温室効果ガスの各国削減目標、危険回避には不十分=国連

マット・マグラス、環境担当編集委員

emissions

画像提供, Getty Images

画像説明, 排出される温室効果ガス。現在の各国の削減目標では状況を早期に改善できないと、国連は訴えている

温室効果ガスの排出削減に関する各国の計画は、危険な気候変動を回避するには不十分――。国連環境計画(UNEP)がそうした報告をまとめた。

報告書「Emission Gap Report」は各国の目標について、地球の工業発達以前からの気温上昇を今世紀中、摂氏1.5度までに抑えることにつながらないと指摘。

気温上昇は約2.7度に達する見通しで、非常に破壊的な影響を生むとしている。

一方で、長期的なネットゼロ(温室効果ガスの実質ゼロ)が実現されれば、気温上昇を大幅に抑制できる望みがあるとした。

31日からは英グラスゴーで、国連気候変動枠組条約第26回締約国会議(COP26)が開かれる。その直前に公表された今回の報告書について、国連のアントニオ・グテーレス事務総長は、「雷鳴のようにとどろく新たな警鐘だ」と述べた。

Glasgow

画像提供, Grantham Climate Art Prize 2021

画像説明, COP26が開催される英グラスゴーの壁画

世界気象機関(WMO)は今週、温室効果ガスの昨年の排出について、新型コロナウイルスのパンデミックがあったにもかかわらず、過去最大だったとする調査報告を公表した。

今回で12年目となるUNEPの報告書は、COPを前に120カ国が国連に提出した2030年までの自主削減目標(NDC)を検討。加えて、NDCに含められていない温室効果ガス削減の取り組みも勘案した。

その結果、すべての削減計画を合わせると、2030年には温室効果ガスの排出が、5年前の計画に比べて約7.5%減るとの結論に至った。

ただ、気温上昇幅を1.5度までとする目標には遠く及ばないと、報告書をまとめた科学者たちは説明している。

1.5度の目標を達成するには、2030年時点での温室効果ガスの排出を、従来の計画より55%減らす必要がある。そのためには、現在の計画の目標レベルを7倍にアップさせなくてはならない。

drought

画像提供, Getty Images

画像説明, 気候変動は干ばつの原因にもなっている

<関連記事>

UNEPのインガー・アンダーセン事務局長は、「地球の気温上昇を1.5度に抑えるには、8年で温室効果ガス排出をほぼ半減しなくてはならない。8年以内に計画を立て、施策を整備して実施し、最終的に削減を実現しなくてならない」と話した。

「時間が音を立てて迫っている」

UNEP報告書の作成者らによると、現在の目標では気温上昇が今世紀中に2.7度に達する。グテーレス国連事務総長は、そうした状況を「気候大災害」と呼んでいる。

グテーレス氏は今回の報告書によって、政治指導者の怠慢が際立ったとしている。

同氏は報告書の公表に当たり、「排出をめぐるギャップは、リーダーシップのギャップが生んだものだ」と主張。

「だが指導者たちはこの機会を、気候大災害への転換点ではなく、より環境負荷の少ない未来に向けた転換点にできる」とした。

グテーレス氏が唱えたとおり、報告書には希望が感じられる部分もある。

fire

画像提供, Getty Images

画像説明, 米カリフォルニアの山林火災は気候変動によって悪化している

約50カ国と欧州連合(EU)が、今世紀中頃までのネットゼロを目標に掲げている。

それらは温室効果ガス排出の半分以上をカバーするものだ。

UNEP報告書は、この目標が完全に実現されれば、2100年までに気温上昇を0.5度低下しうるとしている。それにより、地球の気温レベルを2.2度下げることにつながる。

問題なのは、ネットゼロの目標の多くがあいまいなことだと、報告書の作成者らは指摘する。特に富裕20カ国の長期計画は、かなり漠然としたものだという。

多くの国が大規模な削減を2030年以降に延期している。そのため、20年後にネットゼロを本当に実現できるのか、深刻な疑義が生じている。

別の明るい兆しは、メタンに関係するものだ。地球温暖化の2番目に大きな原因となっているメタンの排出について、改善の可能性が大きいと、報告書は記述している。

化石燃料、ごみ、農業によって排出されるメタンの最大20%は、低コストまたはコストをまったくかけずに抑制しうるという。

drought

画像提供, George Rose

画像説明, 雨不足により多くの場所で水位が低下している

しかし、世界が新型ウイルスから立ち直ろうとしている中で、環境負荷がより小さな世界を作ろうという機運は失われる恐れがあると、報告書は訴えている。

立ち直りのための投資の約20%が、再生可能エネルギーや、環境にやさしいグリーン経済を支えることになるという。

「新型ウイルス感染症の打撃からの経済回復に巨額が使われるのは、炭素排出を抑えるテクノロジーと産業を促進するうえで、またとない機会だ。だがほとんどの場合で、この機会は生かされていない」と、英オックスフォード大学の経済回復プロジェクトの責任者で、UNEP報告書の作成に加わったブライアン・オキャラハン氏は言う。

「これは、気候変動のもっともひどい影響を受けている脆弱(ぜいじゃく)な国々にとってとりわけ侮辱的なことだ。(中略)排出が最も多い国々は、世界に与えた損失と損害に対する補償について約束しないままだ」

(英語記事 UN emissions report a 'thundering wake-up call')