通りには誰もいませんでした。

新型ウイルスのことがあったので自宅で出産したいと思いましたが、分娩(ぶんべん)室でないといけないと言われました。

ウイルスは未知のものだったので、何が起きるか分からなかったからです。

外国では死者数が膨れ上がっていました。それがとても非現実的だったことを覚えています。

毎日大勢の人が亡くなっている。そのことを考えながら病院へ行って大勢の人と接触しなければならないと思うと怖かった。

A portrait of Naomi with her baby Akirou

画像提供, Nina Raingold

パートナーも私と一緒に救急車で病院へ来て、出産直前まで立ち会うことができました。

彼は1~2時間で出て行くように言われていました。少し悲しかったし、彼も取り乱していたように思います。

私は3日間入院していました。その間、これまでにない不安感を覚えました。

話に来る人に敏感になっていました。みんな個人防護具(PPE)をちゃんと付けているか。近づきすぎないか。マスクをしているか……。

本当はリラックスして、赤ちゃんとの時間を楽しんで、隣に寝ている女性とも話したかった。でもその時は本当に過敏になっていました。

パンデミックの前には、上の子どもを保育園に入れている間に赤ちゃんとの時間を作って、親子グループに参加しようと思っていました。

でもそういうことは一切できませんでした。全て閉鎖されていました。保育園も。

時々、気分が全くすぐれない夜があって、そういう時は同じようなひどい経験をしている誰かと話したくなりました。そういう機会も全て失われました。

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ステフさんと娘のノラちゃん

A portrait of Steph and her daughter Nora

画像提供, Nina Raingold

パンデミックが起きたとき、私は妊娠5カ月でした。

ボリス(・ジョンソン首相)が記者会見でロックダウンを開始すると言ったとき、孤独を感じました。

「これから4カ月、毎日一人ぼっちでいなくちゃならないんだ」って。少し泣きました。

でもパンデミック中に妊娠を経験する全ての女性のことを考えて、自分は大丈夫だろうと考えました。

パートナーのジョーは病院での検診には同伴できませんでした。エコーを全く見られない時もあり、私たちにとっては残念なことでした。

一番心配だったのは、病院に行って新型ウイルスにかからないかということでした。

独りで検診に行くことは不安ではありませんでした。他の女性たちもそうしていたので。

そういう女性たちとの間に連帯感を見いだしていたんだと思います。

A portrait of Nora

画像提供, Nina Raingold

妊娠中の最悪の出来事は、すごく長いお産の後、1時間でジョーが病院を出なくてはいけなかったことです。

まず私と赤ちゃんが直接触れ合って、ジョーが同じことをして、そしたらもう彼は行かなくちゃならなかった。

ノラとは2日間、2人きりでした。もしジョーがそこにいたら、もっと大丈夫だったと思います。

ほかの女性も頑張っていたから、私もどうにかできました。でも全く良い体験ではなかった。

実のところ、パンデミック中の妊娠はそんなに悪いものじゃなかった。赤ちゃんができる前よりもずっと、ジョーとの「ふたりだけの時間」を過ごせたから。

パートナーとの関係が良好なら、ロックダウンは小さな繭(まゆ)の中に入るようなものです。

でもパートナーがすぐに赤ちゃんに会えないのは悲しいことです。

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タッシュさんと息子のジギーちゃん

A portrait of Tash with Ziggy

画像提供, Nina Raingold

私が妊娠に気付いた時、イギリスでは新型ウイルスのニュースが広がり始めている時でした。

前回の妊娠では糖尿病になり、今回の妊娠との間も短かったので、これがリスクの高い妊娠期間になることは分かっていました。

それから産後うつもわずらっていました。人生でずっとうつ状態にありますが、妊娠中は特にひどくなるんです。

今回は本当につらかった。何トンものレンガが落ちてきたようなダメージを受けました。

妊娠糖尿病のせいで、私はNHSからテキストメッセージでこう言われたんです。「あなたは最も新型ウイルスの感染リスクが高い分類に入ります」って。

そのメッセージには、「屋内にいて、外には出ずに、他の人と同じ台所で食事をしないこと」と書かれていました。

それは長い「やってはいけないことリスト」でした。

窓は開けられます。そういうことが書いてあったんですよ! 窓を開けるのさえ条件が必要でした。

涙が止まりませんでした。完全に参ってしまいました。

妊娠中、メンタルヘルスで高いリスクを抱えることは分かっていましたが、これはさらに大きな、必要としていないストレスでした。

A portrait of Tash with Ziggy

画像提供, Nina Raingold

自宅に引きこもっていた6週間、私は一歩も玄関から出ませんでした。パートナーのニックが郵便を取りに行くことや買い物など全てをやって、全部を消毒しました。

メンタルヘルスにも影響が及び始めました。病院に行くたびに本当に怖かった。

子癇前症(しかんぜんしょう)にもなりました。妊娠20週目くらいから、病院から繰り返し診察の連絡が来ました。

ニックは私を助けられないこと、エコー検査の結果が見られないことをとても悲しがっていました。

妊婦検診、診断、悪いニュース、エコー検査……その全てを私は独りでやり通さなくちゃならなかった。

パンデミックは私と子どもたちとの関係、それから末の息子との絆を育む能力に大きな影響を与えました。

最近、Whatsappでメンタルヘルスの問題を抱える母親たちのグループに入りました。失敗した、切り離されたという私の気持ちを正常化するのに役立っています。

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(英語記事 The babies born into a pandemic)