ロヒンギャ危機 国連はどのように「ジェノサイド」報告書をまとめたのか

ローランド・ヒューズ、BBCニュース

Rohingya refugees desperate for aid crowd as food is distributed - September 2017

画像提供, Getty Images

画像説明, 過去12カ月で少なくとも72万5000人のロヒンギャが、ラカイン州から隣接するバングラデシュに逃亡した

無差別殺人、村の焼却、未成年への虐待、女性への集団レイプ――。これらは国連の調査団が8月、ミャンマーで起きた「国際法下で最も深刻な犯罪」だと疑問を呈した発見だ。

国連はその深刻さから、イスラム系少数民族ロヒンギャに対するミャンマー西部ラカイン州でのジェノサイド(集団虐殺)などをめぐり、ミャンマー軍幹部を調査しなければならないと断じている。

この報告書は、ミャンマー政府から同国への立ち入りを認められない中でまとめられた。ミャンマー政府は報告書を否定している。

調査団がどのように今回の結果に至ったのか、その手法を説明する。

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調査団の立ち上げ

2017年3月24日、国連人権理事会はミャンマーで「軍部と治安部隊による人権侵害疑惑」を調査するための独立した事実調査団を設置することで合意した。

調査団の結成から5カ月後、ミャンマー軍はラカイン州で起きたロヒンギャの武装勢力による警察施設襲撃をきっかけに、同州で大規模な軍事行動を起こした。

この軍事行動が調査の主眼となったが、国連はほかにもカチン州やシャン州での人権侵害について調査している。

調査団は3回にわたってミャンマー政府に入国を打診したが、返答を得られなかった。

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数百件の聞き取り調査

調査団を主導した3人のうちの1人、オーストラリアの人権専門の法律専門家クリストファー・シドティ氏は「第一のルールは『傷つけないこと』だ」と話した。

「我々が話した人々は深刻なトラウマを抱えている。スタッフが、取材が再びトラウマを植えつけると判断した場合、取材は行われなかった」

「こうした経験をした人たちに再びトラウマを植えつけてまで得るほど重要な証拠は存在しない」

過去12カ月で少なくとも72万5000人がラカイン州から隣接するバングラデシュに退避した。結果として、調査団はミャンマーに入国できなかったにもかかわらず、逃げ出す前に暴力を受けた人々から膨大な数の証言を直接得ることができた。

An exhausted Rohingya refugee woman touches the shore - September 2017

画像提供, Reuters

画像説明, ラカイン州からバングラデシュまで、ロヒンギャの人々は過酷なたびを強いられた

調査団はバングラデシュやマレーシア、タイ、インドネシア、そして英国で合わせて875人から話を聞いた。そして調査初期には、これまで自身の体験を話したことのない人からの証言が最も価値があるだろうという決定に至った。

シドティ氏は、「すでに他の機関の取材に応じた人たちの話は聞きたくなかった」と話した。

「人々の証拠に傷が付いている状態は避けたかった」

「我々は広範囲にわたる様々な地域から人を集めた。その後、さらに重点的に聞き取りをした際には、何が起きたのかを詳しく知るため、コミュニティーのネットワークを通じて慎重にその地域の人を探し出した」

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証拠集め

シドティ氏は、「我々は1件だけの証拠を使うことはない」と話した。「常に1次情報と2次情報で裏づけを図っていた」

これらの情報源は映像や写真、書類、衛星写真などで、2017年の数カ月でロヒンギャの村が破壊された様子を示している。

あるケースでは、調査団はバングラデシュ南東部コックスバザールにいた難民から、特定の状況、特定の時期に村が破壊されたという報告を複数受けた。

調査団はその後、目撃者の証言を裏付ける衛星写真を手に入れることができた。

衛星写真からは、以下のことが分かった。

  • ラカイン州にある392の村で、その一部、あるいは全体が破壊された
  • この地域にある住居の4割近い3万7700軒が被害にあった
  • 8割の村が、軍事行動の最初の3週間に焼かれた

