【米大統領選2016】オーランド乱射でトランプ氏は有利になるのか

アンソニー・ザーカー、北米担当記者

Donald Trump

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今年の米大統領選では民主党のヒラリー・クリントン氏が圧倒的に有利だと口にするとき、往々にして「でも……」という言葉が実際に、あるいは言外に、差し挟まれる。

たしかにクリントン氏は、選挙人の計算でも選挙戦の組織力でももともと有利な立場にいる。ドナルド・トランプ氏の意見は何かと過激だし、すぐにとんでもなく的の外れたとんでもない発言をしがちなのも、政治的には欠点だ。しかし11月の本選間際に米国本土で、イスラム過激派による大規模攻撃が起きたら? それは大統領選の行方に大きく影響するだろうか?

間もなく答えが出るのかもしれない。

フロリダ州オーランドのゲイ・ナイトクラブで乱射事件を起こした容疑者は、アフガニスタン移民の子供で、いわゆる「イスラム国」(IS)に「忠誠を誓った」ようだと広く報道された。するとトランプ氏はたちまち、ツイッターで反応した。

「イスラム過激派テロについて正しかったと、おめでとうと言ってくれてありがたい。おめでとうはいらない。タフに警戒してほしい。頭がよくないと!」とトランプ氏はツイートした。

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画像説明, 「イスラム過激派テロについて正しかったと、おめでとうと言ってくれてありがたい。おめでとうはいらない。タフに警戒してほしい。頭がよくないと!」とトランプ氏はツイートした。

トランプ氏のツイートはだいたいそうだが、支持者はこれを称賛し、反対する人たちは激しく非難した。同性愛者の権利のために活動する米俳優ジョージ・タケイさんは次のように反応した。

「ドナルド、どうして君が僕たちの指導者になってはいけないか、またしても自ら示したね。50人が死んだのに、おめでとうと言われる自分に浸ってるんだ」とジョージ・タケイさんは非難した。

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画像説明, 「ドナルド、どうして君が僕たちの指導者になってはいけないか、またしても自ら示したね。50人が死んだのに、おめでとうと言われる自分に浸ってるんだ」とジョージ・タケイさんは非難した。

オバマ米大統領は事件を受けて短く演説し、事件を「テロ(恐怖)とヘイト(憎悪)の行為」と呼んだ。さらに、「他人を撃てるようになる武器がいかに簡単に手に入るか」あらためて認識させられる事件だったと述べた。トランプ氏はこれにも反応し、大統領を批判。共和党候補になるまでの原動力となったレトリックを繰り返した。

オバマ氏は「イスラム過激派」という言葉さえ使わなかったと指摘し、それを理由に辞任すべきだと主張したのだ。

「大急ぎでタフで賢くならいと、我々はこの国を失ってしまう。この国の指導者たちが弱いから、こういうことになると言っただろう。今後さらにひどくなるだけだ。私は人命を救って次のテロ攻撃を阻止しようとしている。いつまでもポリティカリー・コレクトでいられるような余裕は、もうない」

この言葉がいったい何を意味するのかは、受け手の想像力しだいだ。銃撃犯とされるオマール・マティーン容疑者のような、ムスリム(イスラム教徒)移民2世は、特別の身辺調査を受けるべきなのか? トランプ批判者はもちろん最悪の事態を想定するし、トランプ支持者は最高の事態を想像するはずだ。

トランプ氏はさらに、クリントン氏について「中東からの入国を劇的に増やそうとしている」と批判し、それだけの人数の「身元調査をして、費用を負担し、次世代が過激化しないようにする」など米国にはできないと強調した。クリントン氏は、シリア難民6万5000人の米国定住を支持している。

「ヒラリーとオーランドを応援する」とプラカード。

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画像説明, 「ヒラリーとオーランドを応援する」とプラカード。同性愛のシンボル、レインボーカラーと共に。

これに対してクリントン氏も、事件を受けて声明を発表。オバマ氏の声明とほとんど合致する内容だった。

クリントン氏はフェイスブックで、「国の内外からの脅威に対して防衛努力をあらため強化しなくてはならない。それには国際テロ組織を倒すことだ。どこにいようと同盟国や協力国と共に追跡し、あちこちで人材を新規勧誘するのを阻止し、この国の守りを堅固にしなくてはならない。それは同時に、決して脅えたりせず、自分たちの価値観に忠実でいることをも意味する」と書いた。

さらに、LGBT(レズビアン、ゲイ、バイセクシュアル、トランスジェンダー・トランスセクシュアルの性的少数者)の人たちに対して、自分は味方だと強調。銃規制強化をあらためて求め、「戦争の武器はこの国の市街地にあってはならない」と強調した。

選挙戦を通じてクリントン氏は、銃規制を主要論点に掲げ、民主党の対立候補、バーニー・サンダース上院議員(バーモント州選出)と明確な差を打ち出すことに成功してきた。最新のコメントは、銃規制を国家安全保障の問題の一環に組み込んで自らの立場を明示しようとするものだ。

動画説明, オーランド乱射 武器入手があまりに簡単な社会で

しかしオバマ氏も連邦議会の民主党も、この戦略で成果を出せていない。昨年12月のカリフォルニア州サンバーナディーノの銃撃事件の後、大統領も議会民主党も同様の論法で銃規制強化を推進しようとしたのだが、奏功していないのだ。銃規制は、少なくともこれまでは、民主・共和の党派対立が最も強固に固定している分野だ。

二大政党の大統領候補になる見通しの2人が、事件後の声明やソーシャルメディアの投稿で、真っ向から相対立する内容を主張した。これによって、移民問題と過激派の攻撃と銃規制が、本選の主要論点となったわけだ。

トランプ氏はこれまでひっそり静かに、ムスリムの米国入国一時禁止という主張から距離を置きつつあった。それが今回の事件を受けて、あらためてはっきりと主張しはじめた。自分の先見の明がいかに優れていたか自慢するほどに。

「オーランドでの出来事は始まりに過ぎない。この国の指導者は弱くて無能だ。私ははっきり指摘し、(入国)禁止すべきだと主張した」とトランプ氏はツイートした。

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画像説明, 「オーランドでの出来事は始まりに過ぎない。この国の指導者たちは弱くて無能だ。私ははっきり指摘し、(入国)禁止すべきだと主張した」とトランプ氏はツイートした。

カリフォルニア州予備選に勝った7日夜、トランプ氏のスピーチはもっぱら経済の話題に終始したほか、13日の演説でクリントン氏を攻撃するつもりだと予告を繰り返した。

その13日の演説のテーマは今となっては「このテロ攻撃と移民と国家安全保障問題」になる。

オーランド銃撃を受けて米国民は、今までのやり方ではもう無理だと判断する――というのが、トランプ氏の計算のようだ。国境警備強化と不法移民排斥について自分が掲げてきた前例のない提案のおかげで、自分はクリントン氏より有利な立場にあると。クリントン氏は穏健な対応を呼びかけ、オバマ氏の外交政策の継続と銃規制強化を推進してきたのだから。

つい昨日までは、大統領選がこのような対立軸で決まるなど、単なる机上の空論にすぎなかった。それが今では、非常に現実的な展望となってきた。

(英語記事 Will Orlando shooting swing election for Trump?)