ロシアと欧米、どこでどう間違った パックス・アメリカーナは終わったのか

ジョナサン・マーカス、防衛外交担当編集委員

Russian President Vladimir Putin (L) meets with US President Barack Obama

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冷戦終結以降でロシアと米国の関係がここまで悪化した時期を挙げようとしても、なかなか思いつかない。

米国の政府当局者たちはこのところ、シリア北部アレッポに対するロシアとアサド政権の猛攻撃を「蛮行」と非難し、戦争犯罪が起きていると訴えてきた。

一方でロシアの大統領は、米ロ間の関係が険悪化していると明言。オバマ米政権が求めるのは対話というより「一方的な押し付け」だと主張する。

とは言え、米国とロシアは今もシリアをめぐって連絡を取り続けている。厳しい語調や非難の応酬をよそに、シリア情勢が最終的にどういう形で解決するにせよ自分たちが重大な役割を果たさなければならないと、米ロは共に認識している。

目下の戦略的意図がどうあれ、ロシアにとってシリア内戦がいつまでも続くことは、米国の利益にならないのと同様に自分たちのためにもならない。

しかし米ロ間にそんな基本レベルの信頼関係や相互理解さえ成立していない以上、両国が対話しても足元の土台は危ういままだ。本来なら決してこんなことになるはずではなかった。冷戦の終結とともに、新しい時代が到来したはずだった。

ロシアは冷戦後しばらく国際舞台から身を引いていたものの、今では威勢よく復帰し、周辺地域で足場を固めようと躍起になっている。かつて世界で果たしていたような役割を取り戻したい、欧米から受けたとされる屈辱を晴らしたいと願っている。

ではいったい、どこからすべてがおかしくなったのだろう。ロシアと欧米はなぜ違った形の関係を築くことができなかったのか。責任はだれにあるのか。米国の出しゃばりや無神経さのせいか、あるいはロシアがソ連時代の栄光に抱く郷愁のせいか。事態がここまでこじれた原因は何なのか、そして現状を「新たな冷戦」と呼ぶのは適切な表現だろうか。

すべての質問を網羅した答えを出そうとするつもりはない。こんな複雑な話を本に書けば、トルストイの「戦争と平和」ほどの長さになるだろう。ここではただ、いくつかのヒントを投げ掛けてみようと思う。

Fall of the Berlin Wall

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画像説明, 冷戦終結が新しい国際関係の時代を呼び込むと広く思われていた

米ジョージタウン大学の安全保障研究センターで上級研究員を務める元中央情報局(CIA)高官、ポール・R・ピラー氏は、最初に問題となる行動を起こしたのは欧米側だったと指摘する。

「関係悪化のきっかけになったのは、ロシアに対する欧米の態度だ。ロシアはソビエト共産主義を放棄した国として、ふさわしい扱いを受けなかった」とピラー氏は語る。「新たな国際社会に新生国家として迎えられるべきだったのに、実際はソ連の後継国と見なされ、欧米から不信の目が集中する国という位置づけを引き継いでしまった」

これが、言ってみれば原罪だった。欧米はそのうえ北大西洋条約機構(NATO)の拡大に熱中し、まずポーランドやチェコ、ハンガリーといった国を取り込んだ。ソ連の支配に長年抵抗してきたナショナリズムの伝統を持つ国々だ。

しかしNATO拡大はそこにとどまらず、旧ソ連の一角をなしていたバルト三国のような国にも及んだ。この結果、今度は旧ソ連のジョージアやウクライナまで欧米の勢力圏に入るのではないかという恐怖感をロシアが抱いたとしても、何の不思議があるだろう――と、専門家たちは指摘する。

要するにロシアには、自分たちが冷戦終結以来ずっと不当な扱いを受けてきたという思いがあるのだ。

これはもちろん、欧米側の通説ではない。欧米ではウラジーミル・プーチン大統領に代表されるような、ロシアの「報復主義」に注目する見方が強い。そのプーチン氏は、ソ連崩壊を20世紀「最大の地政学的悲劇」と呼んだ人物だ。

米シンクタンクの専門家の間では、どちらの説が正しいかをめぐり興味深い論争が繰り広げられている。欧米が新生ロシアへの対応を誤ったという初期の戦略ミスに注目すべきか、あるいはロシアが近年ジョージアやシリア、ウクライナで取ってきた強引な行動に目を向けるべきか、という論争だ。

A man kisses the Soviet Union flag

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画像説明, ソ連の後継国ロシアを十分に歓迎しなかった欧米の態度が問題を作ったのか