下の写真では、2017年5月と2018年2月に同じ村を撮影した衛星写真を比較できる。

地上で撮られた証拠写真を入手するのはさらに困難だったという。

シドティ氏は、「ラカイン州を離れようとした人は呼び止められ、身体検査を受けて金銭や金、携帯電話などを取られた」と説明する。

「彼らが撮影した映像や写真の証拠を奪うためだというのは極めて明白と思われる」

「多くは残っていなかったが、報告書で採用した」

動画説明, ロヒンギャの難民少女たち 10代で妊娠結婚、人身売買、性的労働
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責任者

報告書ではミャンマー軍の幹部6人を名指し、裁判にかけられるべきだと断じた。これにはミン・アウン・フライン最高司令官や副官らが含まれている。

調査団はどのように幹部らを特定したのか。

この調査は書類の追跡や音声・映像記録に基づくものではなく、研究によって導き出された。

調査団は、ミャンマー政府がどのように機能しているか、さまざまな人物に説明を求め、それを主な根拠とした。対象者には、過去に戦争犯罪法廷に協力したことのある軍事顧問などが含まれた。

シドティ氏は、「ミャンマー軍についてさまざまな角度から素晴らしい国際的な助言を得ることができた」と話した。

「その結果我々は、ミャンマー軍はとても厳しく統率されており、最高司令官と副官が知らないことは一切起きないという結論に至った」

命令を下したとされる人物の名前は明らかになったものの、実際に残虐行為を行ったとされる軍所属者を特定する活動は現在も続いている。

「我々は実地で攻撃に加担したと疑われる人物のリストを持っているが、しばらくは機密扱いのままだろう」とシドティ氏は話した。

「彼らの名前はさらなる調査のためのリストに載せるに十分なほど、何回も挙がっている」

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法律

ジェノサイドとみられる出来事を特定することと、その出来事が法律上のジェノサイドに当たると証明することは別の事柄だ。

「人道に対する罪の証拠はすぐに集まり、数も圧倒的。しかしジェノサイドは法的にはもっと複雑な問題だ」とシドティ氏は説明する。

Christopher Sidoti, member of the Independent International Fact-finding Mission on Myanmar

画像提供, EPA

画像説明, シドティ氏は、ジェノサイドの証拠がこれほど強いとは思っていなかったと話した

報告書では、ジェノサイドは「国民的、民族的、人種的、宗教的な集団の全部または一部を破壊する意図をもって行われる禁止行為」と定義されている。

鍵となるのは「意図」だ。ミャンマー軍がこの意図を持っていたことは明らかだと調査団は考えている。

報告書には指揮官や実行部隊とされる人物らの話を引用したほか、調査対象となった軍事行動を行うのに必要な計画の規模を明らかにした。それでもなお、法的側面からジェノサイドを特定するには膨大な量の法務処理が必要だった。

「当初は予想もしていなかった立場に置かれた」とシドティ氏は語った。「我々3人全員が、ジェノサイドの証拠がこれほど強いとは思っていなかった。驚きだった」。

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次の段階

報告書では6人のミャンマー軍幹部を名指しし、訴追を要求した。また、ノーベル平和賞受賞者でミャンマーの事実上の指導者のアウンサンスーチー国家顧問兼外相を、軍の進攻を止められなかったと批判した。

報告書はさらに、国際刑事裁判所(ICC)への調査付託や武器貿易の禁止措置などを推奨した。

しかし国連安全保障理事会では、中国が隣国で友好国のミャンマーへの厳しい措置に反対している。中国は同理事会で拒否権を持つ。

シドティ氏は、ミャンマー政府が内部で疑惑を調査する可能性は低いことを認めている。昨年、ミャンマー軍が行った内部調査では、軍に責任はないとの結論が出ており、ミャンマーのハウ・ド・スアン国連大使も先週、BBCビルマ語の取材に対し、報告書は「我々に対する一方的な非難」だと述べた。

「調査団は推奨される措置を提示した。それについて動くのは他の者次第だ」とシドティ氏は話す。

「安保理がその責任を持って動いてくれることを大きく期待しているが、楽観的になれるほど無知ではない」

(英語記事 Blow by blow: How a 'genocide' was investigated)