中国検閲はなぜクマのプーさんを禁止したのか

スティーブン・マクドネル記者、BBCニュース(北京)

習近平・国家主席とバラク・オバマ米大統領(当時)

画像提供, AFP/Weibo

画像説明, 習近平・国家主席とバラク・オバマ米大統領(当時)を、プーさんとティガーになぞらえたこの画像が、2013年にインターネットに出回りはじめた

中国の検閲当局はインターネットからクマのプーさんを締め出した。非常に奇妙な動きは実は、検閲をかいくぐって書きたいことを書こうとする中国の人たちと当局との、絶え間ないせめぎあいの新たな一幕なのだ。

腕時計は単に腕時計ではなく、河蟹は単なる河蟹ではない。中国の万里のファイヤーウォールの内側では。

インターネット上で中国の最高幹部たちは、様々なあだなで呼ばれている。クマのプーさんもそのひとつだ。

丸っこくてふっくらして愛らしいプーさんの外見が、習近平国家主席に似ているとソーシャルメディアで評判になったため、検閲当局はプーさんの名前や画像の投稿をブロックしている。

習主席と日本の安倍晋三首相が、非常に耐えがたい握手に耐えた時の写真は、ソーシャルメディアではたちまちプーさんとロバのイーヨーの握手に置き換えられた。

Shinzo Abe, Xi Jinping and Winnie the Pooh characters

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2015年9月の戦争勝利記念日の軍事パレードで習主席が、リムジンの屋根から頭を出して閲兵すると、車から頭を出したプーさんのおもちゃの写真も間もなくオンラインに登場した。

Composite picture of Xi Jinping and Winnie the Pooh

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中国の検閲は、国家指導者をからかう内容を許さないというだけではない。この世界中で愛される児童文学のキャラクターが、国家主席のオンライン代名詞になってしまうのを防ぎたいのだ。

これがほかの国なら、国の指導者をプーさんにたとえても特に問題はないかもしれないし、むしろ自分のイメージキャラクターがプーさんだというのは親しみやすくて良いことだと歓迎する国家首脳もいるかもしれない。しかし中国はそういう国ではないのだ。

この国における国家主席とは、灰色の存在だ。ばかげた真似はしない。妙な癖もない。間違いは犯さない。だからこそ国民の上に立つのだし、だからこそ国民はその行動を問いただすことができないのだ。

胡錦濤前主席は、「調和のとれた社会」の推進をキャッチフレーズにしていた。中国語で「和谐( hexie 、和諧)」だ。

これを受けてソーシャルメディアのユーザーは、検閲されることを「調和された」と表現するようになった(被和諧了)。しかも中国語では発音の四声を変えたり、違う漢字を使えば、意味をぼやかすことができる。なので、発音が同じ「hexie」の「河蟹」を「和諧」の代わりに符丁として使うこともある。要するに、中国のインターネット上で河蟹、つまりサワガニの画像を見たら、それはおそらく何かが検閲されたという意味なのだ。

江沢民元首席は「3つの代表」( 三个代表、san ge diabiao)という政治理論を提唱した。音を少し入れ替えると「dai san ge biao (带三个表)」になる。「腕時計を3つする」という意味だ。なので、腕時計を3つしていると、江氏が中国社会主義に果たした貢献を「中国的に」、かつ少し皮肉に表現することになる。

亡くなった劉暁波氏は国内より国外で有名だった

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画像説明, 亡くなった劉暁波氏は国内より国外で有名だった

しかし、中国の検閲をかいくぐるのは必ずしも簡単ではない。

たとえば検閲当局は、中国の最も有名な反体制民主活動家の存在を、国内的にはほとんど消し去ることに成功した。ノーベル平和賞を受賞した人権活動家の劉暁波氏は13日、肝臓がんのため中国遼寧省瀋陽の病院で亡くなった。

しかし、中国のほとんどの一般市民は、劉氏のことを聞いたこともないのだ。

劉氏の死後、ソーシャルメディアでは追悼の書き込みが削除され、「RIP(安らかに)」という表現や、追悼を意味するろうそくの絵文字が使われているコメントも削除された。

中国に少しでも関わりがあるなら、検閲がどうなっているのか確認する方法がある。

中国ではほとんど全員が、会話アプリ「微信」を使っている。本当に、ほとんど全員が使っているのだ。

携帯電話に「微信」を入れている友人の隣に座り、「劉暁波」あるいは「Liu Xiaobo」という名前の入ったメッセージを試しに送ってみると、分かるはずだ。

中国の検閲当局は、通信を遮断する装置に特定の言葉やフレーズを打ちこむだけで、その話題を封じることができる。

「微信」は民間企業だが、中国の通信大手は中国共産党の指示に従わなくてはならない。

クマのプーさんは以前にも、検閲当局ににらまれたことがある。今回あらためてプーさんが厳しい取り締まり対象になったのは、中国共産党第19回全国代表大会が今年秋に予定されているからだ。

5年ごとに開かれる党大会は、党の中央指導機関などを次々と選任する。特に、中国の最高指導部の中央政治局常務委員会(現在は委員7人)がここで選ばれる。

この党大会で、習氏の国家主席としての2期目が始まる。習氏はこの機会にあらためて、党内支持基盤を固め、反対勢力を遠ざけようとするだろう。

中国は国家主席の任期は最大2期という統治体制に変革したと思われてきたが、実際には「2期まで」という規定は規則というよりは最近の慣習に過ぎない。

習主席は党内の腐敗取り締まりを強化し幅広く実施したため、党内に多くの敵を作った。それだけに次の5年間の任期を終えてそのまま、権力を手放しても大丈夫なのだろうかという憶測が飛び交っている。

しかし主席の座に長く残るには、習氏が党員に求める絶対的な忠誠にひびがあってはならない。

それだけに今のこの状況では、たとえ可愛らしいクマだろうと、習氏の圧倒的権限を脅かす存在はまったく受け入れられないのだ。

(英語記事 Why China censors banned Winnie the Pooh)