【米政権交代】 トランプ次期大統領、FBI長官に元側近を指名 適格性めぐり懸念の声も

キャッシュ・パテル氏

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アメリカのドナルド・トランプ次期大統領は、連邦捜査局(FBI)の長官に、FBIを批判してきた元側近のキャッシュ・パテル氏を指名すると決めた。自身のソーシャルメディアで11月30日に発表した。パテル氏はトランプ氏の熱心な支持者で、第1次トランプ政権で国防総省高官を務めた。ただ、必要な経験が不足しているなどと懸念する声も上がっている。

トランプ氏は自分のソーシャルメディア「トゥルース・ソーシャル」への投稿で、「キャッシュは優秀な弁護士、捜査官、『アメリカ・ファースト』の闘士だ。汚職を暴き、正義を守り、米国民を守ることにキャリアを費やしてきた」と説明。「真実、説明責任、憲法の擁護者」だと付け加えた。

パテル氏はインド系移民の家庭に生まれ、弁護士や連邦検事を務めた。2017年に下院情報委員会の上級顧問となり、トランプ氏の目に留まった。

2019年に国家安全保障担当の補佐官としてトランプ政権入りし、翌年には国防長官の首席補佐官に任命された。

パテル氏はかねて、いわゆる「ディープ・ステート」と呼ばれるものを激しく非難してきた。これは、選挙で選ばれていないにもかかわらず、邪悪な目的のためにひそかに国を動かしていると、その存在を一部のアメリカ人が信じている、秘密の官僚機構を意味する。

パテル氏は主要メディアについても強く批判しており、「アメリカがこれまで目にしたことのない最強の敵」と呼んでいる。また、「米国民に関してうそをつき、ジョー・バイデンの大統領選挙不正操作に手を貸したメディア関係者を、これから追及する」とも発言している。

パテル氏は、トランプ氏の「トゥルース・ソーシャル」を所有する企業「トランプ・メディア・アンド・テクノロジー・グループ」の役員となっている。同社とコンサルティング契約を結び、少なくとも年間12万ドル(約1800万円)の報酬を得ていると報じられている。

パテル氏がFBIの新長官になるには、現職のクリストファー・レイ長官が辞任するか、解任されなくてはならない。

レイ氏は2017年に、当時のトランプ大統領(1期目)によって長官に任命された。任期は通常どおり10年だった。

トランプ氏の機密文書の取り扱いをめぐる司法省の捜査にFBIが協力したことで、レイ氏はトランプ氏に嫌われたとみられている。トランプ氏は捜査の末に訴追されたが、連邦控訴裁が先月末、検察側の要請を受けて起訴を棄却した。

今回のトランプ氏の発表を受け、FBIは声明を発表。「FBI職員は日々、増大する脅威からアメリカ人を守るために働き続けている」、「レイ長官が注力するのは引き続き、FBIの職員のこと、一緒に仕事をする仲間のこと、そして国民のことだ。FBIは、国民のために働いている」と述べた。

両党議員から賛否

パテル氏のFBI長官就任には、上院の承認が必要となる。ただ、民主党だけでなくトランプ氏が所属する共和党からも、パテル氏が世論を分断すると警戒される可能性がある。

パテル氏は過去に、FBI権限を「劇的に」制限することを提案している。回顧録「Government Gangsters(政府のギャング)」では、FBIの「上層部」をクビにすることで、FBI内にある「政府の専制政治」を根絶するよう求めている。

パテル氏の指名が発表されると、両党の議員から、現職のレイ長官を支持する声が上がった。

マイク・ラウンズ上院議員(共和党、サウスダコタ州)は1日、米ABCニュースの番組で、「(レイ長官と)非公開の場で対面してきた。その際の長官の対応に何の問題もないし、その仕事ぶりに全く不満はない」と述べた。

現在の民主党政権のジェイク・サリヴァン大統領補佐官(国家安全保障問題担当)も同日、米NBCの番組で、レイ長官はトランプ前大統領の任命だったが、ジョー・バイデン大統領は「解任しなかった」と説明。「私たちはそういう対応を取ってきた。今後もFBIが政治から切り離された独立機関であり続けることを保証したい」と話した。

同じ番組では、クリス・マーフィー下院議員(民主党)が、「キャッシュ・パテルは共和党議員を守ることにしか興味がなく、アメリカ国民全員を守ることには関心を持たないだろう」との心配しているとした。

他方、共和党議員の中には、パテル氏を熱く支持する人もいる。

マイク・ジョンソン下院議長は、「キャッシュ・パテルは国家安全保障と情報活動の分野で豊富な経験がある。『アメリカ・ファースト』の愛国者で、FBIにぜひとも必要な変化と透明性をもたらすはずだ」と述べた。

一方、FBIや司法省の元職員らからは、国内55支局にいる職員3万7000人に加え、350出張所と60以上の外国拠点で200カ国近くをカバーするFBIの長官を務めるには、パテル氏は経験がなさすぎると声も出ている。

麻薬取締局の局長も指名

トランプ氏はほかに、麻薬取締局(DEA)の局長にフロリダ州ヒルズボロ郡のチャド・クロニスター保安官を指名する予定だと発表した。就任には上院の承認が必要。

公式の経歴書によると、クロニスター氏はフロリダ州の警察当局で32年間働いてきた。2017年にヒルズボロ郡の警察トップに就いた。

チャド・クロニスター氏と妻ニッキー・デバルトロ氏。2020年にニューヨークを旅行した際に撮影したとされる

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画像説明, チャド・クロニスター氏と妻ニッキー・デバルトロ氏。2020年にニューヨークを旅行した際に撮影したとされる

トランプ氏はソーシャルメディアで、クロニスター氏の経験を称賛。自らの新政権は麻薬と国境の問題に力を入れる考えを改めて強調した。

クロニスター氏はソーシャルメディアに、トランプ氏から「指名されたことは一生に一度の名誉だ」と書き込んだ。