英情報部(MI6)の前長官でかつて国連大使も務め、近年のロシア外交を見守ってきたサー・ジョン・ソワーズは、より直近の時期に注目すべきだと言う。

同氏はこのほどBBCとのインタビューで、欧米は過去8年間、ロシアと適切な戦略的関係を築くことに十分な注意を払ってこなかったという見方を示した。

「米国とロシアが基本ルールを明確に理解していれば、つまり互いの体制を打倒するつもりはないと分かっていたなら、シリアやウクライナ、北朝鮮など、急速に迫ってくる局地的な問題はもっと簡単に解決できるはずだ」

筆者が話を聞いた何人かの専門家もまた口を揃えて、オバマ米政権による外交の不手際を指摘し、米国が発してきたシグナルはしばしば曖昧で矛盾していたと批判する。

米国が持つ絶対的な力は衰えているかもしれないが、では今も残るさまざま影響力をどう行使するかというと、煮え切らない態度が目立つ。例えば、米国はアジアへ軸足を移そうとしているのか。欧州や中東での役割を、実際にはどこまで軽視しているのか。

自身の発言を武力で裏付ける用意はあるのか(シリアに関しては今のところ、答えはノーだ)。また、ロシアに対して自らが取ってきた立場はどんな影響をもたらすか、本当にじっくり考えたことがあるのだろうか。

ロシアが2014年にクリミア半島を併合した後、プーチン氏はロシア議会での演説でこう強調した。「ばねは限界まで押さえつけたら、強い勢いで跳ね返す。このことを覚えておくべきだ」と。

シリア・ラタキア県の空軍基地で待機するロシアのSu-24機

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画像説明, シリア・ラタキア県の空軍基地で待機するロシアのSu-24機

米ロ関係の専門家ニコラス・グボスデフ氏は、実利的なリアリズムの見地に立つ米外交専門誌「ナショナル・インタレスト」のウェブサイトで、「賢明な対応は2つに1つ。ばねにかかる力を緩める方法を見つけるか、跳ね返りに備えて衝撃を和らげられるようにしておくかのどちらかだ」と

過去のミスが何だろうと誰のせいだろうと、決まり文句にもある通り、我々がこの場所にいることに変わりはない。ならば、この場所とはどこだろう。米国とロシアは本当に、シリアをめぐって衝突する一歩手前まできているのか。筆者はそうは思わない。では、我々が「新たな冷戦」に突入しようとしているという説はどうか。

まずピラー氏は、冷戦という言葉が的確でないと考える。「冷戦を特徴付けたような世界規模のイデオロギー対立はない。また幸いなことに核軍拡競争も起きていない」。

「残るは影響力をめぐる大競争だが、ロシアはかつての旧ソ連ほどの大国ではないし、今も超大国であり続ける米国にはかなわない」

それでは将来はどうか。米国の大統領選を前に、ロシアは当面自分のしたい放題だと判断したのかもしれない。このチャンスにあちこちの紛争地域を思い通り方向付け、ホワイトハウス入りする次期大統領に既成事実として突きつけようとしたふしがある。

2008年にロシアとジョージアが戦った南オセチア紛争を受けて、米ロ関係が冷え込んだ時の状況とよく似ている。ブッシュ前政権の対ロシア政策は崩壊し、その混乱をオバマ大統領が引き継ぐことになった。

Sir John Sawers

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画像説明, 前MI6長官のサー・ジョン・ソワーズは、「パックス・アメリカーナ(アメリカによる平和)」の時代は終わったと考えている

当時、ヒラリー・クリントンという名の国務長官がロシアとの関係を「リセット」しようとした、あの有名な外交方針を覚えているだろうか。結局あまり大きな成果は出なかった。

ソワーズ前MI6長官はBBCとのインタビューで「米国の次期大統領には、従来と違った対ロ関係を築くという大きな責任がかかっている」との見方を示し、「その大統領がヒラリー・クリントン氏であることを、私は強く望んでいる」と付け加えた。同氏によれば「我々が求めるのはロシアとのより温かい関係でも、より冷たい関係でもない」という。

「求められているのは、両国が世界の安定にどう貢献するかという点について、ロシアと戦略的合意に達すること。欧州を挟んでロシアと米国の間が安定すれば、世界の本質的な安定を支える土台はこれまでより堅固なものとなる」

米国の一極体制を意味する「パクス・アメリカーナ(アメリカによる平和)」の時代は「非常に短命だった。そしてすでに終わっている」――ソワーズ氏はそう言い切った。

(英語記事 Russia and the West: Where did it all go wrong?)