イギリスで介護施設の死亡急増、政府は病院以外の死者数も発表へ 新型ウイルス

ニック・トリグル、健康担当編集委員

A woman in a care home

画像提供, Getty Images

イギリスでは4月半ばの時点で、新型コロナウイルスのためイングランドとウェールズで死亡した人の3割が介護施設で亡くなっていることが明らかになった。国家統計局(ONS)が28日、発表した。

ONSによると、4月11日から17日までの間に新型ウイルスによる感染症「COVID-19」のため、イングランドとウェールズでは2000人が介護施設で死亡した。前週の2倍の人数だという。

新型ウイルスのパンデミック(世界的流行)が始まって以来、イングランドとウェールズの介護施設でCOVID-19のため死亡した人は3096人に達した。

マット・ハンコック英保健相は28日、新型ウイルスの検査を、イングランドのすべての介護施設の利用者とスタッフに実施すると述べた。無症状の人も対象にするという。

首相官邸で毎日行われている新型ウイルス関連の定例会見で、ハンコック氏は「試験運用が成功したので、介護施設の無症状な入居者とスタッフにも、そして国民保健サービス(NHS)の患者とスタッフにも、ウイルス検査を実施する」と説明した。

65歳超の人や、社会生活維持に不可欠な職務のため通勤を余儀なくされている人は、症状が出ていれば全員が検査を受けられるようになるという。

保健相はさらに、政府は29日から、毎日発表する死者数に介護施設や家庭など地域での死者数も加えることにしたと明らかにした。政府データに「できる限りの透明性を提供する」ためという。

イギリス政府がこれまで公式の死者数として発表していた数字は、病院で死亡した人数のみだった。

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画像説明, .イングランドとウェールズにおけるCOVID-19による日別死者数。赤が病院での死者数、黄色が介護施設

イギリス全土の病院でCOVID-19のため死亡した人の数は28日、2万1678人に達した。1日の死者数は586人で、この数は4月8日を境に減り続けている。

ただし、今月24日までの予測を見ると、介護施設での死者は増え続けている様子がうかがえる。

イングランドとウェールズに加えて、北アイルランドとスコットランドでも4月半ばまでに介護施設で630人がCOVID-19で死亡したとされている。

今では北アイルランドとスコットランドでCOVID-19によって死亡する人の半数近くが、介護施設の入居者だという。

「本当の最前線」

イングランド北部の介護施設を代表する団体「Independent Care Group」のマイク・パジャム氏は、今では介護施設こそが新型ウイルスとの戦いの「本当の最前線」になったと話す。

「ひどい被害だ。大切な人、母親や父親、兄弟姉妹、おじやおば、友人たちが、本来より早く失われている」

官邸会見では、国内の検査体制を調整する疫学の専門家、ジョン・ニュートン教授(マンチェスター大学)が、介護施設での感染について集中的に調査しした結果、ウイルス陽性でも無症状の人が相当数いたため、介護施設での検査を拡大することにしたと説明した。

イギリス政府の新型ウイルス対策について様々な批判が続くなか、介護施設での検査不足や、スタッフの防護具不足も繰り返し指摘されていた。

政府は4月半ばになってやっと、症状の出ている入居者全員を検査すると方針を変更。今では陸軍が、防護具の配布に協力している。

しかし、首相官邸はパンデミック初期から介護施設の家族面会を禁止するなど、感染対策に取り組んできたと強調している。

ハンコック保健相は28日の会見で、今後は政府の感染対策で介護施設が最優先されるようになるのか質問されると、「介護施設は最初から、最優先課題だった」と返答。「介護施設にまつわる規則を強化し、感染予防態勢も強化し、介護分野全般に検査が行き渡るようにした」と述べた。

自宅での死者数報告は実際より少ないのか

イギリス政府が連日発表する日別の死者数には、介護施設で死亡した人は含まれていない。

これに対して、ONSは各地の死亡診断書をもとにCOVID-19による介護施設での死者数を追跡している。ただし、政府が連日発表する病院での死者数に比べると、死亡届からの集計は遅くなる。

ONSの統計は週ごとに発表され、新型ウイルス陽性と判定された人だけでなく、感染が疑われた人数も含まれる。

さらに、ONSは例年の同時期の平均死者数と、今年の数字の違いを比較している。

4月10日までに、イングランドとウェールズの介護施設でCOVID-19が原因で死亡したと届出のあった人数は、1000人超だった。その翌週にはさらに約2000人の届出があり、17日までに3096人に達した。

イングランドの介護施設から死亡診断書を受け取る委員会によると、18日から24日までの1週間では、介護施設の死者数はさらに増えたとみられる。

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同様の傾向が北アイルランドとスコットランドでも見られている。

しかし、こうした数字も実態よりは少ないものかもしれない。

介護施設で死亡する人の総数は、パンデミック以前に比べて3倍になっている。

増えた人数のうち、新型コロナウイルス関連だとされているのは半数未満だ。

最大野党・労働党のリズ・ケンドル影の社会福祉相は、新型ウイルスが介護施設に「壊滅的な打撃」を与えているのは明確だと指摘。「この問題に対処するため早急な行動が必要だ」と述べた。

イギリス全体で見ると、病院内外であらゆる理由で亡くなる人の総数は、例年のこの時期の倍に達している。

この数字からはパンデミックの間接的な影響の規模が明らかになるため、追跡することは重要だと政府顧問たちは話す。新型ウイルスによる死者だけでなく、パンデミックの余波で十分な介護や治療が受けられなくなり死亡する人も含まれるからだ。

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画像説明, 過去5年平均の週別死者数(灰色線)と今年の死亡届の数(赤線)

今月11日から17日までの1週間で、イングランドとウェールズで亡くなった人の総数は2万2000人超と、記録をとり始めた1993年以降で最多となった。

北アイルランドとスコットランドの死者数を加えると、死者の総数は2万5000人近くになる。

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画像説明, イングランドとウェールズで週ごとに積算される死者総数の比較。灰色線が5年平均、赤線が今年。今年の死者数はパンデミック以前は過去5年平均を下回っていた

しかし、BBCの統計調査担当、ロバート・カフ記者によると、これでも全体像はまだ分からないと言う。

「この週ごとの死者数からは、何年の寿命が失われたのかが分からない。今回の感染拡大で死亡した中には、本当ならあと何年も生きたはずの人もいれば、COVID-19がなくても数カ月以内に亡くなっただろう人も含まれる」

「その全体像を理解するには、2020年の死者総数がどう変化を見なくてはならないが、その分析ができるようになるのはかなり先のことだ」

(英語記事 Coronavirus: Care home deaths up as hospital cases fall)